第74章:格付け査定と、消えたプライド
旧第4物流倉庫の待合室は、重苦しい沈黙に支配されていた。
番号札を握りしめた各国使節団の代表たちは、パイプ椅子に座りながら、互いの顔色を窺うことも忘れて、倉庫の中央に吊り下げられた巨大なホログラム掲示板を見つめていた。
サトオが最後に呼び込んだのは、個別の面談ではない。待合室にいた全員を一括して呼び出し、倉庫の広大な資材搬入口に整列させたのだ。
「これより、我が社との取引継続に関する『格付け査定』を発表する」
サトオの声が倉庫の空間に響き渡る。その背後には、冷徹な表情の宰相と、無言で圧力をかける魔王軍の幹部たちが控えている。ホログラムには、各国の国名と、それに対応するアルファベットが記された。
「……ランクSからDまでの四段階だ」
各国代表が息を呑む。
ランクSには、サトオの管理下に置かれた帝国が含まれていた。続くランクAには、物流網の維持を条件にカトウ商事の完全下請け化を受け入れた周辺国が数ヶ国。しかし、それ以下が問題だった。
「ランクC、ランクDに該当する国は、明日より『物流の完全遮断』を実行する」
会場がどよめいた。
「な、なぜだ! 我々も条件次第では従うと言ったはずだ!」
ある小国の王が叫ぶ。サトオは端末を操作し、その国の経済データを巨大な図解として壁面に投射した。
「条件? 君たちの提示した『融資の返済猶予』や『関税の免除』など、我が社の物流コストを圧迫するだけのゴミだ。ランクDに分類された国は、国家としての経済活動そのものが非効率の極みだ。これ以上、我が社の資源を浪費させるわけにはいかない」
サトオは冷酷に宣告する。
「ランクDの国は、今すぐ国家運営を停止しろ。王族と政府関係者は、カトウ商事の『物流改善研修生』として、弊社の地方倉庫へ配属する。そこで労働力として実績を積めば、将来的に『ランクC』への昇格、すなわち最低限の配給を受けられる資格を与える」
それは、国家の解体宣告だった。
会場にいた王や将軍たちは、自分たちが「国家の指導者」から「単なる低賃金労働者」へと格下げされた事実に、言葉を失った。
「抵抗する選択肢はあるぞ。物流路を物理的に遮断して、鎖国でも何でもすればいい。だが、翌朝には食糧も魔導燃料も底をつき、自国民の暴動で君たちの城は炎上するだろうがな」
サトオが端末を閉じると、倉庫の照明が一斉に赤く切り替わった。
「判断の時間は五分だ。この契約書に指印を押して『研修生』として働くか、それとも国家ごと死ぬか。……さあ、どうする?」
かつての栄光を纏った王たちが、プライドを捨てて次々と契約書へと歩み寄る。かつての敵対心も、尊厳も、すべてはカトウ商事の経営判断という名の天秤の前では塵芥に等しい。
宰相は、その屈辱的な光景を記録しながら、震える手で電卓を弾いていた。
この倉庫の待合室で、大陸の地図が、一人の商人のペン先によって書き換えられていく。そこにはもはや、英雄たちが守りたかった世界などどこにも残っていなかった。




