未来の四番を奪え
ー 未来の四番を奪え ー
2013年 奈良県・智辯学園高等学校
夏の日差しがグラウンドを焼いていた。
金属音、白球。土煙…
そして…「うおおおお!!」
右翼フェンスを軽々越えていく特大アーチ。
「…おぉ…やっぱ化け物やな」
俺は帽子を深く被りながら、小さく呟いた。
視線の先にいるのは豪快なフルスイングでスタンドへ叩き込んだ少年。
後の読売巨人軍四番打者"岡本和真"
今はまだ奈良の高校生に過ぎない。
だが俺は知っている。
こいつは将来、
東京ドームで何十発もぶち込み、
阪神ファンを絶望させる男になる。
そして読売の主砲になる。
……絶対にさせん。
「虎吉くん、どうや?」
隣で腕を組む阪神球団関係者が俺を見る。
「率直に言います?」
「おう」
「今年の高校生で別格です。あなた達が狙う有原は外れます。彼を指名するべきです。」
即答だった。
「なんで知ってるんや?」
「新聞です。」
周囲のスカウト陣も頷いている。
だが問題はそこじゃない。
問題は…
「たぶん読売のスカウトも来ます。」
俺の言葉に空気が少し重くなる。
当然だ。
あの球団が、
こんな逸材を見逃す訳がない。
俺は前世で見ている。
2014年ドラフトで読売が単独一位指名。
そして未来の四番誕生。
だが今回は違う。
未来は変えるためにある。
「虎吉くん」
「はい」
「そんな欲しいか?高校生やろ…育成がな…」
俺はグラウンドを見る。
打撃練習再開。
岡本がまたボールを掬い上げた。
乾いた快音。
逆方向へ一直線。
バックスクリーン着弾。
……高校生の打球ちゃうやろ。
「欲しいなんてもんじゃないですよ。」
俺は静かに言った。
「彼はね…阪神の未来そのものになります。
ちなみに彼は阪神ファンです。」
関係者の目が変わった。
この頃の阪神はあと一歩が足りなかった。
優勝争いはする。
だが決定的な長距離砲が育たない。
生え抜き四番不足、和製大砲不足…
何年も抱え続けた課題だ…
「マートンは高いし…あの成績もいつまで続くか分からんしな…」
球団関係者は頭を抱える。
だが岡本は違う。
未来ではホームラン王を争う怪物になる。
そして何より阪神キラーになる。
だからこそ絶対に読売へ渡してはいけない。
「……ふむ」
球団関係者はメモを閉じた。
「しかし競合になるぞ?」
「ならないですよ。彼に10年後メジャー挑戦を約束しましょう。」
「は?」
俺はニヤリと笑う。
前世知識それが俺の最大の武器。
「球団公式で宣言しましょう。
10年後にメジャー挑戦を約束と…どうにかして巨人に諦めさせましょう。」
「そんなん無理やて!」
「岡本和真と阪神タイガースは相思相愛やと世間に公表するんですよ!そやデイリーに“岡本は阪神熱望”って書かせるんです!それがいい!」
「まぁ、今から岡本君と話してくるわ…」
「頼みますよ!」
だが未来を知っているなんて言える訳がない。
「……」
「この選手を逃したら泣きますよ。」
その瞬間。
再び快音。
岡本の打球が今度は場外へ消えた。
関係者全員が空を見上げる。
そして誰かが呟いた。
「……バケモンやな」
俺は確信する。
歴史は今、
分岐点に立っている。
未来の巨人軍四番。
その運命を阪神が奪う。
俺は帽子のツバを上げ静かに笑った。
「待っとけ読売……」
「お前らの未来、根こそぎ変えたる」
多分続く…




