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最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


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第69章:英雄の再会と再雇用

「……何をしているんだ、お前たちは」


 宰相の声が震えていた。ホールには絨毯が剥がされた無残な床が広がり、そこにはバルドが担ぎ込んだ腐葉土が山積みになっている。かつての伝説の魔法使いミアは高級な儀礼用ランタンを「風の通り道」として最適化するために設置し、レイは王宮のカーテンを切り裂いて、即席のブースを組み上げていた。


「バルド、キツイ冗談に付き合ってくれてありがとう」


 サトオは作業の手を止めず、淡々と言い放つ。


「宰相。君の判断の結果だ。これを受け取ってくれ」


 サトオが差し出したのは、騎士団の装備を物理的に圧縮して作った、硬質な立方体のブロックだった。


「これは……騎士団長の鎧……か?」


「ああ。鉄分と微量元素のくずだ。私への損害賠償は、この場所の占有をもって相殺しておく」


「……誰が許可した! ここは帝国の玉座の前だぞ!」


「そうだ。ここは帝国の心臓部だ。今の状況を客観的見て考えてくれ。」


「これは脅しではない。俺には何時でもここを好き勝手に作り変える力があるという事実の提示だ」


「その上で賠償の話をしよう」


「……賠償? 貴様、この期に及んで何を要求するつもりだ!」


 宰相の怒声に、サトオは商売道具であるタブレット端末を淡々と操作し、ホールの空間に巨大なホログラムチャートを映し出した。そこには帝国の主要港から流通網、そして国庫の現預金推移までが、無機質かつ残酷なまでの精度で図解されている。


「難しい話ではないよ、宰相。先ほどの騎士団による『業務妨害』によって、我が社の物流システムには約12億ゴールドの機会損失が発生した。さらに設備修繕費、信用毀損に対する慰謝料、君たちの警備要員を拘束した人件費を加算すれば、帝国の国庫を三度空にしても足りない計算になる」


 サトオは端末を閉じ、冷たい瞳で宰相を見据えた。


「もちろん、君たちにそんな現金がないのは理解している。だから、現金での支払いは求めない」


 背後では、ミアが最適化したランタンの青白い光が、王宮の威厳を冷笑するかのように揺らめいている。


「この玉座の間から半径三百メートルの空間、および帝国全土に広がる『治外法権の物流拠点』としての利用権。これを無期限で譲渡してくれ。それさえあれば、今回の騒動は『未払い金なし』として処理しよう」


「……国土の一部を割譲せよと言うのか! しかも帝国の心臓部を!」


「割譲ではない。あくまで『商務利用権』の確保だ」


 サトオは歩み寄り、震える宰相の肩を軽く叩いた。かつての仲間であるバルドが親しみを込めて行う動作と瓜二つだったが、今のサトオが放つ圧迫感は、もはや国家の主権を脅かす巨大企業そのものだった。


「選んでくれ、宰相。今ここで俺の提示する契約書に署名して、帝国を経済的に存続させるか。それとも、俺の物流網から完全に切り離され、明日からこの帝国のすべての流通をストップさせて、文字通り『何もできずに玉座で腐る』か」


 サトオは冷徹に言い放つ。


「商談だ。感情論は経営判断の邪魔にしかならない。……君の経営判断は?」


 かつての英雄たちを従え、玉座の隣で冷徹なビジネスを展開するサトオ(魔王)の姿に、宰相は悟った。この男にとって帝国という国家は守るべき故郷ではなく、ただの「コストと利益」を算出するための計算式に過ぎないのだということを。



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