22.魔界剣豪編(前編)
「何で……あなたなら助けられたでしょ!?」
「……」
「やめなよ〜こいつだって傷ついてるんだよ?殺したくて殺したわけじゃないんだしさぁ」
「そうだ……仲間思いな子なんだよ。お前の気持ちも分かるが、ここは抑えてくれ。な?みんなで飯でも食おうぜ」
「……何が仲間思いだ。そういう偽善者ぶったところが、昔からずっと嫌いだった。もう二度とその顔、見せないで」
「待って! ……ちょっと追いかけてくる。お前も一緒に来るだろ?エレントス」
◇ ◇ ◇
「……様、ラジア様!」
セシアはソファに座ったまま眠っているラジアへ声をかけた。
「あ〜、どうしたの?」
「どうしたの、じゃありません!依頼人が来ているのに、いつまで寝ているんですか!」
「ごめんごめん!」
ラジアは慌てて姿勢を正した。セシアもその隣へ腰を下ろす。
「それで、依頼内容は何かな?」
ラジアは向かいのソファに座る男性へそう問いかけた。
「実は……ある人を捜してほしくて」
「OK!人捜しね。楽勝だよ」
「まあ、魔法がありますもんね」
「……僕も連れて行ってもらえませんか?一刻も早く会いんです」
男性はそう言うと、一枚の写真を取り出して机に置いた。そこはカフェでの一枚であり、真ん中に一人の女性が写っていた。
「もちろんです!みんなで行きましょう!」
セシアは元気よくそう答えた。
「魔法を使うのは僕だけどね〜」
「頑張ってください!」
「君は、そういう魔法使えないの?」
ラジアは写真を手に取りながら立ち上がった。
「私は昔から攻撃的な魔法しか使えませんよ」
「脳筋じゃん」
「失礼ですね。私はか弱い王女ですから」
「どこが?」
ラジアは苦笑しながら目を閉じた。
「人捜しの魔法」
ラジアはそう唱えると、すぐに目を開き、笑みを浮かべた。
「……何の魔法?」
男性は小さくそう呟いた。
「便利ですね。私も使ってみたいです」
「君にも捜したい人がいるのかな?」
「……写真がないので、無理ですね」
セシアは少し寂しそうに笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、行ってみよう」
ラジアの言葉を合図に、三人は歩き出した。
◇ ◇ ◇
「この女性は、どなたなんですか?」
歩きながら、セシアは男性へ尋ねた。
「僕の彼女です……一週間前から連絡が取れなくて。家にも職場にもいなかったんです」
「それじゃあ、魔衛隊も動かないか〜」
「魔衛隊、不動すぎません?」
セシアは少し呆れたように言った。
「最近、彼女さんの様子に何か変わったことはありませんでしたか?」
「えっ……いえ、特に変わった様子は」
「ふーん」
ラジアは男性をじっと見つめた。
「……何ですか?」
「君にも、こんな綺麗な彼女がいるんだなって」
「ちょっと!失礼ですよ!」
「……はは。不釣り合いですよね」
男性はそのまま視線を落とした。
「気にしてるじゃないですか!何を言ってるんですか、ラジア様!」
セシアは慌てて男性を気遣った。だが、男性は笑っているようで、その表情はどこか怯えているようにも見えた。
「……?」
「二人とも、着いたよ」
二人がラジアの声に顔を上げると、目の前には古びた廃ビルが建っていた。
「ふざけてるんですか!?」
セシアは思わずラジアの足を軽く蹴った。
「いやいや、ここだよ。間違いない」
「何で!……入りましょう」
男性は迷いなくビルへ足を踏み入れた。
「本当に入るんですか!?」
「何?ビビってるの?」
ラジアはからかうように笑った。
「ビビってません!でも、こういう場所は不用意に入らない方が良いんです!それに――」
「依頼だからね。行くよ〜」
ラジアはそう言うと、セシアの腕を引いてビルの中へ入った。
中は薄暗く、ところどころ床が抜け落ちている。蜘蛛の巣が天井から垂れ下がり、積もった埃が足元で舞い上がった。
「そういえば、さっきの男性は?」
セシアが辺りを見回した、その瞬間――
「危ない!」
ラジアの叫び声が響いた。セシアが振り返ると、男性がナイフを振り下ろそうとしていた。
「……ごめんなさい!」
男性はそう叫んだ。だが、セシアは身をひねり、そのままナイフを蹴り飛ばした。ガラン、と金属音が廃ビルに響いた。
「鎖で拘束する魔法」
セシアがそう唱えると、無数の鎖が現れ、男性の身体に巻き付き、そのまま床へ押し倒した。
ラジアはゆっくりと歩み寄り、落ちたナイフを拾い上げた。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です!何となく、分かっていたので」
セシアがそう答えると、ラジアは微笑んだ。
「あれ、君も気づいてた?」
「ええ。あの人、誰かに脅されていたみたいですね」
セシアは拘束された男性へ歩み寄った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
男性は目を閉じたまま、震える声で謝り続けていた。
「君を脅していたのは、誰だい?」
ラジアがそう問いかけた瞬間――
「ドゴォォォン!!」
轟音とともにビル全体が激しく揺れた。




