第15章:神隠しの徒、遺跡の深奥にて
遺跡の深部へと進むにつれ、空気は重くなり、ひりつくような魔力の奔流が肌を刺すようになった。道中、バルドやミアの期待を裏切らないよう、俺はときおり枝を振るい、適当な物理障壁を破壊したり、空気を圧縮して「魔法剣士っぽい」音を鳴らしては前進を続けた。
「……信じられない。あの扉の封印、複雑な複合魔法式だったはずなのに、枝で軽く突いただけで解除するなんて」
ミアが呆れと感嘆の混じった声で呟く。俺は「ただの構造把握だよ」と聞き流したが、正直なところ、この遺跡はかつての俺が勇者パーティで巡った魔導都市の防衛施設に酷似している。構造が分かっているのだから、崩すのも直すのも「知っている」というだけの話だ。
そんな中、遺跡の中心部へと繋がる大広間に足を踏み入れたとき、レイが急に足を止めた。
「……おい、全員止まれ。空気がおかしいぞ」
広間の中央。そこには、俺たちの目的である『魔導中枢核』が鎮座していた。そしてその守護者として、先ほどの石獣とは比べ物にならない威圧感を纏った、六本の腕を持つ巨大な騎士像がゆっくりと立ち上がる。
ガガガ、と関節を鳴らす音が、石造りの空間に木霊した。
「うわ……マジかよ。あれ、遺跡の防衛プログラムの『中枢』だぞ! 冒険者ギルドの資料には載ってなかった!」
バルドが青ざめながら大剣を構える。騎士像の周囲には、すでに強固な重力障壁が展開されており、剣も魔法もまともに通じないことは一目瞭然だった。
広間を揺るがす騎士像の轟音を前に、俺はわざとらしく鼻で笑ってみせた。
「……バルド、ミア、レイ。いいか、魔術師の小細工なんてのは、結局のところ『現象』をどう扱うかだ。見てろ、俺の師匠直伝の『魔法剣士』の技をな」
俺は枝を騎士像ではなく、あえてその足元に広がる、ひび割れた石畳へと向けた。そして、これみよがしに、喉の奥で魔力を響かせる。
「――ストーンバレット」
その瞬間。俺は腰からハンマーを抜き放つと同時に、地面を力任せに、しかし極めて繊細な角度で掠め飛ばした。
ドッ!!
空気を裂く激音と共に、ハンマーの打撃が石畳の『特定の接合部』に叩き込まれる。それはただの破壊ではない。地面に埋め込まれていた防衛の魔力伝達経路を、衝撃波で一瞬にして『切断』する一撃だ。
巻き上げられた石の破片が、弾丸のような速度で騎士像の関節部分へと殺到する。魔法名通り、石の塊が誘導されたかのように騎士像の急所へと的確に突き刺さった。
ガガガガッ……!
騎士像の重力障壁が激しく明滅し、次の瞬間、まるで糸が切れた操り人形のようにその巨体が前のめりに崩れ落ちた。
「……えっ?」
バルドが呆然と声を漏らす。ミアは石畳に残されたハンマーの跡と、石屑に覆われて沈黙した騎士像を交互に見つめ、口をパクパクさせていた。
「な、今の……地面を叩いただけでしょ? なんで石が……ストーンバレットって、そんな使い方だったかしら?」
ミアが混乱したように呟く。俺はハンマーを肩に担ぎ、何事もなかったかのように枝を腰に戻した。
「魔法剣士にとって、地面も弾丸も同じだ。重力制御の初歩だよ。師匠なら、この程度、目隠しでも解除できたはずだがな」
俺はため息混じりに言い捨て、停止した騎士像の脇をスタスタと通り過ぎる。
(……ふう。危ないところだった)
本当はハンマーの衝撃波を石畳の構造線に流し込んだだけだが、彼らの中では「地面を魔法で弾丸に変えてぶつける」という超絶技巧として処理されたようだ。
ミアたちがまだ呆然としている横を通り抜け、俺は遺跡の最奥へと歩を進める。これでしばらくは、「魔法剣士ごっこ」に口出ししてくることもないだろう。
俺は心の中で小さくガッツポーズをしつつ、次の面倒な事態に備えて、さりげなくハンマーの持ち手を緩めた。
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