邂逅(かいこう)
ー 邂逅 ー
2015年10月…ドラフト会議数日前。
阪神球団本部での会議を終えた俺は、
大阪の街を歩いていた。
頭の中は吉田正尚一色。
(絶対に獲るで……)
オリックスとの競合上等。
未来の侍ジャパン四番候補で阪神の歴史を変える男…
それを逃す訳にはいかなかった。
そんな時だった。
ブブブブ……
ポケットのスマホが震える。
「ん?」
画面を見る。
登録にない知らない番号だった。
「…ん?…誰や?」
少し迷った後俺は通話ボタンを押す。
「もしもし?」
数秒の沈黙が続く…
『……貴方、転生者ですよね?』
「えっ!?」
全身の血が凍った。
周囲の雑踏が遠のく。
(今、なんて言った?転生者?俺以外に?)
『あの…私も…転生者です』
女性の声で落ち着いている…だがどこか緊張している。
『名前は…白井美虎』
「……」
『今は虎党です。でも前の人生では違いました』
俺は息を呑む。
冗談じゃない。俺以外にも未来を知る存在がいる…
『貴方と会って話がしたいんです。』
「……なんで俺が転生者やと思った?」
『簡単です。岡本和真』
心臓が跳ねる。
『本来なら読売の単独指名だった。でも貴方が歴史を変えた…のでしょう?』
「………」
『さらに今年は吉田正尚』
完全に読まれていた。俺は思わず立ち止まる。
『貴方、セ・リーグしか知らないでしょ?』
「……は?」
『吉田正尚はともかく…パ・リーグの情報が抜けてる。』
その瞬間。
俺の脳裏に会議室での違和感が蘇る。
確かに俺はパ・リーグをそこまで見ていなかった。
ホークスが強かった事、阪神とオリックスで日本シリーズを戦った…くらいしか知らない。
『だから教えたいんです』
女性は静かに続ける。
『未来の育成選手達を』
「育成……?」
『二年後、東農大北海道から現代の韋駄天が現れます。』
その声に熱が宿る。
『名前は周東佑京』
(あの、足の速い…)
『彼は阪神に必要な選手です』
「…お前、何者なんや!」
『前世はタカガールでした』
「は?」
『だからパ・リーグは詳しいんです!』
頭が痛くなってきた。
まさか転生者が複数いるなんて…
しかも阪神ファンに転生したホークスオタク。
情報量が多すぎる。
『会って話しませんか?』
「……どこで」
『神宮球場』
彼女は即答した。
『ヤクルト対阪神戦。三塁側ビジター席』
阪神ファンしか来ない場所。
警戒してるのか。
いや、
当然だ。
俺だってまだ信じ切れていない。
『あともう一つ』
「……なんや」
電話の向こうで、
彼女が少し笑った気がした。
『貴方、メジャー事情も知らないですよね?』
「…あ?まぁ、そんなに詳しくわ…」
『阪神は1998年にあるメジャー球団と業務提携しています。』
「えっ?そーやった?」
『はい!』
その言葉に俺は完全に固まった。
『相手はデトロイト・タイガース』
大リーグの名門。
確かに名前くらいは知っている。
『阪神からメジャー挑戦する場合、最初の交渉先はデトロイト』
「そんなもん実現する訳…ポスティングは?海外FA権は…?」
『させます!数年前…私はデトロイトに留学に行き…球団関係者と親しい仲になりました。彼女ならこの話を受け入れてくれる…阪神タイガースにも興味がありそうな感じでした…名前が同じと言うだけの交流はもうやめましょう!』
彼女は断言した。
『まず初めはコーチ留学や派遣。育成共有。データ解析の共同運用…合同キャンプや、シーズンオフの練習試合。』
これが実現すれば未来の阪神は変わる。
『移籍に関してはポスティングですね…契約内容はデトロイト側との交渉次第。でも阪神復帰ルートも確保させる…阪神が嫌なら他の球団でも仕方がないですが…』
「…………」
『岡本和真も、吉田正尚も…
将来的にはメジャーへ行く…』
“大リーグが間近にある”
という餌は最大級の武器になる。
もしそれを球団レベルで保証できるなら阪神は変わる。デトロイトから助っ人を連れて来ることも可能…
『だから会いましょう、虎吉さん』
電話の向こうで、
白井美虎は静かに言った。
『私達なら……阪神を世界最強の球団にできます。』
通話が切れる。
夜風が吹いた。
俺はスマホを握りしめたまま小さく呟く。
「……なんやねんこれ、意味わからん…スケールがデカすぎる…」
多分続く…




