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最強の力を引き継いで異世界転移したものの、先代勇者が国にハメられて暗殺された歴史を知ってしまった件。  作者: 藤咲玲


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第3章:最強を隠したFランク

「おい、大丈夫か? あんた、どこから現れたんだ?」


 声をかけてきたのは、革の胸当てをつけ、腰に長剣を差した男だった。


 見渡せば、中世ヨーロッパを思わせる石造りの街並み。「リプレ小国、ルナンの街」……。


(本当に……異世界に来ちゃったんだな……)


 ひとまず男に丁寧にお礼を言い、自分が「記憶を失って彷徨っていた」という適当な嘘をついて、この世界で生きていくための情報を聞き出した。


 まずは身分証代わりにもなる「冒険者資格」を得るべきだと。


 教えてもらった通り、街の中央にある冒険者ギルドへと歩を進める。


 重い木製の扉を押し開けると、特有の熱気が肌を刺した。エールの匂い、鉄錆の臭い。視線が一斉に俺に集まる。


 気圧されそうになるのを堪え、俺は真っ直ぐ受付へと向かった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「あの、冒険者の登録をしたいんですけど……」


「では、こちらの魔力結晶に手を乗せていただけますか? あなたの素養と、お持ちの『スキル』を測定します」


 差し出された透明な水晶玉。これに触れれば、俺が受け継いだ「勇者」の規格外スキルがすべて白日の下に晒されてしまう。トラブルだけは絶対に御免だった。


 脳内に受け継いだ知識が巡る。魔力を操り、自らの情報を偽る技術。


 俺は心の中で念じ、新しく獲得した『情報偽装』を発動させた。


 莫大な身体能力を覆い隠し、魔力も「一般的な水準」に見えるよう、何重もの膜で包み込む。


 祈るような気持ちで、そっと水晶に触れた。


 光はすっと収まり、鈍い青色へと変化する。受付の女性が、手元の魔導書に浮かび上がった数値を覗き込んだ。


「……はい、確認いたしました。お名前は?」


「……佐藤 サトウ・レンです」


「サトウ……? ああ、『サトオ』様ですね。珍しい響きですが、かしこまりました。


 スキルは……『身体強化・微』と『剣技・初級』。それでは、一番下のFランクからのスタートとなります」


「あ、いや、ウじゃなくてサト……あ、もうそれでいいっす。ありがとうございます」


 言い直すのも面倒なのでそのまま受け入れた。手渡されたのは、鈍く光る鉄製のプレート。


(よし、なんとかなった……)


 一息ついて受付を離れようとした、その時だった。


 背後から下品な笑い声が降ってくる。


「おいおいおい! 聞いたかよお前ら! 新人の名前、サトオ(砂糖)だってよ!!」


 振り返ると、ガラの悪い先輩冒険者の三人組が、ジョッキを片手にニヤニヤと近づいてきていた。


「サトオって、あの甘ぇ調味料のサトオか!? ギャハハ! 随分と甘っちくて美味そうな名前じゃねぇか!」


 周囲からもクスクスと笑い声が漏れる。完全なる新人いびりだ。


 一方、サトオの心の中は至って冷静、というかマジで焦っていた。


(……名前が砂糖っぽいからって絡んでくるとか、中学のいじめかよ。早く終わらせて宿探さないと路上生活になるんだけど)


 サトオは額に薄く冷や汗をにじませ、引きつった愛想笑いを浮かべた。


「あはは、お恥ずかしいです。名前の通り中身も甘々な新人なんで……先輩方の足元にも及びません。なので、そこ道を開けてもらえると助かるんですけど……」


「あぁ!? 何が愛想笑い浮かべてんだコラ! 舐めてんのか!?」


 サトオの事なかれ主義な態度が逆に先輩冒険者を逆上させ、一人が胸ぐらを掴もうと太い腕を伸ばしてきた。


(……あー、めんどくさい。人前だし、誰も気づかないくらいの最小限の動きでサクッと終わらせよう)


 サトオは、相手の踏み出してきた足元に向けて、自分の足を「ヒョイ」と小さく滑り込ませた。ただの足払いだ。


 ――ドゴォンッ!!!!


 ギルドの床が凄まじい衝撃音を立てた。


 サトオの足は鋼鉄のレールの如く微動だにせず、引っかかった巨漢の先輩冒険者は、凄まじい勢いで顔面から床へと叩きつけられた。


「ひ、ひうぅ……あ、足が……腰が……動か……ッ」


 あまりの激痛に、先輩は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、起き上がることができない。静まり返るギルド。


(……いやいやいや! マジであんたのパワーどんだけなの!? 私はちょっとバランス崩して転んでもらおうと足を置いた。ただそれだけじゃん!? おかげで言い訳を考えるこっちの身になってよ!)


 サトオは慌てて大声を張り上げた。


「だ、大丈夫ですか先輩!? 急にダッシュしてくるから、床の凹みに足をとられて、派手に転んじゃったじゃないですかーーーっ!!」


 もちろん床に凹みなどない。


 仲間たちは、床にめり込んだまま白目を剥きかけている先輩を見て、ガタガタと震えている。


 周囲が「甘い名前のくせに、笑顔で人の骨を砕いて平然と言い張るサイコパス」に戦慄する中、サトオは受付嬢に向き直った。


「すいません、ちょっと登録プレートだけ貰っていきますね!」


 俺はそそくさとギルドを後にした。

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