第47章:再会の災厄と、誤解の加速
ギルドホールに響いたその声に、カトウは鉄仮面の奥で小さく呻いた。
視界の端に映ったのは、懐かしくも今は全く関わりたくない顔ぶれ――バルド、ミア、レイの三人組だった。
(……よりによって、なぜこんな辺境にいるんだ)
サトオは心の中で冷や汗を流す。かつて聖都で「枝一本で風を操る魔法剣士」として彼らに見初められ、そのせいで伝説扱いされて逃亡する羽目になった、元凶の一行だ。
「……悪いが、俺たちは今、多忙でな」
カトウは村人Aのような無機質な鼻声で即答し、背を向けて立ち去ろうとした。だが、バルドは全く気にする様子もなく、大剣を地面に突き立てて笑う。
「固いこと言うなよ! お前ら、『農耕の民』って名前だったな? 名前の割に……その修道女様のモーニングスターといい、ただ者じゃねえ空気を纏ってる」
「えへへ、そうかな? サトオ……じゃなくて、カトウ様に選んでいただいた大切な農耕器具なんです!」
エレンが鉄球を愛おしそうに撫でる。バルドはそれを見て、ゴクリと喉を鳴らした。彼には、エレンの背後から漂う「異常な殺気」が、研ぎ澄まされた戦士のオーラに見えているらしい。
「それに……もしや、その鉄仮面の男は」
ミアがじっとサトオを凝視する。サトオの背中には、鈴付きの首輪をつけたトカゲのポチがいる。彼女の瞳が、サトオの体内に眠る膨大な気配と雰囲気が、どこかで見覚えのある強者として認識し始めていた。
(……まずい。このままでは、また『伝説の師匠の弟子』だとか、適当なことを吹聴される)
サトオは咄嗟にセリアの裾を引いた。セリアは溜息をつきつつも、魔王の娘としての加護を全開にし、サトオ一行から「農家感」を強調するオーラを撒き散らす。
「あんたたち、人違いよ。私たちはただの農耕の民よ。戦闘なんて……興味ないわ」
レイが不敵に笑う。
「興味がない? 嘘をつくな。その弓、ただの安物だが、百発百中だって聞いたぜ。」
「何でだろうね…」
カトウ一行が困惑している様子を、ギルド職員たちはカウンターの陰から震えながら見守っていた。
(……ああっ! カトウ様、彼らを適当にあしらってください! 絡まれたら、また街が吹き飛ぶ……!)
サトオは決断した。ここで揉めるより、適当な依頼を一つ受けて、すぐに姿を消すのが最善だ。
「……わかった。一つだけだ。その代わり、俺たちの作業を邪魔するなよ」
「おう! それでいい! さあ、一緒に倉庫の草むしりへ出発だ!」
バルドは勝手にサトオの肩を叩く。サトオは肩から外れるような衝撃をバルドに与えつつ、鉄仮面の裏で舌打ちをした。
――これが、辺境の平和を賭けた、最悪の共同作業の始まりだった。
草むしりという名目で向かった先は街の汚水処理施設。しかし、そこで彼らを待っていたのは、帝国貴族が地下に隠し置いていた「古代の浄化機構(=魔王軍の残党)」の起動という、更なる災厄であった。
「……おいバルド。お前、草むしりのついでに遺跡を掘り起こしてどうする気だ」
サトオの静かな問いかけに、バルドは満面の笑みで答える。
「ははは! まさか草むしり場に遺跡があるなんてな! これぞ冒険者の醍醐味だろ、カトウ!」
カトウは、愛用の鉄仮面をぎりぎりと締め上げた。
平和への道は、常に遠い。




