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第42話「友と弟の晴れ姿 ~弟から兄へ~」

 2人が正式に付き合い始めてから少しした頃。

 ついにテリーの結婚式の日になる。


 街の空気はどこか柔らかくて、空も明るい。

 式場へ向かう道すがら、ジークの胸の中には、緊張と、嬉しさと、ほんの少しの感慨が混ざっていた。


 友人であり、友人代表のスピーチを頼まれたジーク。

 親戚であるセレナも呼ばれている。

 そのため2人揃って結婚式に出席するのだ。


「テリーくんも結婚か……。ジークを励ます2年くらい前に、今みたいに元気になったのよね」


 セレナの声は、どこか懐かしそうで優しい。

 ジークは礼服の襟元を指で整えながら、うなずいた。


「あいつには本当に励まされたからな。それに……あいつが飲みに誘ってくれたおかげで、セレナさんに会えたんだし」


 そう言ったジークに、セレナはそっと微笑む。

 指先がふわりと触れて――彼女はそのまま、ジークの手を握った。


「ふふ、そうね。でもね。私とジークはあの日出会わなくても、いつかどこかで出会っていたと思うの」


 温かい手の感触が、胸の奥まで沁みる。

 ジークも、自然に笑みを返した。


「うん、俺もそう思うよ」


 2人は式場へと向かい、受付を済ませる。

 白い花が飾られたエントランス。

 グラスの澄んだ音、柔らかな笑い声、香水と花の香りがふわりと混ざり合う。



「ジーク、セレナさん。今日は来てくれてありがとう」


 2人に気付いたテリーは嬉しそうに笑って言う。

 普段よりきちんとしたスーツ姿のテリーは、少し照れくさそうでもあり、どこか誇らしそうでもあった。


「今日は来てくれてありがとうね」


 そんなテリーの隣には、彼の妻である真由美が微笑みながら立っている。

 白いドレスが光を受けて、まるで柔らかい雪みたいに見えた。


 結婚式は問題なく進んだ。

 しっかり練習してきたスピーチを披露したジークも、会場を大いに盛り上げていた。

 笑いと拍手が波のように広がり、ジークの喉の奥の緊張が、ようやくほどけていく。


「ジーク、いいスピーチだったよ」

 そう言って微笑むテリーに、ジークも笑って返す。

「ありがとう。いや~緊張したわ」


 席に戻る途中、セレナがそっと近づいて、ジークの耳元に小さく囁く。

「お疲れ様」


 その声が近すぎて、ジークは思わず肩をすくめそうになる。

 けれど、うれしくて――つい笑ってしまった。



 式の最後、ブーケトスが行われる。

 親戚のため、あまり前の方ではなく後ろの方に立つセレナ。

 ふわふわと浮くようなドレスの裾を整えながら、彼女は少し緊張した顔で前を見ていた。


 だが――花嫁である真由美の投げたブーケは、綺麗にセレナの立つ場所に飛んで来た。


「え? えっ?」


 彼女の手にスッポリと納まるブーケ。

 白と淡い色の花が、胸の前でぱっと開く。

 会場からは拍手が起こり、いくつもの声が明るく弾んだ。


 テリーが彼女に声を掛ける。


「次はセレナさんだね」


 その言葉を受け、セレナはジークの方をチラリと見る。

 ブーケの間から覗く視線は、恥ずかしさと、願いと、ほんの少しの勇気を混ぜたみたいだった。


 そんなセレナに、ジークは優しく微笑む。


(私もいつか……ジークと……)

