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第45話「つながる心と体」

 プライベートビーチからジークたちの住む町の駅までは、転送装置によるワープ移動が可能なため、ものの数分で家までたどり着くことができる。

 白い砂と潮風の余韻がまだ肌に残っているのに、視界が一瞬ふわりと歪んだと思ったら――次の瞬間には、見慣れた駅前の空気が鼻をくすぐっていた。


「便利すぎるだろ……」

 ジークが思わずつぶやくと、セレナがくすっと笑う。


 2人は近くのスーパーで適当に材料を買ってから、セレナの家に向かった。

 買い物袋が小さく揺れるたび、カラン、と瓶が触れる音がする。

 その音がやけに“今夜”を意識させて、ジークはひとりで落ち着かなくなる。


「たっだいま~♪」

 そんなジークの気楽な挨拶に、セレナは苦笑する。

「もぅ……ジークったら。自分の家じゃないのに……。さぁ、どうぞあがって!」

「あ、あはは! いや~、つい癖でさ。家でいつもやってるんだ! お、お邪魔します」


 玄関をくぐると、ふわりと漂う石けんとハーブのような、清潔で優しい匂い。

 “セレナの家の匂い”だと思った瞬間、ジークの心臓が余計にうるさくなる。


 セレナに先導されてジークも家の中に入る。

 そしてリビングに案内され、ソファーに座るよう勧められる。


(ここが……セレナの家か……!)


 ソファの柔らかさ、壁に掛かった小物、整った室内。

 どれも“彼女の暮らし”そのもので、ジークは勝手に胸が熱くなった。


 そんな事を考えドキドキしていると、セレナはキッチンでエプロンを身に付けながら言う。


「適当にテレビでも見てて。今から夕飯の準備をするから」

 セレナの言葉に、ジークはうなずく。

「ああ、何か手伝うことあったら言ってくれよ」

 そう声をかけるが、彼女は首を横に振る。

「大丈夫! せっかく初めて来たんだからおもてなしさせて」

 セレナのその言葉に、ジークは納得する。

「そっか! じゃあお言葉に甘えて、夕飯は任せることにするよ」

「うん! 楽しみにしててね!」


 そう言ってキッチンに向かうセレナを見送ると、ジークはリビングを見回した。

 テレビはついているのに、内容がまるで頭に入ってこない。

 なんだかセレナに包み込まれたような気持ちになり、胸の奥がくすぐったくなる。


「ふふ……どうしたの?」

 そんなジークの様子に気が付いたのか、エプロン姿のセレナが微笑んでいた。

 袖を軽くまくって、少し照れたように首をかしげる。その仕草が、反則級に可愛い。


 そんな彼女を見てドキッとするジークだったが、なんとか平静を装う。


「い、いや! なんか緊張しちゃってさ……! 初めて女の子の家に来たから!」

 そんなジークの言葉に、セレナはクスッと笑った。

「もぅ……緊張なんてしなくていいのに……。私たちは恋人同士なんだから」

 そう言って微笑む彼女の頬は少し赤くなっていた。

 “恋人同士”――その言葉が、部屋の空気を一気に甘くする。


 照れて頬を染めるセレナのあまりの魅力に、ジークは胸が高鳴るのを感じた。

 今すぐにでも抱き着きたい衝動を抑えて、食事ができるまで大人しくテレビを見ることにするのだった。



「できたわよ~」

 そんなセレナの呼びかけに、ジークはキッチンに向かう。

 コンロの余熱、ふわっと立つ湯気、食欲を刺激する香り。テーブルの上には美味そうな食事が並んでいた。


「おお~美味しそう! いや、マジで美味そうだな!」

「ふふ……いっぱい食べてね」

 2人は向かい合って席に座ると、手を合わせて食べ始める。


「うまっ……!」

 セレナが作った料理はどれも美味しくて感動するジークだった。

 口に運ぶたび、体の奥がじわっとほどけていく。

 海ではしゃいだ疲れさえ、全部“いい疲れ”に変わるみたいだ。


「ふふ、よかった。ジークってすごい食べれるよね。お昼だってあんなにたくさん食べてたし……」

「あはは、昔から食欲では負けたことないんだ。それにセレナが作ってくれた料理だから、より美味しく感じるんだろうな」

 そう言って笑うジークに、セレナもつられて微笑む。

 その笑顔は魅力的で、ますますジークを惹きつけるのだった……。



 食事を終えると、2人はしばらくリビングのソファーでくつろいでいた。

 テレビは点いているけれど、流れてくる音はただのBGMみたいに遠い。


「ふぅ……お腹いっぱいだ。セレナの手料理、最高に美味しかったよ」

「ふふ、よかった! 喜んでもらえてうれしいな~」


 ジークは手料理を作ってくれたセレナを労うつもりで頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細める。

