第44話「海デート。近づく素肌と吐息」
それから3日後の8月初め。
ついに海デート当日を迎えるジークとセレナ。
空はどこまでも青く、太陽は遠慮なく照りつけていた。
街中よりもずっと濃い潮の香りがして、胸いっぱいに吸い込むだけで気分が上がる。
2人はプライベートビーチにやって来た。
2人の貸し切りのため、他の客はいない。
波の音と、風に揺れるヤシの葉の擦れる音だけ。
まるで世界がふたりのために静かになったみたいだった。
「わぁ~。ねぇ、見てジーク! 海がすごく綺麗よ」
子供のようにはしゃぎながらはしゃぐセレナ。
白い砂浜に足を踏み入れた瞬間、サラッとした砂が指の間にすり抜ける。
ジークはその後ろ姿を見て、自然と頬が緩む。
「ああ、本当に綺麗だな」
海だけじゃない。
セレナの笑顔も、声も、今日はいつもより眩しい。
そして2人は水着に着替える。
更衣室も2人きりであるため、カーテンを隔てて服を脱ぐ音がする。
布の擦れる音、金具が外れる小さな音。
それが妙に生々しくて――ジークは喉を鳴らした。
(こ、このカーテンの向こうにセレナが……。セレナの水着姿がもうすぐ見れるのか……!)
胸が落ち着かない。
波の音さえ、いつもより大きく聞こえる気がした。
そんなジークを知ってか知らずか、セレナは彼をからかった。
「ふふ……ジーク……興奮してるでしょ」
「……え!? いや、その……」
いきなり図星を突かれたジークが慌てふためく中、セレナが先に言う。
「ふふ、私は準備できたよ。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいかな……」
1つ年下のジークの前で余裕を見せようとしたセレナだったが、彼女の方も緊張しているのだろう。
声がほんの少しだけ上ずっている。
セレナが水着に着替えるのを待って、ジークもカーテンの外に出る。
「おぉ……」
そして彼は思わず言葉を失う……。
ジークの目の前には、鮮やかな色のビキニ姿のセレナがいた。
透き通るような白い肌を彩るのは黒のビキニだ。
日差しに映えるコントラストが、彼女の大人っぽさをさらに引き立てている。
海の青と白い砂の中で、セレナだけが別の色みたいに際立っていた。
「ど、どうかな……? あ、あんまりジロジロ見ないでよ……」
恥ずかしそうにモジモジしながらそう言うセレナ。
手で腕を押さえたり、視線を落としたりして落ち着かない。
ジークは息を呑んだまま、そっと彼女の手を取る。
「あ……」
セレナはその手をギュッと握り返しながらも、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてうつむく。
そんな彼女がたまらなく愛おしいと感じたジークは、彼女の頬に優しく手を添えて自分の方に向かせる。
指先に伝わる、熱。
近づくほど、セレナの香りがふわりとする。
「かわいいよ」
その言葉に、セレナはさらに顔を赤くするのだった……。
ジークの方はというと、シンプルな黒の水着を着ていた。
濡れても動きやすそうな、飾り気のないもの。
だが、それが逆に“素”の身体つきを浮き彫りにしていた。
「ジークの水着姿も、かっこいいよ……」
セレナは頬を赤く染めながらそう言う。
目線はうろうろしているのに、ちらっと見てしまって、また慌てて逸らす――そんな繰り返しだ。
「筋肉、すごいんだね……硬い……」
彼女はジークの腹筋や胸筋、腕などをペタペタと触りながら呟く。
冷たい指先が触れるたび、ジークの背筋がくすぐったく跳ねる。
「あはは! ちょっとくすぐったいって、セレナ」
そんなジークに構わずセレナは頬を赤くしながら、彼の筋肉を触る。
確認するみたいに、そっと、何度も。
そうやって2人だけでイチャイチャしながら、今度はサンオイルを塗りあった。
「じゃあ、私がジークに塗ってあげるね」
セレナはそう言うと、彼の背中にサンオイルを垂らす。
とろり、と冷たい雫が落ちる感覚に、ジークは思わず肩をすくめた。
そしてそれを手で伸ばしていく。
指の腹がゆっくり滑り、背中をなぞるたび、温度がじわじわと移っていく。
「どう? 気持ちいい?」
そんなセレナの言葉に、彼はうなずく。
「ああ……すごく気持ちいいよ……」
(あ~、なんだかこれ……やばいな……)
背中越しに感じる彼女の手の感触と温もりに、ジークは思わず興奮するのだった……。
呼吸が少しだけ乱れるのを、必死で誤魔化す。
