第46章:ギルド公認・『農耕の民』対応マニュアル
ベルン冒険者ギルドの会議室は、かつてない緊迫感に包まれていた。議題はただ一つ。「農耕の民」への対応についてである。
一週間前、彼らにアルミラージ討伐を依頼した際、森の生態系を更地にした実績は、ギルド職員たちの心に深いトラウマを刻み込んでいた。
「いいか、全員聞け。奴らを刺激すれば、この街は地図から消えるぞ」
ギルドマスターの声は震えていた。机の上には、職員総出で数日間徹夜して作成した、黒革の分厚いファイルが置かれている。タイトルは――『特別指定パーティ:農耕の民 対応指針(機密)』。
【抜粋:『農耕の民』対応指針】
其の一:『自称』を絶対の真実とせよ リーダーの『カトウ』が「ただの冒険者だ」「今日は調子が良かっただけ」と言った場合、どんなに不自然な成果であっても、全職員は「畏まりました。
通常通りですね」と微笑みながら復唱すること。矛盾を指摘した時点で、ギルドの崩壊が始まる。
其の二:修道女エレンの『モーニングスター』を直視するな 彼女が武装しているのは慈愛の心ではなく、『農耕のための土壌調整器具』であると認識せよ。彼女が笑顔で鉄球を振り回し始めたら、即座に受付から避難し、別室へ誘導すること。
其の三:セリアの『弓』に論理を求めるな 彼女が放つ弓の軌道が物理法則を無視していても、それは「農耕に適した風を計算した結果」である。決して「何故当たったのか」を尋ねてはならない。
其の四:『ポチ』に注意せよ 首輪をつけたトカゲの機嫌は、街の存続に直結する。彼が唸った場合は直ちに避難勧告を発令せよ。また、ポチに餌を与える際は必ずカトウの許可を得ること。勝手な肉片は、生態系を歪める可能性がある。
「……このマニュアルに不服はあるか?」
会議室の全員が首を振る。彼らにとって、これはマニュアルではなく「生存本能」そのものだった。
その時、会議室の扉が勢いよく開いた。受付嬢が顔を真っ青にして飛び込んでくる。
「マ、マスター! カトウ様が……農耕の民が、ギルドに入ってきました!」
マスターは顔を覆った。マニュアルの運用テストを、まさか今日行うことになるとは。
ギルドホールに出ると、鉄仮面の男が平然とカウンターの前に立っていた。背後にはモーニングスターを肩に乗せた修道女エレン、不貞腐れたセリア、そして鈴付きの首輪をつけたトカゲのポチがいる。
「……おはよう。今日は畑の雑草抜きのような、簡単な仕事はないか?」
その声は驚くほど静かで平凡だった。
窓口の職員は顔を極限まで引きつらせながら、マニュアルの「其の一」を唱えるように、必死の作り笑顔を浮かべた。
「あ、おはようございます! カトウ様。ちょうど……街外れの古い倉庫の草むしりがございます! まったくもって、通常通りの……簡単な依頼でございます!」
そこへ、大剣を担いだ男が話しかけてくる。
「おっ、F級か? そんな湿気た依頼なんかするなよ!」
「そうだぜ! 俺たち、パーティメンバーが足りなくてな」
「一緒に依頼を受けない?」
現れたのは、バルド、ミア、レイの三人であった……。
面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。




