第17章:聖都の影、嘘と誠の境界線
聖都の冒険者ギルドは、いつにも増して騒がしかった。
俺たちは埃まみれの姿のまま窓口へ向かい、遺跡での出来事を報告する。俺の隣には、フードを深く被り、俺の外套を掴んで離さないセリアがいる。
「――なるほど、遺跡の中枢で防衛装置が暴走し、構造全体が崩落したと。……怪我人は?」
受付嬢が眉をひそめながら、手元の書類に記録を走らせる。俺はいつもの、少し頼りないFランクの笑顔を作って答えた。
「ええ、ギリギリで脱出しました。……正直、何が起きたのかさっぱりで。いきなり床が鳴り出して、気がついたら崩れていて……不審者? 誰のことでしょう。あの中には、ただ不気味な連中が数人いただけです。怖くて顔を見る余裕もなくて……」
俺は極力、視線を泳がせ、「恐ろしい目に遭った無力な冒険者」を演じきった。
隣でバルドがわざとらしく咳払いをし、ミアが完璧なタイミングで補足する。
「ええ、本当に危なかったわ。あのままでは全員生き埋めになるところでした。サトオが裏道を見つけてくれなければ、私たちもどうなっていたか……」
「そうですか……。調査部隊を派遣すべき規模の崩壊ですね。……ですが、サトオ様、その少女は?」
受付嬢の鋭い視線が、フードの下のセリアに向けられる。俺は自然な動作で、セリアを背後に隠した。
「遺跡の瓦礫の下で泣いていたんです。連中が儀式に使おうとしていたみたいで……。見捨てて逃げるなんて、俺にはできませんでした。Fランクの分際で生意気なのは分かってます。でも、保護させてください。責任は俺が持ちます」
俺は真っ直ぐに受付嬢の目を見つめた。嘘はついていない。すべて、俺が背負うと決めたことだ。
受付嬢はしばらく黙り込み、やがてふう、とため息を吐くと、呆れたように微笑んだ。
「……保護の届出は受理します。ですが、街中での騒動は厳禁ですよ。あなたのこれまでの貢献を考慮して、今回は不問としますが、次は……ありませんからね」
「ありがとうございます!」
ギルドを飛び出し、裏路地へと駆け込む。緊張の糸が切れ、俺は壁に寄りかかって大きく息を吐いた。
「ふう……助かった。みんな、さっきは口裏を合わせてくれてありがとう」
俺たちはそのまま路地裏の宿へ移動し、小さな個室に集まった。
セリアをベッドに座らせ、俺は扉に鍵をかけると、バルド、ミア、レイに向き直った。
「……言っておかなきゃならない。この子は、ただの孤児じゃない。さっきの遺跡にいた連中が、利用しようとしていた存在だ。この子を連れていることは、これから教団の……そして世界中の厄介事の標的になることを意味する」
仲間たちの表情に緊張が走る。だが、俺は彼らの返答を待たずに言葉を続けた。
「俺は一人で消えるつもりだった。だが、お前たちがこうして……俺の理屈に付き合ってくれるなら、少しだけ頼らせてくれ。今夜だけは、この街で身を隠す場所が必要なんだ」
バルドが俺の肩を強く叩いた。
「何を水臭いことを言ってやがる。あんたがその子を守ると決めたなら、俺たちの答えは一つだろ」
「そうよ。プロの魔術師として、あんな怪しい教団に遅れを取るつもりはないわ」
「罠の解除と逃走経路の確保なら俺の専門だ。任せときなって」
ミアとレイも、不敵な笑みを浮かべて頷く。
誰もそれ以上は追及しない。ただ、俺の「秘密」の重さを、彼らは仲間として共有してくれたのだ。
やがて夜の帳が下り、聖都は静まり返っていく。
俺はベッドの上で小さく丸まるセリアを見つめながら、これから始まる、終わりなき逃走と戦いの日々を静かに予感していた。
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