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最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


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第75章:英雄たちの派閥と、飽くなき出世競争

 大陸全土を飲み込むカトウ商事の拡大は、皮肉にも社内の組織図を激しく変貌させていた。


「サトオ、今回の隣国への物流ハブ設置。我が『第一物流軍団』が、予定より三時間早く魔導配送ベルトの敷設を完了させた。これによるコスト削減分、私の評価への加算を要求する」


 かつて世界を救った英雄バルドは、今や「カトウ商事・物流統括本部長」の座を狙う野心的な中間管理職となっていた。彼は手に剣ではなく、物流ルートの効率化を示した魔導計算盤を握りしめ、サトオのオフィスへ直談判に訪れる。


「……評価は認める。だが、メンテナンスコストが計画の二%上振れしている。ミア、お前の魔法でその歪みを修正しろ。それさえできれば、ボーナスと昇進を検討する」


 サトオは端末から目を離さず、淡々と裁定を下す。


 かつての仲間たちは、もはや「世界を救う」という大義を忘れ、サトオという名の経営者から与えられる「評価」と「昇進」に憑りつかれていた。

 

 オフィスの一角では、ミアが「配送速度の魔法付与効率」を巡って、魔法学校出身の若手社員たちと熾烈なプレゼン合戦を繰り広げている。


「貴様ら、そんな理論値では顧客の要求に応えられん! 配送時の風圧を利用した、魔導加速のプロトコルはこうだ!」


 ミアの冷徹な指摘に、若手社員たちは青ざめてメモを取る。彼女の目的は、もはや魔法の真理を探究することではなく、サトオの経営方針に基づいた「最高効率の魔導インフラ」を構築し、社内ランクを上げることのみにあった。


 その光景を、元宰相は窓の隙間から戦慄とともに見守っていた。


「……信じられん。伝説の英雄たちが、まるで薄給でこき使われる事務員のように、サトオの機嫌を取り合っている……」


「宰相、何をしている。16番の使節団の受付が終わったなら、次回の『大陸物流統括本部長』選考に向けた実績資料をまとめろ」


 バルドが鋭い視線を投げかける。宰相は、かつて自分が率いた帝国の誇りなど遥か彼方に押しやり、血走った目で膨大な書類を整理し始める。


「わ、分かっている……! 今期の目標達成率は、我が派閥がトップだ……!」


 サトオのオフィスには、今日も次々と「実績」という名の報告書が持ち込まれる。彼らは、かつて共に戦い、世界を守るために団結していたはずだった。しかし今、彼らを突き動かすのは、唯一無二の経営者であるサトオからの「承認」と、さらなる出世という名の麻薬だけである。


 サトオは部下たちの醜い派閥争いや、効率への執着を横目に、ただ端末で大陸全土の数値を睨んでいた。


 この男の傍にいる限り、彼らに戻れる場所などない。彼らは、サトオが構築する巨大な物流機械の歯車として、永遠に回り続けなければならないのだ。


「……バルド、ミア。次の視察は『レギオン商会』の残党狩りだ。営業効率の悪い拠点は、そのまま吸収合併する。準備しろ」


 サトオの一声で、かつての英雄たちは戦術を切り替える。彼らにとっての「戦い」は、もはや冒険ではなく、効率的な買収のための事務作業に過ぎなかった。


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