21. ユイスの恋愛エピソード
「……誰もいませんよね?」
夜、セシアは警戒しながら廊下を歩いていた。手には懐中電灯が握られている。
(また地下から変な音がして寝られない!私は気になったらすぐ行動するタイプだから……行ってみよう!)
セシアは地下へ続く階段をゆっくりと降りた。懐中電灯で辺りを照らす。その光が奥を照らした瞬間、一人の男が立っていた。
「ひいいいぃぃ!」
「あ、あんたこの城に住んでる人だよね?」
その男は、以前ミレカに窓から放り投げられた魔族の男だった。
「あなたは……クソ雑魚乞食の魔族じゃないですか!驚かせないでください!」
「いや、ぶっ飛ばすよ?」
「ミレカに言われたじゃないですか!懲りてないんですか?」
「悪いとは思ってるけどさぁ」
男はそう言って頭を掻いた。
「お金がないんですよね?」
「うん、そうだよ。お金くれんの?」
その言葉を聞いたセシアは、懐中電灯で男の頭を軽く叩いた。
「痛い痛い……!この城は、暴力的な人しかいないのか!?」
「お金が欲しいなら働いてください。働けないわけではないでしょう?」
そう言われると、男は気まずそうに目を逸らした。
「お嬢さん、絶対に誰にも言わないって約束できる?」
「何ですか?」
「実は、お金はあるんだ。でも、この城にいるある人が好きで、会いに来てるだけなんだ……」
「そういうことですか!……まあ、それなら協力するのもやぶさかではありませんよ!それで、誰なんですか?」
(……いや、待って。この城にいる人って私含めると、四人しかいないじゃん!それじゃあ……)
「ミレカさんだよ……!」
男は恥ずかしそうにそう答えた。
「えええぇぇ!」
「ちょ、声が大きい!夜中なんだから静かに!」
「あっ、申し訳ございません!そうですか、ミレカが好きなんですか……無理ですね!お疲れ様です!」
セシアは満面の笑みを浮かべた。
「どういう意味だよ!ミレカさんは俗に言うツンデレで毒舌キャラなんだよ。そういうところが可愛いんだよなぁ」
「うわぁ、気持ち悪〜ストーカーさんですか?」
「あんた、俺のこと舐めてるよね?」
男はそう言うと、眉をひそめた。
「でも、知り合いみたいでしたよね?」
「ああ。俺とミレカさんは幼馴染なんだ」
「ええぇぇ!?何ですか、その都合のいい展開!お母さん許しませんよ!こんなチャラい男性!」
「あんたはミレカさんのお母さんじゃないでしょ……」
セシアは男の隣に腰を下ろした。
「まあ、名前だけは聞いてあげますよ?」
「ハハ……俺はユイス。あんたは?」
「私はセシア・プレーセスと申します」
「プレーセス?なんか聞いたことあるなぁ」
セシアが立ち上がろうとすると、ユイスは慌てて呼び止めた。
「待って、待って!これ見て!」
ユイスはポケットから一枚の色褪せた写真を取り出した。そこには、少女と少年が指切りをしている姿が写っていた。
「この女の子、誰ですか?どことなくミレカに似ているような。もしかして……」
「そう。この女の子がミレカさん。そして、このイケメンで可愛さも兼ね備えた男の子が俺だ」
「自己肯定感高いですね。言うほどじゃないですけど〜?」
「俺は君より顔がいいけどね〜」
ユイスは得意げに言うと、写真を見つめた。
「これ、何の約束をしてると思う?」
「……何でしょう?今度会ったら窓から放り投げる約束ですか?」
「うぅ、やめてよ……まだ気にしてるんだから。実は、大人になったら私と結婚して!って約束したんだ」
「し、信じられません!こんな男性に婚約を申し込むなんて!?」
「羨ましいか〜?」
「ちょっと羨ましいです!」
セシアはそう言ったあと、ふっと笑った。
「でも、子供の頃の約束ですよ?そういうものは大抵、叶わないことが多いんです」
「いや、俺は諦めない!ミレカの旦那さんになるんだ。ここまで聞いたんだから、あんたも協力してくれるだろ?」
「嫌です!まあ、ミレカには言いませんよ……可哀想なんで」
セシアはにっこりと笑った。
「あんた、モテなさそうだね」
「婚約なら何度も申し込まれたことがありますよ!でも翌日くらいには、みんな顔色を変えて逃げていくんですよね……」
「……それ、誰かが――」
その時、コツコツと階段を降りる足音が地下に響いた。階段を降りてきたのはミレカだった。
「誰かいますか?」
ミレカは懐中電灯で辺りを照らす。その光がセシアを照らした。
「王女様、何でこんな時間にここにいるんですか?」
「あ、申し訳ございません」
セシアはちらりとユイスの方を見た。
「……そこに誰かいるのですか?」
ミレカは懐中電灯を奥へ向けた。その先には、ユイスが立っていた。
「あ……こんばんは」
ユイスが苦笑しながら手を振った瞬間、ミレカは一気に距離を詰め、勢いよく飛び蹴りを叩き込んだ。
「ぐああぁぁ!」
ユイスは吹き飛ばされ、そのまま床へ倒れ込んだ。
「王女様、自室へ戻ってください」
ミレカは視線をセシアへ向けた。
「あ、でも……」
「戻ってください」
ミレカの圧に押され、セシアは素直に頷いた。
「は、はいぃ……」
こうしてセシアは、ユイスがその後どうなったのかも分からないまま、自室へ戻るのだった。




