表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/87

第41章:聖女を抱えて、泥沼の取引へ

第2部

「……言っておくけど、あのゲートは不安定よ。魔力の通りバグを強引に繋いでいるだけだから。私がゲートを維持している間、サトオ、あんたに物理的に接触していないと接続が切れるわ」


 セリアが鋭い視線で告げる。


 ゲートは幅が狭く、安定性に欠ける。俺はクルスを肩に乗せ、セリアに背後からしがみついてもらうことで、魔力回路を維持できる体勢を作った。


「で、問題は聖女様か。……エレン、悪いが俺の背中に回ってくれるか?」


「え、ええ……! もちろん、喜んで……!」


 エレンが背中にしがみつこうとするが、バランスが悪い。狭いゲートの中では重心の制御が命だ。


「ダメだ。……すまん、お姫様抱っこで行くぞ」


「ひゃうっ!?」


 俺はエレンを抱き上げた。聖女としての重圧を背負ってきた彼女にとって、無造作に抱え上げられるという事実は、相当な衝撃だったらしい。


「動くなよ、ゲートが歪む。……セリア、いくぞ」


 セリアが俺の背中に右手を添えた瞬間、闇が渦を巻き、視界がぐにゃりと反転した。


 磁場の中を歩くような感覚の中、俺は三つの命を繋ぎ止める。


 ――カチリ。


 三秒後、俺たちは商業都市「ベルン」の城門近く、路地裏に降り立った。


 『情報偽装』を最大出力で稼働させる。俺は日焼けした職人、エレンは旅の修道女、セリアは気難しい少女へと姿を変えた。


「よし。目的は食事、日用雑貨の買い出し。それと当面の塩と保存食だ」


 路地裏を一歩抜けると、そこは喧騒の極みだった。

石畳の上を馬車がひっきりなしに駆け抜け、市場の呼び込みが喉を枯らして安売りを叫んでいる。獣人の肉体労働者、ローブを羽織った魔術師、そして街を支配する商会の旗印を掲げた衛兵たち。

 雑多な人種と、街特有の「金と欲」の匂いが鼻をつく。


「……すごい人ね。ルナンよりもずっと都会だわ」


 エレンが目を丸くして周囲を見回す。その姿は、いかにも世間知らずな修道女そのものだ。

俺は彼女の肩を軽く叩き、低く警告する。


「セリア顔を上げすぎるな。俺たちはあくまで、仕事を求めて流れてきたしがない職人一行だ。……エレン、お前は少し疲れ気味の修道女でいろ。その清潔すぎるオーラが目立つんだよ」


「は、はい……! ご指示通りに」


エレンは慌ててフードを深く被り直し、俯く。

 セリアはというと、街の活気には目もくれず、人混みを縫うように先を行く。気難しい少女という偽装演技は完璧だ。彼女の視線は、人ではなく「街の魔力の澱み」――商会が流す不正の残滓を追っている。


「サトオ、あっちよ」


 セリアが顎でしゃくった先には、街の規模にそぐわないほど巨大な石造りの建物があった。

 看板には『大商会ベルン』と刻まれている。この街の富のすべてを吸い上げ、そして裏で禁制品を流しているという、今日の俺たちの「狩場」だ。

 俺は革袋の中でコインを鳴らし、わざとらしく大きく溜息をついた。


「よおし、一仕事するか。……腹を空かせた聖女様と、魔王の娘を養うための、泥沼の取引だ」


 人混みに紛れ、俺たちは堂々と商会の正面入り口へと歩みを進めた。

 行き交う人々は、俺たちの正体はおろか、俺たちが背負っている「災難」の規模など知る由もない。


 俺はニヤリと口角を上げ、商会の重厚な扉に手をかけた。


「よし。目的は食事、日用雑貨の買い出し。それと当面の塩と保存食だ」


俺たちは迷わず、街で一番大きな商会へと足を踏み入れた。受付で分厚い革袋から金を出し、淀みなく注文を叩きつける。


「……それとだな」


俺は店内の片隅を指さした。


「あれは何だ? きったねぇな。他の客の迷惑だろう。……俺が廃棄してやろうか?」


俺が指さしたのは、冒険者が買いに来るような品ではない。今しがた処分されようとしていた、埃を被った廃棄在庫の山だった。


受付嬢が困惑して奥へ引っ込む。直後、腹の出た初老の商会長が飛び出してきた。


「おい、待て! お前さん、どこの職人だ!? それは『価値なし』として処分が決まったゴミだぞ。漁るような乞食を相手にするほど、うちは暇じゃない!」


だが、俺は肩に潜むクルスの『千里眼』と同期し、この商会の「帳簿の裏側」を瞬時に解析していた。


(なるほど。禁制品の処理で頭を抱えているわけか。……いい餌場だ)


俺はニヤリと笑い、商会長の耳元で小声で囁いた。


「商会長。そのゴミ、少々やばい代物じゃないか? 俺には見えているんだが」


「……この『邪悪な在庫』、全部まとめて引き取ってやろうか?」


指を三本突き出す。


「……はぁ? 金貨30枚だと? 買い取る側が要求する金額か、それは」


「……これだけのお荷物を片付けてやるんだ。礼金をもらうのはこちらの方だろう?」


「なっ……!?」


俺はニヤリと笑い、さらに畳み掛ける。


「あんたの帳簿にある『あの件』――帝国の役人に報告すれば、商会ごとお取り潰しになるようなブツだろ? ……どうする? 倉庫を占領している『負債』、今すぐ全て引き取ってやる。ついでに、その湿気た高級種籾の山も買い取ってやってもいいぞ。格安でな」


「なんでそれを知っている……」


商会長の顔から血の気が引く。その表情を見て、俺は確信した。勝負はついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