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第49話「試験結果と新たな誓い」

 最終試験を終えた翌週――

 ジークの元に、一通の通知が届いた。


 封筒は白く、余計な装飾はない。

 なのに、手に取った瞬間からわかってしまう。

 これは、ただの紙切れじゃない。


(……頼む)


 喉がからからに乾き、指先が少し震える。

 封を切る音が、やけに大きく響いた。


 中に入っていた一枚の書類。

 そこには、はっきりとこう書かれていた。


『採用通知。ジーク・ハワード殿、あなた様を世界政府国防省の職員として採用いたします。入社式の日程等については、後ほど通知いたします』


 ――採用。


 その二文字が、ジークの脳内で何度も反響する。


(……国防省。俺の、希望通り……)


 現実感が追いつかない。

 心臓が遅れてドクン、と大きく脈打った。


「よっしゃーーーーっ!! うおーーー!」


 ガッツポーズをして叫ぶ。

 声が裏返っても、そんなのどうでもよかった。


 ――次の瞬間。

 頬を、熱いものが伝った。


(……あれ?)


 涙だ。

 止まらない。拭っても拭っても、こぼれてくる。


 悲しいからじゃない。

 悔しいからでもない。


 これまでの苦労が、やっと報われた。

 何度も落ちて、何度も立ち上がって。

 それでも諦めなかった日々が――ようやく、この一枚で救われた。


「やったよ……父ちゃん、母ちゃん……。やっとスタートラインに、立てたよ……」


 嗚咽混じりに、ジークはぽつりと告げた。

 誰に聞かせるでもない、空っぽの部屋に。


 でもきっと――届いている。

 そう思えた。


 その日の夜。

 ジークはセレナに伝えた。

 世界政府採用試験に合格したこと。

 そして――彼女への強い想いを。


 部屋の空気がいつもより柔らかく、静かだった。

 窓の外では遠くの街灯が小さく滲み、カーテンが微かに揺れている。


(言うんだ。今しかない)


 心臓が早鐘みたいに鳴る。

 でも、逃げない。


 ジークは深く息を吸い――セレナの前に立った。


「セレナ、セレナには心配をかけると思う。だけど俺は世界政府の職員として世界の人たちを……そしてセレナを守りたいんだ。だから、その……俺と結婚してくれないか」


 差し出した手の中には、小さな指輪。

 灯りを受けて、控えめにきらりと光った。


 セレナが自分のことで悩んでいたことに、ジークは気づいていた。

 彼女はジークの夢を応援したいという気持ちと、彼に危険な目に遭ってほしくないという気持ちがせめぎ合っていたのだ。


 それでも――彼女の目は揺れながらも、逃げていなかった。


「……うん。国防省は危険なこともある仕事。ジークへの心配は消えないと思う」


 ゆっくりと言葉を紡ぐセレナ。

 声は震えているのに、表情は真っ直ぐだった。


「……だけどね、決めたんだ。ジークが試験に合格したのなら全力で応援しよう、支えようって。彼女じゃなくて、妻として、ね」

 その言葉が胸に刺さって、ジークは息を呑む。

「そ、それじゃあ……プロポーズ、受けてくれるのか?」

 セレナは、笑顔でうなずいた。


「うん。もちろんです。これからは妻として、ジークを支えるからね。それと……わ、私を選んでくれて、ありがとうございます……」

 言い終えるころ、セレナの頬はほんのり赤くなっていた。


 ジークの胸がいっぱいになり、言葉が出ない。

 ――代わりに。


 二人は抱きしめ合った。


「嬉しい……。幸せだよ俺……」

「うん、私も」


 互いの体温が、心の隙間を埋めていく。

 触れた手、重なる呼吸、鼓動の近さ。


 そして二人は何度もキスを繰り返しながら、夜通し愛を確かめ合ったのだった。



 翌日。


 ジークはケインやアミ、テリーなど――試験の結果が気になっている人たちに合格したことを伝えた。

 それと同時に、兼ねてから恋人関係であるセレナとの結婚も報告した。


 返事はすぐに来た。


「……そっか。おめでとうな兄ちゃん。これからは一緒に世界のために働けるってことか。ようやく俺たちの夢の本当の始まり、だな」


 ケインは多くを語らなかった。

 でも、声の端に、確かな喜びが滲んでいる。

 ジークはその短い言葉だけで、胸が熱くなるのを感じた。


 アミは自分のことのように涙を流して喜んでくれた。


(ああ……ケイン、アミちゃん、ありがとう)



 そしてジークとセレナは、セレナの父――リチャードの入院している病院へと向かった。


 病院の廊下は静かで、消毒液の匂いが薄く漂っている。

 遠くで鳴る足音、カーテン越しの話し声。

 現実の重みが、ここにはある。


 病室のドアを開けると、リチャードが二人に気づいた。

 ジークが合格したことを伝え、その後に二人の口から結婚の報告をする。


 次の瞬間――

 リチャードの目から、涙がこぼれた。


「おめでとうジークくん。ジークくん、セレナを幸せにしてあげてください。セレナ、ジークくんを支えてあげるんだぞ」


「はい! お父さん!」

 その声は、まっすぐで強い。

 ジークも同じように力強くうなずいた。

 胸の奥で、“約束”が形になる。


 彼のためにも、結婚式は早めに――五月に行うことを二人は話し合って決めていた。


 病院を出ると、外の空気は少し冷たくて、でもどこか優しかった。

 夕方の光が街を淡く染め、道の端に小さな影が伸びる。


 その帰り道、二人は仲睦まじく家へと向かって歩く。


 手をつないでいるだけなのに、指先から幸せがじわじわと広がってくる。


「ジーク」

 セレナが、少しだけ歩く速度を落とした。


「私、ジークとの赤ちゃんが欲しいの」

「え!?」

 突然の言葉に、ジークは思わず足を止めた。


 セレナは恥ずかしそうに視線を落とし、それでも勇気を振り絞るように続ける。

「結婚して、私とずっといてくれるってわかったから……。ダメかな?」

 不安そうに上目遣いで見上げるセレナ。


 ――その顔が、あまりにも愛おしい。

 ジークは、思わず彼女を抱きしめた。


「……ダメなわけないじゃないか。もちろんいいよ」


 腕の中で、セレナが息を呑んだあと――

 次の瞬間、ぱっと花が咲くみたいに笑った。


「ありがとう、ジーク。大好き!」

 セレナは嬉しそうに微笑んで、ジークの唇にキスをした。


 そのキスは、未来の約束みたいに温かくて――

 ジークは心の底から思った。


(守る。絶対に守る。セレナも、これからの未来も)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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