 セレナの恥じらう視線に気付き、ジークも顔を赤くするのだった。



 結婚式が終わり、ジークとセレナは手をつないで、セレナの家へと向かっていた。

 式場の喧騒を離れると、空気がすっと静かになる。

 夜風が少し冷たくて、頬の熱を落ち着かせてくれる。


「いい式だったね」

「うん、本当に……。あ、ねぇジーク。ちょっと寄り道してもいいかな?」


 セレナが少しだけ子どもみたいに言う。

 ジークは首を傾げる。


「いいけど、どこに行くの?」

 その問いに、セレナは笑顔で答えた。


「ふふ、秘密!」

 そして2人はセレナの家を通り過ぎ、そのまま歩いて行く。

 街灯の光が、ふたりの影を長く伸ばしていた。


「あ! もしかして……」

 ジークが口にした瞬間、セレナは嬉しそうに笑う。


「うん、そうだよ。もうすぐ着くからね」

 そんなセレナにジークは微笑み返すのだった。


 2人はそのままある場所へと到着した。

 それはジークも知っているエディンでは有名な場所だった……。


 そこは海に面した公園で、目の前には美しい夕日が輝いている。

 海面が金色に揺れて、波の音が静かに寄せては返す。

 潮の匂いが、ふわっと鼻先をくすぐった。


「きれい……」

 2人でベンチに座って夕日を眺めながら呟くセレナに、ジークが言う。

「あぁ、本当にきれいだな」


 夕日に照らされたジークの横顔にドキッとしたセレナは、思わず彼の手を握る。

 握った指先が、少しだけ震えている気がした。


 そして彼の肩に頭を乗せて、嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ……ジーク……」

 そんなセレナを愛おしそうに見つめるジーク。

「セレナ……」

 2人は夕焼けが沈むまでずっと海を眺め、ゆっくりとした時間を過ごすのだった……。



 翌週は、ケインとアミの結婚式だ。

 友人の次は、弟の結婚式。

 式場の前で、ジークは胸の奥がきゅっとなるのを感じながら、グッと拳を握りしめた。


「ついにケインも結婚かぁ。早いもんだ……。俺は……。いや、俺だっていつかセレナと……!」


 そんな気持ちを飲み込むように息を吐いた、その時。


「そりゃあ楽しみだ。兄ちゃん、今日はよろしくな!」


 振り返ると、ケインがいつもの調子でニッと笑っている。

 でも、晴れの日の笑顔はいつもより眩しい。


「ケイン……。結婚おめでとう。今日はお前とアミちゃんが主役だ! 堂々と幸せになってこい!」


 そんなやり取りをしてジークとケインは笑い合った。

 その笑い声の奥に、兄弟だけが分かる“積み重ね”が確かにあった。



 ――ジークにとって驚きを隠せないことがあった。


 それは世界政府環境省の省長ローダ・エンツォが、ケインの結婚式に参加し、しかもスピーチまでするというのだ。


 会場の空気がざわりと揺れ、誰もが小声で名前を囁く。

 省長自ら、まだ入社して数ヶ月の新人職員の結婚式に参加するなど異例のことだろう。


「はじめまして。あなたがハワードくんのお兄さんでしょうか? 私、ハワードくんの上司のローダ・エンツォと申します」


 スーツの着こなしも所作も、隙がない。

 けれど声は柔らかく、目は真っすぐだった。


 世界政府の最高の地位を持つ1人であるローダに、丁寧に挨拶をされたジークは、背筋が反射的に伸びる。


「は、はじめまして……。兄のジーク・ハワードと申します……。お、弟がお世話になっております!」


 喉の奥が乾く。

 心臓が、少しだけ速くなる。


 ジークは彼から、ケインがいかに優秀であり、新人ながらすでに重要な役職を任されていることを聞かされて驚く。


「え!? あいつ……いつの間にそんな……?」

 驚きを隠せないジークに、ローダは微笑む。

「ええ。本当に彼は優秀なんです。それもあなたの存在があったからでしょう」

 そんなローダの言葉に、ジークは首を傾げるのだった……。



 結婚式が始まり、ローダのスピーチがやって来ると、先ほど聞かされていたよりもさらにケインの優れた仕事ぶりが語られる。

 会場の空気が引き締まり、ひとつひとつの言葉が、真っすぐ届いてくる。


「ハワードくんはとても優秀で頑張り屋です。そして、超の付くほどの愛妻家でもあります。彼と一緒に働く職員たちは、新婦のアミさんのことを何度も嬉しそうに話すハワードくんを見ています。そんなハワードくんが、私はとても誇らしい」


 そう言って笑うローダ。

 会場からはケインに向けて拍手が起こる。

 ケインは恥ずかしそうに頭を掻きながら照れたように笑った。

 その隣で、アミも嬉しそうにうなずいている。


「そしてハワードくんが何度も名前を出すのは、アミさんだけではありません。彼にはずっと尊敬している人がいるのです。その人は、とっくにハワードくんに追い抜かれたと思っているでしょう。しかし、ハワードくんは今でもその人に追いつけるようにと毎日仕事に励んでいます。彼にとってその人は、変わらぬ目標なのです」


 そしてローダはジークを見る。

 その視線を受け、なぜ自分の方を見たのか一瞬わからなかったジークだったが――

 すぐにハッとしてケインの方を見る。


 ジークに笑顔を向け、うなずくケイン。

 その目は、真っすぐで、誇らしくて、どこか優しかった。


「ケインくん、君は私から見ても本当によく頑張っています。そしてこれからもさらに成長していくことでしょう。そんな君を、私は心から誇りに思います」


 そんなローダの言葉に、会場は拍手で溢れかえった。


 けれど――ジークにはその拍手の音が入って来なかった。

 胸の奥が熱くなって、息が詰まりそうで、視界が滲む。


 そんな彼の瞳から、自然と涙が零れおちる。


「ケイン……」


 とっくに先を越され、追いかけても追いかけても追いつけないと思っていた弟が、

 兄である自分のことを尊敬し目標としていた。


 そのことが予想もしてなくて、嬉しくて……ジークは泣いたのだった。

 そんなジークを見て、ケインとアミは微笑むのだった。



「ありがとうな、ケイン。アミちゃんと幸せになれよ……」

 涙を拭いながら、誰に聞かせるでもなくジークはそう呟くのだった……。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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