 その表情が可愛すぎて、ジークの理性がふっと緩む。

 思わずギュッと抱き締めてしまう。


「……っ!」

 するとセレナはビクッと体を震わせるのだった……。


(あ……)

 抱き合ったまま、息が近い。

 セレナの髪から、今日一日いろんな場所を一緒に歩いた匂いがする。

 それがたまらなく愛おしくて、ジークは腕の力を少しだけ強める。


 2人は抱き合ったまましばらくそのままの体勢でいたが、やがて見つめ合いどちらからともなくキスをする。

 唇が触れた瞬間、胸の奥が熱くなって、世界が静かになる。

 そしてそのまま二人だけの時間が始まるのだった。


 夜がゆっくり更けていく。

 窓の外では風が木々を揺らし、遠くで虫の声が重なっていた。

 その音さえ、どこか優しく聞こえるのは――きっと、隣にセレナがいるからだ。



 2人揃ってシャワーを浴びた後、お酒を飲むことにした2人。

 グラスの縁が月明かりを受けて、きらりと光る。


「ジークとこういう日が来ると思ってたからいろいろと調べてたんだけど、やっぱりいざ本番となると緊張しちゃった……」

 セレナは照れたように笑って、グラスを回す。

「そうなんだ。実は俺もちゃんとリードできるように調べてたんだ……。イメトレの成果が出てたといいけど……」


 2人はお互いを見つめながら、お酒を1口飲んだ。

 少し甘くて、喉を通る熱がゆっくりと胸に落ちる。


「ねぇジーク……。このお酒は、"シェリー"って言うんだけど……込められた意味はね……ふふ」

 そう前置きをすると、セレナはジークの耳に顔を近づけてそっと囁いた……。


 "今夜は帰さないから"。


 ゾクッとした快感を感じるジーク。

 背中が痺れるように熱くなる。

 その瞬間、再びセレナの唇を奪っていた。



 翌朝、目を覚ましたジークは隣で寝ているセレナの姿に気づくと優しく頭を撫でた。

 寝息は穏やかで、髪が頬にかかっている。

 そんな彼の優しい仕草に安心したのか、セレナは幸せそうな表情を浮かべると彼に抱きついて再び眠りにつくのだった……。


 それから数時間後、ようやく目覚めたセレナと共に朝食を食べることにした。

 キッチンに立つ音、パンが焼ける香り。

 昨夜の余韻がまだ残っているのに、朝の光がそれを優しく包んでくれる。


「ジーク。また私たち一緒に初めてのことを経験したね。ふふ、嬉しいな」

 ジークはその言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。

 言葉を飲み込みそうになりながら、小さくうなずいた。

「そうだな……本当に幸せだ。セレナともっといろんな初めてを経験できると思うとワクワクするよ」

 そう言って微笑むジーク。彼につられてセレナも笑顔になるのだった……。



 その日のお昼までに帰って来るはずだったリチャードは、親戚の家にもう1泊することになったとセレナに連絡を送ってきた。

 スマホの通知音が鳴った瞬間、セレナがぱっと画面を見て、少し固まる。

 つまり今日の夜も2人きりで過ごすことができるのだ。


「ねぇ、ジーク。お父さん、今日も親戚の家に泊まって来るんだって……。よかったら、その……もう一晩、一緒に過ごしませんか……?」

 指先が落ち着かなくて、袖口をつまんでいる。

 ジークはギュッと強く抱きしめた。


「もちろんだよ! 2人でゆっくり過ごそうな」

「うん……!」

 こうして2人はその日も一緒に過ごすことになった。



 ジークは一度、着替えや試験勉強の道具を取りに家に帰り、すぐにまた戻ってくる。

 昨日の転送装置の感覚か夜の感覚か……、体が"ふわり"としていて今日は妙に軽い。

 足取りまで弾んでしまう。


 そして2人でデートに出掛ける。

 セレナが行きたがっていた美術館に行き、その後は2人で街中を散策。


 これまでのある程度プランを決めているデートではなく、気ままに歩き回って気になった所に入るという自由なデートを楽しむ。

