第40章:ログハウスの完成と、一撃の漁法
第2部
数時間後。俺の手により、釘も魔法も使わない、完全に物理法則のみで組み上げられたログハウスが完成した。
歪み一つない完璧な角材の接合部。これには流石のセリアも「……あんた、本当に元は会社員だったの?」と感嘆の吐息を漏らし、エレンは「神の御業です……!」と建物の前で祈りを捧げていた。
だが、今の俺たちには重大な問題があった。
空腹である。
「食料がないな。とりあえず、あの川で魚でも捕まえるか」
「ええ。では私が、神聖王国の聖具を応用した『釣り糸の生成魔術』と、結界を利用した『自動罠』を仕掛けましょうか?」
エレンが頼もしく聖印を掲げ、川辺で何やら神聖な準備を始めようとする。その横でセリアも「私は網の形をした闇の膜を作ってやるわよ」と準備万端だ。
「いや、そんな面倒な…」
「……はあ? あんた、まさか手で捕まえるつもり? 泥だらけになってまで魚を追いかけ回すなんて、そんな下品なこと私は嫌よ!」
セリアの呆れ声を聞き流し、俺は川の淵へと近づいた。
俺はただ、川面へ向かって静かに、一回だけ掌を叩きつけた。
バンッ――という乾いた音だけが響く。
その瞬間、川底で起きた衝撃波が正確に魚たちの浮き袋を直撃し、数秒後、数匹の立派な岩魚がぷかりと腹を見せて水面に浮かび上がった。
……静寂が訪れた。
「…………はあ?」
セリアの口が完全に開きっぱなしになっている。エレンも手にしていた聖具の釣り糸をポロポロと落とし、アングリと口を開けて水面を見つめていた。
「あの、サトオ様……今、何をされました? 魚を、その……叩き伏せたのですか?」
「いや、水面を叩いて衝撃波を伝えただけだ。これなら水流を乱さず、必要な分だけ確保できるだろ?」
俺が淡々と説明する横で、クルスが「キュイイイ!」と歓喜の声を上げて飛んでいく。
浮かんだ魚を次々と回収し、俺たちの足元へ誇らしげに積み上げていく姿は、さながらプロの漁師の助手だった。
「…………」
「…………」
セリアとエレンは言葉を失い、魚を運ぶクルスと、涼しい顔で立ち上がる俺を交互に見比べている。
「……やっぱり、この男に『常識』という言葉は存在しないのね」
セリアが深い溜息をついた。
物理を理解しすぎているがゆえの異常行動。エレンもまた、先ほどまでの聖女の威厳をどこかに置き忘れたように、ただただ呆然と魚の山を見つめていた。




