第68章:英雄の再会、苦労人の再雇用
サトオが騎士団を砂に変えたその直後。会場の扉が勢いよく開き、バルド、ミア、レイが駆け込んできた。
「サトオ……! 無事か!」
三人は王家の兵を突き飛ばし、サトオの元へとたどり着く。しかし、彼らが目にしたのは、整然と鉄屑を並べ替え、何かを黙々と計測するサトオの姿だった。
「……バルドか。いいタイミングだ。ちょうど、この広大な空間を『苗床』として利用する案を思いついたところだ。人手が足りない」
「は? ……ここを苗床に?」
バルドの困惑など意に介さず、サトオは指を鳴らす。床に敷き詰められた最高級の絨毯を剥がし、その下に隠されていた大理石の床を魔法で微細に砕いて土と混ぜ合わせ始めた。
「王宮の床下には、かつてこの地を潤していた『古代の地下水脈』が通っている。この石材を粉砕して栄養価の高い肥料と配合すれば、ここほど『育成効率』が良い場所はない」
「おい、サトオ! ここは王宮のメインホールだぞ! そんなことしたら、あとでどんな罰を受けるか……」
「罰? ……非効率な装飾を剥がし、生産的な空間に変換することのどこに罰がある?」
サトオは魔法で会場の天井を一時的に解放し、外光を直接取り入れる構造へと作り変える。大理石の床は瞬く間に耕され、栄養たっぷりの黒土が運び込まれた。
「ミア、お前の風魔法で湿度の管理をしろ。レイ、お前の敏捷性なら、この範囲に等間隔で種を蒔くのは一瞬だろ。バルドは、この空間の結界を『温室』として再設定してくれ」
「……本気なのか」
「当然だ。帝国の中心地を農業特区にすれば、流通コストはゼロになる。君たちが来たおかげで、計画が三日早まった。感謝する」
困惑しつつも、かつての仲間たちは、サトオの瞳に迷いがないことを知っている。かつて冒険者として共に戦った信頼感と、今のサトオが持つ「他を寄せ付けない圧倒的な合理性」に圧倒され、彼らは溜息をつきながら作業に取り掛かる。
「……どうせやるなら、最高品質の米を作ろうぜ。ミア、風を強めすぎないように!」
「わかってるよ、レイ!」
王族たちは、自分たちの権威の象徴である大広間で、かつての英雄たちが必死に大根や米の世話をしている異様な光景に、怒りを通り越して眩暈を覚えていた。
「おい、あれは何だ……? なぜ、我が帝国の玉座の前で、農作業をしているのだ……!」
宰相の叫びは、ホールに響く水やりの心地よい音にかき消された。サトオにとって、王宮のホールはもはや権力の座ではなく、収穫の時を待つ「広大な室内農場」へと書き換えられていた。
「宰相!これは君の判断の結果だ。受け取りたまえ。私への損害は後ほど頂く!」




