13.魔界訪問編〜依頼〜(中編)
二人が店のソファに座っていると、扉が開いた。
「あの……結果は出ましたか?」
浮気調査を依頼してきた女性が、不安そうな表情で立っていた。
「出ましたよ!どうぞお掛けになってください」
ラジアの言葉を聞き、女性は向かいのソファに座った。
「……その前に、君はいくら支払えるかな?」
「お金ですか?……D金貨5枚ではどうでしょうか?」
女性が答えると、ラジアは微笑んだ。
「それじゃ単刀直入に言うね……君の夫は浮気をしている」
そう言って、ラジアは机の上に数枚の写真を並べた。そこには、一人の男性が女性と腕を組んで歩く姿や、二人でホテルへ入っていく様子が写っていた。
「……変身魔法を使っていますが、この男性が私の夫ということですよね」
女性はうつむき、肩を震わせた。
「大丈夫ですか?」
セシアがそう声を掛けた瞬間だった。
「う、うわぁぁぁん!」
女性は大きな声で泣き始めた。
「裏切られた……!裏切られた!殺す!殺してやる!」
「ハハ、やったげて〜王女さん!」
「えっ?」
「鎖で拘束する魔法」
セシアがそう唱えると、無数の鎖が現れ、女性の身体に巻き付き、そのまま床へ押し倒した。
「きゃっ!」
女性は勢いよく床へ倒れ込んだ。
「ヒュ〜やっぱり君の魔法は良いね。攻撃的で実に暴力的だ」
「それ、褒めてませんよね!?」
セシアがそう言った瞬間、店の扉が勢いよく開いた。そこには、女性の夫と、その隣にはカフェで会ったカップルの女性が立っていた。
「あなた!その女と浮気したのね!許さない……許さない!許さない!あなただけは私を分かってくれると思っていたのに!」
鎖に縛られたまま女性は叫んだ。
男性の隣に立つ女性は口を開いた。
「……もう彼につきまとうのはやめてください。彼は私の夫です」
その言葉に、ラジアは口元を緩めた。
「最初から気付いてたよ。君が見せてくれた写真、一見すると普通の写真だけど、実際は隠し撮りだったんだよね?それに夫の情報も異常なくらい詳しかった。どう考えてもストーカーだよ〜」
女性はラジアを睨んだ。
「……裏切ったんですね。私を」
「裏切ったつもりはないよ。ただ、向こうの方が条件が良かっただけさ」
ラジアがそう言うと、女性は笑った。
「生きて帰れると思わないことですね……お前ら全員」
その瞬間、女性は天井近くまで飛び上がった。床へ落ちた鎖は、焼き切られたように真っ二つになっていた。
「「火炎魔法」」
ほぼ同時に、セシアも詠唱し同じ魔法を放った。二つの炎は正面から衝突し、互いに相殺された。
「そんな……!」
だが、相殺しきれなかった炎が店内へ飛び散り、家具や床に燃え移った。店が激しく揺れ、炎が一気に広がっていく。
すると、男性の隣にいた女性が前へ出た。
「清流を導く魔法」
水流が放たれ、燃え広がる炎を次々と飲み込んでいく。やがて店内の火は、すべて消し去られた。
「綺麗な魔法だね〜どっかの加減を知らない王女とは大違いだ」
「黙ってください!」
「はぁ……」
女性はふらつき、その場でよろめいた。
「大丈夫か」
男性がすぐにその肩を支えた。
「本当にありがとうございました」
男性は深く頭を下げ、約束の報酬をラジアに手渡した。
「毎度あり~」
ラジアは笑顔でD金貨を受け取る。夫婦は互いに支え合いながら、店を後にした。
「はぁ……終わりましたね」
セシアは大きくため息をついた。
「お疲れさま~」
ラジアが笑うと、床に座り込んでいた女性が震える声で呟いた。
「ありえない……あんな魔法、見たことがない。あんなの、魔法じゃない……」
ラジアはしゃがみ込み、女性と目線を合わせた。
「大丈夫?」
女性はラジアを見つめる。
「……あの男は最低でした。浮気する男なんて大嫌いです。でも、あなたは違う。やっぱり私にはあなたしかいません。好きになっちゃったんです。今日から私はあなたの妻ですね!」
そう言って、女性はラジアの手を掴もうとする。しかし、ラジアはその手を振り払った。
「触んないでね〜僕には好きな人がいるから」
そう言ってラジアは振り返り、セシアを見た。
「何ですか?」
その様子を見た女性の表情が一変する。
「そうか……その女と浮気してるんだな!お前も今までの男たちと同じだ!許さない!死ね!死ね!死ね!」
女性はラジアへ飛びかかった。だが、その瞬間――
ドォンッ!!
凄まじい衝撃音と共に女性の身体が吹き飛び、店の窓を突き破って外へ叩き出された。
「何ですか!?」
店の入口には、一人の女性が立っていた。




