第54章 閉鎖された聖域と、排除されるノイズ
盆地を出る直前、サトオは指輪を通じて、留守番を任せる者たちへ最後の通達を行った。
「……01、以後の管理は任せた。異常があれば即座にゲートで転送しろ。エレン、クルス。少し顔を出せ」
空間が微かに揺らぎ、エレンとクルスのホログラムがサトオの前に投影される。エレンは不安げに、しかし決意を込めた眼差しでサトオを見上げた。
「サトオ様……本当に行かれてしまうのですか? 盆地の警備は私たちが引き受けますけれど、もし『現魔王』が直接乗り込んできたら……」
「エレン、それは杞憂だ。俺が構築したこの結界は、認識そのものを阻害する。奴らがここを『盆地』だと理解する頃には、既に俺の米を食って手遅れになっているだろう」
サトオは冷徹に言い放つが、エレンの心配を察してか、付け加えるように言葉を続けた。
「……それに、何かあればすぐに帰還する。」
その言葉に、エレンは安堵したように微笑んだ。02は淡々と管理状況を報告する。
「サトオ様、現在の盆地防衛シールド出力は最大稼働中です。また、バルド様たちが依然として周辺を探索中ですが、全ルートを『ただの崖』へと誤認させています。……サトオ様、彼らの『帰還してほしい』という波長にはどう応答しますか?」
「……応答不要だ。彼らは俺の農耕計画において『ノイズ』に過ぎない。無視しろ」
02が短く「了解」と答え、通信が途切れる。
サトオは最後に、盆地の入り口で規律正しく整列するユニット01たちを一瞥した。01は軍隊式の敬礼を捧げ、背後の02から10までの9名もまた、泥にまみれながら一点の曇りもない瞳でサトオを送り出している。
「カトウ様、我らが至高の糧を守り抜きます。……ご武運を」
「ああ。せいぜい精を出せ」
サトオは踵を返し、森の出口へと歩き出した。
彼が背を向けた瞬間、結界はさらに密度を増し、物理的な岩壁として周囲の空間を閉鎖する。盆地の中では、01の号令と共に02から10の作業が再開された。
数キロ先。
道を見失い、ただの岩壁を呆然と見つめるバルドたちには、カトウが数分前までそこにいたことすら観測できない。
「……おかしい。痕跡が、ここで途切れている」
ミアが弓を下ろし、深く息を吐く。




