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最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


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第52章:魔王の亡霊と、至高の理

第3部 魔王編

 その夜、盆地の地下深くに設けられた指令室で、サトオは端末を叩きながら、ゼノス(ユニット01)に問いかけた。


「……ゼノス。お前たちがかつて所属していた『魔王軍』という組織は、結局のところ何だったんだ。俺から見れば、単なる中央集権型の非効率な軍事組織にしか見えんのだが」


 ゼノスは、かつて軍団長クラスの会議で座っていた椅子に腰掛け、今はサトオが構築した管理画面の数値を眺めていた。その表情には、かつての魔王への畏敬など微塵も残っていない。



「……カトウ様。魔王軍とは、『魔王という名の核』を頂点とした、唯一無二の魔力供給ネットワークでございました」


 ゼノスは淡々と語り出す。


「魔王は単なる支配者ではございません。全軍に対し、強制的に『存在意義』を配分する中枢(ハブ)でした。我々幹部は、その核から絶え間なく流れてくる『強大なる意志』という名の魔力を受け取り、それを戦力に変換するエージェントに過ぎなかったのです。……ですから、我々は疑うことすらしませんでした。核が消失すればネットワークそのものが崩壊し、個々の存在意義すら霧散するという恐怖を、常に感じていたからです」


 サトオは鉄仮面の下で目を細めた。


「つまり、お前たちは魔王がいなくなって『目的を失ったプログラム』のように、OSごとクラッシュしたということか」


「その通りです。……今の『現魔王軍』とやらは、そのシステムの崩壊を理解しておりません。彼らは『魔王という座が空いているから、そこに誰かが座れば軍が再起動する』と本気で信じている。ですが、それは致命的な誤りです。核となる絶対的な重力が不在のまま、いくら看板を掲げても、それは軍ではなく、ただの暴力的な烏合の衆に過ぎません」


 ゼノスは、無機質な画面に表示された「米の生育予測データ」を指差した。


「ですが、カトウ様。貴方は違いました。……貴方は魔王の座を欲しがらなかった。代わりに、この盆地という閉鎖空間に、圧倒的な理(ことわり)を提示されたのです」


 ゼノスは深々と頭を下げる。


「現魔王軍の傘下に入れば、我々はまた『核の代用品』のために命を消費することになるでしょう。しかし、貴方の元では、我々は『米』という不可避な成果に向かって、全能力を最適化できる。……魔王というシステムが崩壊した世界において、貴方は唯一、我々の魂を再起動させた存在なのです」


 サトオは端末から視線を上げず、冷ややかな口調で即答した。


「迷惑、というレベルの話ではないな。……奴らは『軍』という名の下で、リソースの再配分を阻害するノイズだ」


 サトオは指輪の管理画面を軽くタップし、盆地周辺の広域地図を投影した。そこには、各地で蠢く現魔王軍(賊党)たちが、赤い点として無秩序に散らばっている。


「考えてもみろ。あいつらは勢力圏を広げるために、肥沃な土地を焼き払い、住民を追い出し、略奪を繰り返す。結果として、地域の農業生産力は低下し、流通は遮断され、物流コストは跳ね上がる。……俺にとっては、この上ない『負の外部性』だ」


 ゼノスもまた、かつての大規模殲滅戦を思い出すような、冷徹な眼差しで地図を見つめる。


「御意。現魔王軍が標榜する『魔王の復活』などという概念は、我々にとって何の価値もありません。もし彼らが境界線を越えてくるのであれば……。それは彼らにとって、これ以上ないほど『効率的に消去される』という経験になるでしょう」


 サトオは「米の生育データ」を表示する画面を再確認し、淡々と結んだ。


「ああ。草むしりのついでだ。……もし現魔王軍が、この『食糧生産特区』の平穏を乱そうとするなら、その時は彼らの『組織としての脆さ』を、実地で証明してやるまでだ。米作りにおいて最も重要なのは、害虫を早期に駆除することだからな」



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