第57章 かつての魔王軍、ただの除草作業へ
「……賊党の処理か。なるほど。俺が手を下すまでもない」
サトオは冷たくそう呟くと、指輪を操作し、彼方に存在する『旧魔王軍』の残存勢力へ信号を送った。
【指令:ターゲットID・現魔王軍の排除。以上。】
砦の魔王軍幹部たちが一斉に膝をつき、無機質な声で応答した。
「……了解した。主の命により、害虫を駆除する」
彼らにとって、旧知の仲間が看板を掲げている「現魔王軍」など、もはや同胞ではない。単なる「資源を浪費する害虫」に過ぎないのだ。
かつて魔力で村々を焼き払ったその力は、今は「最小限の魔力消費で、最大限に敵を無力化する」というサトオの効率論理に従い、より洗練された殺意へと変貌していた。
砦の深部から、静かな行軍が始まる。
かつての魔王軍幹部たちが影のように現れる。彼らの動きには迷いも、かつての狂信的な熱狂もない。あるのは、契約を守るための冷徹なプロトコルだけ。
「……あいつらは、まだ何も気づいていないのか」
現魔王の仲間が、ふと背後の気配に振り返った時、そこには数秒前まで存在しなかったはずの『旧魔王軍』の精鋭たちが立っていた。
しかし、彼らが纏うオーラは、かつての暴虐を誇る魔王軍のそれではない。
「……貴様ら、何者だ! 魔王軍の旗の下に、平伏せ……っ!」
賊党の一人が叫ぶ間もなく、幹部の一人が無造作に指を鳴らした。
空気が振動し、賊党たちが「暴力の象徴」として頼りにしていた魔力の供給が、サトオの構築した結界によって遮断される。
彼らは魔力を失った途端、ただの重たい鎧を着た案山子へと成り下がった。
「雑音は消去する」
幹部たちは淡々と、まるで雑草を引き抜くような手つきで、賊党たちを制圧していく。
森の中に、彼らの悲鳴すら響かない。すべては、サトオが定めた「食糧生産特区」の静寂を乱さないための、徹底的なサイレント・オペレーションとして処理されていく。
サトオはその光景を、遠巻きに確認し、小さく鼻を鳴らした。
「……効率が良い。これなら、今年の収穫量に影響が出ることもないだろう」
サトオは意識を戻しさらに先にある、次の調査地へと視線を向けた。背後で何が起きようと、彼にとっては庭の草むしりが終わるのを待つ程度の、些細な日常に過ぎなかった。




