第64章:(閑話 没予定)愛の告白と、土壌改良の誤解
クロエが企画した「お茶会」の会場は、彼女の邸宅の庭園だった。
しかし、招かれたカトウは、高級ティーセットには目もくれずにいた。
「クロエ嬢、いい庭だな。だがバラが美しいとか?、そんなものは結果論に過ぎない。この土の窒素バランスが崩壊している以上、その結論もここまでだよ。」
「あ、あの……カトウ様、お茶を……」
「お茶より先に窒素だ。いいか、貴族の庭園というのは、経済で言えば『遊休地』だ。実に非効率。今日からこの庭を、俺の色に改装しても良いか?。良ければ契約書だ、サインしろ」
カトウは、恋文の代わりとばかりに、分厚い「庭園管理委託契約書」を突きつけた。
クロエは頬を赤らめ、「これは……実質的な婚約指輪のようなものですわね!」と勝手に解釈してペンを取る。
「はい! もちろんですわ、カトウ様!」
「えっ?」
普通、断わるところだが…
クロエの使用人たちがパニック状態であたふたし始める。
そこへ、クロエの父であるヴァレンシュタイン公爵が通りかかった。
「クロエ! 何をしているんだ! 大事なバラ園が泥だらけではないか!」
公爵の怒声に、クロエはカトウを庇うように立ち塞がった。
「お父様、ダメですわ! これはカトウ様が私のために……私の庭を最高の実りの場にするために行ってくださっている『愛の共同作業』なのです!」
「あ? 『愛』だと?」
公爵の怒号などどこ吹、サトオは庭の坪単価と収益計算に没頭する。
「クロエ嬢、バラのような非効率な植物は即刻排除だ。明日からここは高収益な魔王領ハーブと米の複合庭園にする」
「はいっ! 私の全てを貴方に捧げますわ!」
カトウの経営論を「未来を誓うプロポーズ」と解釈したクロエは、陶酔して頷いた。
「おいクロエ! バラを潰すと言っているんだぞ!」
父である公爵が叫ぶが、彼女には愛の共同作業を邪魔するノイズにしか聞こえない。
「お父様、これはカトウ様による将来の完全管理。プロポーズに等しい行為ですわ!」
「肥料袋と契約書でプロポーズする男がどこにいる!」
「ここにいらっしゃいますわ!」
サトオは親子を無視し、土に鼻を近づける。
「貴族の庭は『愛着』という名の雑草が多すぎる。……君も立ちっぱなしで非効率だ。その裾を掴んで土を耕せ」
「はい、カトウ様! あなたとの共同作業……最高のデートですわ!」
クロエは純白のドレスで泥に膝をつき、必死に土を耕し始めた。
公爵の絶叫と失神する使用人を横目に、彼女は収穫を待つ幸せに頬を紅潮させる。
サトオはそんな彼女を冷徹に見つめ、ただ一言だけ呟いた。
「……土掘りが速いな。最低賃金で雇ってもいいか」