 路地裏の小さな雑貨屋、香りのいいカフェ、ふと目に入った屋台の甘い匂い。

 “予定外”の全てが、思い出になっていく。


 ふとした瞬間に手と手が触れ合ったり、何気ない会話を交わしたりする中でさらに距離が縮まっていくのを感じ、2人はその幸福感に包まれていた。

 言葉がなくても大丈夫だと思える。

 それが、何よりもうれしい。


 その日もゲームセンターで新たなぬいぐるみを獲得したジーク。

 セレナの部屋のぬいぐるみがまた1つ増える。


 2人はそんなデートを心ゆくまで楽しむのだった……。



 帰宅したジークは昨日はずっと求めあい、疲れ果ててそのままリビングで寝たことを思い出す。


「そういえば俺ってセレナの部屋、まだ入ったことなかったよな」

「え? ふふ、もちろん入っていいよ。ジークならいつでも大歓迎」


 そう言って手招きするセレナの部屋に入ると、そこは綺麗に片付けられていて可愛らしい小物やぬいぐるみがたくさん飾られていた。

 柔らかな色のクッション、小さな飾り棚。

 “好き”が丁寧に積み重なった空間だ。


 そんな部屋の窓際に先日プレゼントしたクマのぬいぐるみが座っていることに気付き、思わず笑みを浮かべるジーク。


 少し嬉しくなりつつ部屋を見回す。


「セレナって一見クールだけど、やっぱり可愛いもの好きだよな。部屋も可愛い物であふれてるし……」

と、そこで言葉を区切るジーク。

 空気を吸い込むと、ほんのり甘い匂いがして、胸の奥が落ち着く。


 セレナが不思議そうに首を傾げると、ジークは深呼吸する。

「う~ん、セレナのいい匂いがして落ち着くな……。あ、あれ? セレナどうしたの?」

「も、もう! いきなり変な事言わないで!」


 顔を真っ赤に染めて立ち上がるセレナ。

 そんな姿が可愛らしく思えて、彼女の髪を優しく撫でるジーク。

 指先に触れる髪はさらさらで、つい何度も撫でてしまう。

 彼女は気持ちよさそうに目を細める。


「可愛いな。普段とのギャップがまた魅力なんだよな」

 そう言って微笑みかけると、セレナはさらに顔を赤くして俯いてしまうのだった……。

「もう、ジークったら……恥ずかしいよ……」


 もじもじするセレナを優しく抱き寄せると、彼女は一瞬ビクッとしたがすぐに身体を委ねてくる。

 肩に触れる温度が、心臓を落ち着かなくさせる。

 しばらくそのまま抱き合っていた2人だったが、不意に視線が合うと自然と顔を近づけて唇を重ねるのだった……。


「んっ……」

 軽く触れ合う程度のキスだったがそれだけでも十分満足できるものだった。



 その後2人は、それぞれ試験勉強と新たなカクテル考案をする。

 愛する人と過ごす時間であっても、それぞれの夢や目標に向けて勉強や試作を欠かさない。


 それが2人のやり方であり、お互いを信頼している証でもあった。


「ここの論文問題なんだけど、ちょっとセレナに読んでもらっていいかな?」

「うん、もちろん。ジークも夜になったら、今日考えたカクテルを試飲してもらっていいかな?」

 2人はお互いに協力し合いながら、それぞれの夢に向かって邁進するのだった。


 勉強が一段落したジークは、リビングを借りて日課の筋トレを始める。

 呼吸を整え、丁寧に体を動かす。

 それを横目で見ていたセレナは、相変わらずの身体能力の高さに改めて感心するのだった。


(本当にすごいなぁ。ああやって鍛えてるから、あんなに強いし、優しいし……。それに……)


「あ……」

 思わず声が出てしまうセレナ。

 視線の先にはジークの鍛え上げられた肉体がある。

 そのたくましい腕や胸板を見ていると自然と顔が赤くなってしまうのだ。

 そんな自分に気付き慌てて視線を逸らすと、それを誤魔化すように再びお酒作りに集中するのだった……。

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