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最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


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第71章:本社機能の移転と無駄の断捨離

 帝国王宮は、数世紀の歴史の中でかつてない混乱の最中にあった。


「バルド、その金ぴかの装飾を施した巨大な柱は、構造計算上、無駄な重量だ。撤去しろ。ミア、ランタンの配線はサーバーラックの冷却システムに直結させろ。レイ、カーテンの在庫はすべて物流用梱包材にリサイクルだ」


 サトオの冷徹な指示が、大理石のホールに響き渡る。


 かつての英雄たちは剣ではなく梱包テープと魔導工具を手に取り、王宮という巨大な不動産を、機能的なオフィスへと強引に改装していた。


 宰相は、かつての自分の執務室が解体される光景を前に、青ざめた顔で立ち尽くしていた。


「……これはあまりに非道だ。数々の栄光を刻んだ我が帝国の歴史が、ただの倉庫の資材にされるとは!」


「歴史が利益を生むなら残したが、残念ながらここは負債の塊だ。宰相、君の私物はすでに段ボール五箱にまとめた。あそこの廊下の端に置いてあるから、搬出しておけ」


 サトオは一切の情を介さず、タブレット上で「王宮スペースの再最適化」というタスクリストを更新していく。


 王宮内では魔王軍が人間顔負けの器用さで、重い調度品を次々と運び出していた。彼らにとって、王宮の威厳など知ったことではない。雇い主の命に従い、指定された空間を最短距離で空にすることだけを目的として動く。


「急げ。ここは『カトウ商事・帝国本店』として機能させる。本物の玉座の場所は、帝都外れの旧第4物流倉庫だ。これより『帝国王宮』の機能はすべてそこへ移転させる」


 サトオの言葉に、宰相は耳を疑った。


「……倉庫に? 帝国の王宮を、帝都外れの、あの埃っぽい倉庫に移転させるというのか!」


「ああ。あそこは物流ハブとしての立地が最高だ。無駄に広い王宮に籠もっているより、効率的だろう。王族たちも、倉庫の二階にあるプレハブ宿舎へ移動した」


 その言葉通り、帝都の住民たちは信じられない光景を目撃していた。


 かつての絢爛豪華な王族たちが、段ボールを山積みにした馬車に揺られ、帝都の外れにある無機質な巨大倉庫へと「引っ越し」をさせられている。王家ゆかりの金銀財宝は、倉庫の事務室を仕切るためのパーティションとして並べられ、かつての御座所は、倉庫の片隅で「カトウ商事・帝国支店」の看板を掲げていた。


 王族たちは、ネズミが走り回る倉庫の片隅で、自分たちがただの「不要な什器」のように扱われている事実に絶句していた。高級な礼服を着た王族が、ダンボールを椅子代わりにして、慣れない書類整理に追われている。


 かつての帝都の象徴は、機能的かつ冷徹な喧騒とともに、世界最大級の商社の「本店」へと変貌を遂げた。王宮の重厚な石壁の内側では、今や歴史画の代わりに、大陸全土を飲み込むための営業戦略チャートが貼り付けられている。


 宰相は、自分の荷物が入った段ボール箱を抱えながら、倉庫の天井から垂れ下がる無機質な蛍光灯を見上げた。


 この男には「伝統」という概念すらコストカットの対象にすぎないのだ、と彼は改めて悟った。

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