そして今度はジークが、セレナの背中にサンオイルを塗る。
「んっ……! あ、ありがと……」
背中を触られてピクンッと体を反応させるセレナに、ジークの鼓動が跳ねる。
あまり強く触れたらいけない、とわかっているのに、指先が勝手に慎重になる。
ジークの興奮は高まる……。
そんな興奮を落ち着かせるように、サンオイルを塗り終わった2人は手を取り合って海に入っていく。
白い砂から海へ踏み出すと、ひんやりした水が足首を包んだ。
「きゃ~、冷た~い!」
楽しそうにはしゃぐセレナを見て、ジークもはしゃいだ。
それから2人はビーチボールを使って遊んだり、海に潜ったりして楽しむのだった。
波に押されてよろけたり、笑いながらバシャバシャ水を掛け合ったり。
水しぶきが太陽に照らされて、小さな虹みたいにきらめく。
(映画とかドラマみたいなことを自分がする日が来るなんてな……)
2人は楽しい時間を満喫していた。
お昼になると、セレナが作ってきてくれたお弁当食べることに。
潮風が気持ちよく吹くベンチ。
そこからは海が見渡せて、波の音がゆっくり耳に届く。
2人は海が見えるベンチに腰掛け、セレナの手作り弁当を食べるのだった……。
「ん~! うんまいっ! さっすがセレナ!」
そう言って美味しそうに食べるジークに、セレナは嬉しそうに微笑む。
お弁当箱の蓋を押さえながら、少しだけ胸を張った。
「ふふ、ありがと。たくさん食べてね。私、ジークが美味しそうに食べる姿好きなんだよね」
ジークは嬉しそうに笑い、夢中で食べ続けるのだった。
まるで褒められるたびにお腹が空くみたいに。
ご飯を食べて少し休憩していると、ジークはふとセレナの方に視線を向ける。
(セレナの水着、本当に似合ってるなぁ……。それになんだか色っぽくてドキドキする)
セレナのビキニ姿に見とれるジークの視線に気づいたのか、彼女は恥ずかしそうにモジモジとしながら言う。
「あ……あんまり見ないでってば……」
そんな彼女の仕草にドキッとしたジークは、慌てて視線をそらす。
……が、やはり気になってチラチラと見てしまう。
そんなジークの視線に気づいたのか、セレナは頬を赤く染める。
「あ……んもぅ……えっ、えっち……」
その言い方が、可愛すぎて。
ジークは息を呑む。
セレナの仕草がたまらなく愛おしいと感じたジークは思わず彼女を抱き締めてしまう。
「きゃっ! あ、あの……」
いきなり抱き締められて驚くセレナだったが、すぐに彼の背中に腕を回してギュッと抱き返すのだった。
胸元に頬が触れて、互いの体温がじんわり混ざる。
2人はしばらくそのままでいた。
そしてどちらからともなく離れると見つめ合い、自然と2人の唇は重なるのだった……。
潮の香りと、甘い息が近い。
それから夕方になり、海に太陽が沈んでいくのを肩を寄せ合って眺める2人。
昼の眩しさが嘘みたいに、光がオレンジに柔らかく変わっていく。
波の音も、どこか穏やかだ。
「綺麗だね……」
「うん、綺麗だな」
2人は肩を寄せ合って手を繋ぎながらそう呟きあう。
指と指が絡んで、離れない。
そして――セレナが小さく息を吸って、意を決したみたいに言った。
声が少し上ずっている。
「ね、ねぇ……今日なんだけどね。お父さん、親戚の家で集まりがあっていないんだ。それで……その……よ、よかったら今日の夜は私の家で夕飯を食べながらお酒を飲まない?」
セレナは緊張しているのか、頬まで赤くして、視線を漂わせる。
ジークの返事を待つ間だけ、波の音がやけに大きく聞こえた。
その申し出にドキッとしながらも、ジークはうなずいた。
(こ、これって……。セレナの家で夜を過ごすって……そういう事だよな!?)
そう思いながらセレナの方を見ると、彼女はさらに真っ赤になる。
でも目は逸らさない。
逃げない。
ジークは喉を鳴らして、なるべく平静を装って言った。
「お、おう。それじゃあお邪魔させてもらおうかな」
ジークの言葉に、セレナは嬉しそうに微笑む。
その笑顔が、夕焼けよりも眩しく見えた。
「うん! それじゃあ今日は2人で一緒に夜更かししようね」
2人は肩を寄せ合って、星が輝き始めた海を眺めるのだった……。
波の音は変わらないのに、世界は少しだけ違って見えた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次回も読んでいただけると嬉しいです。




