第39章:建築DIY無双と聖女の困惑
第2部
盆地の隅に立つ樹齢数百年の巨木を前に、俺は大きく息を吸い込んだ。
「さて、まずは柱と梁を調達するか」
俺はおもむろに足元に落ちていた、何の変哲もない枯れ枝を拾い上げた。鑑定結果は『そこらへんの枝』。だが、今の俺にはこれで十分だった。
俺は巨木の幹に手を当て、木材の繊維が最も脆くなる「急所」を探る。わざわざ『万物鑑定』を起動するまでもない。一目でわかる。
呼吸を整え、その急所に向かって、握った枝をシュッと適当に一閃、振り抜いた。
その瞬間、巨木は音もなく――本当に、木が倒れる轟音すら立てずに、まるで包丁で豆腐を切ったかのように、完璧な長方形の角材へと姿を変えた。
「はぁ?」
背後でセリアが間抜けな声を漏らした。
俺は気にせず、残りの枝で木材をコンコンと叩く。打音の響きで木の中の水分バランスを測り、一番反りの少ない部位を狙って、今度は指先でポンと弾くように力を加える。
パキパキという軽快な音とともに、木材は建築に必要な「継ぎ手」の形に見事に加工されていく。
「……あの、サトオ様?」
おずおずとエレンが声をかけてきた。彼女は、俺が先ほどから振り回している『そこらへんの枝』と、目の前で魔法のように加工されていく木材を交互に見比べている。
「その……手に持たれているのは、もしかして『勇者の剣』でしょうか? マサトのとは形が違うけれど……」
「え、これ? いや、さっき足元で拾った枝だけど」
「……はぁ……」
セリアが今度は本当に呆れ果てた顔で、俺の持っている枝を指さした。
「あんた、バカなの? 聖剣をただの『バール代わりの棒』として扱って……しかも、魔術も剣技も使わずに、その辺の木をパズルみたいに分解してるのよ。……それ、本当に剣なのって……」
エレンもまた、開いた口が塞がらないという様子で呆然としていた。
「わ、私、てっきりその剣で『天空を切り裂く一撃』を放たれるのかと……。まさか、それで柱のホゾ穴を整えられているとは……」
俺は苦笑しながら、魔法のような精度で組み上がっていくログハウスの基礎を見つめた。
「いや、道具なんて使いようだろ。硬い剣で木を叩くより、この枝のしなりで繊維の急所を突くほうが、ずっと綺麗な角材になるんだ」
俺の言葉に、二人は言葉を失い、ただただ地面に転がる「伝説の聖剣(仮)」を、まるでゴミを見るような、あるいは崇高なものを見るような混ざり合った視線で見つめるのだった。
「キュゥ?」
クルスが不思議そうに首を傾げ、俺の足元に落ちたただの枝を、もう一度小突いた。




