表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/38

第24章:隠された牙、揺らぐ仮面

 エレナによる『英雄再起プロジェクト』は、着実に街中の注目を集め始めていた。


 だが、その熱心さが度を越した結果、皮肉にもギルドとガッロ商会の内部で、サトオに対する「不審な疑念」が芽生え始める。


 ギルドの受付嬢は、溜息をつきながら手元の書類をめくった。


「サトオさんね……。しがないFランク冒険者にしては、最近のガッロ商会への出入り回数と、エレナお嬢様からの『特別待遇』が異常ですわ」


 エレナはサトオを理想の英雄として仕立て上げるため、商会の上質な高級備品を惜しみなく提供し、果ては私設の護衛まで同行させていた。しかし、それがかえって「ただのFランクに、なぜそこまでの特権を?」という周囲の勘繰りを生んでしまったのだ。


 その頃、商会の奥にある応接室では、エレナがサトオに最新の礼法を叩き込んでいた。


「いい? 英雄たるもの、歩く時も重心を常に一定に保つのよ。そう、貴方のその……オークを屠った時の、あの無駄のない神速の足運びのように!」


「だから、あれはオークを狩る時だけの、ただの泥臭い動きだってば……」


 俺が困り果てていると、重々しく扉を叩く音が響いた。


 現れたのは、ガッロ商会の筆頭執事である老人だった。その鋭い眼差しが、俺の立ち姿と、エレナの入れ込みようを交互に値踏みする。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか。サトオ殿の……その、何と申しますか、『不自然なまでの力量』について、少々ご報告がございます」


 執事は冷徹な口調のまま、俺へ視線を移した。


「昨日、サトオ殿が商会の庭で軽く素振りをされた際、落ちていた木の枝が、刃物も使わずに『切断』されておりました。あのような鋭い衝撃波を伴う太刀筋、とてもFランクの冒険者に可能な芸当とは思えません。……貴方は、一体どこの何者なのですか?」


 心臓がドクリと跳ねる。


 背後でセリアが俺の肩に指先を置き、楽しそうにクスクスと様子を窺っているのが分かった。


「……ただのサトオだ。ちょっと、腕の鍛錬をやりすぎただけだよ」


「……あくまでしらばっくれますか」


 執事が一歩踏み込み、俺の袖を掴まんばかりに追い詰める。その瞬間、エレナが俺の前に毅然と立ちはだかった。


「失礼よ、執事! 貴方は彼を疑うの!? 私が認めた英雄よ! 彼が強くて何が悪いの!?」


「お嬢様。お嬢様が必死に守ろうとされているのは『英雄』なのか、それとも『正体を隠した怪物』なのか。どちらか私には存じ上げませんが、商会に害をなす危険因子であるならば……」


 老執事の放った明確な殺気が、応接室の空気を一瞬で凍りつかせる。


 エレナの「英雄教育」という都合のいい盾が、皮肉にも俺の「正体」を炙り出すための完璧な踏み絵になっていた。


「……さて、サトオ。どうするの? この頑固な執事さんをここで返り討ちにする? それとも、私が少し手を貸して、消してあげようか?」


 セリアの物騒極まりない愉悦の囁きに、俺は奥歯を噛み締める。


 エレナを失望させたくはない。だが、このままでは執事に正体を暴かれる。


「……誤解だ。俺はただの冒険者だ。その証明として、商会が抱えている厄介な問題を一つ、今日中に俺が解決してみせよう。それが、俺の『正体』だ」


 俺は執事の鋭い目を、真っ直ぐに見据え返した。


 隠遁者として生き残るための、最後の賭けだ。あえて「冒険者らしい泥臭い仕事」を完璧にこなして見せることで、英雄としての超絶技巧ではなく「ただの手際がいい便利屋」として疑いを晴らす――。


 ……はずだった。


 だが、俺の言葉を聞いた執事とエレナの顔が、同時に期待と驚愕で引きつっているのを見て、冷や汗が流れた。


(……あ、クソ。またやってしまった)


「今日中に片付ける」などと、ただのFランクが口にしていいセリフではない。


 ただの平凡な冒険者だと証明するつもりが、俺はまた、どう見ても「只者ではない」という強者のオーラを部屋中に撒き散らしてしまっていた。


面白ければ、ブックマーク、評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