第40話「つながる想い ~告白~」
居酒屋「月光」に向かう途中、2人はまた話をしていた。
街灯の明かりがアスファルトに淡い輪を作り、夜風が髪を揺らす。
少し前まで「仕事帰りの道」だったはずのこの帰り道が、今はまるで別の場所みたいに感じる。
以前よりもお互いの顔を見て、目を合わせながら話すことが多くなった――と、2人ともどこかで気づいていた。
物理的な距離が近くなった、というのもある。
けれどそれ以上に、心の方が――互いを意識して、勝手に近づいてしまう。
「あの……ジークくん……?」
セレナが小さく呟くと、ジークが「はい?」と返す。
その返事だけで、彼女の胸がまた少し跳ねるのが分かった。
「えっと……その……手……」
そう言って恥ずかしそうに俯くセレナ。
足元の影が揺れ、彼女の声が風に混じってか細くなる。
その視線の先で、ジークはようやく気づく。
自分の手が――彼女の手を優しく握っていたことに。
(しまった! また無意識で握ってた!?)
指先が触れ合って、熱が伝わって。
セレナは耳まで赤くして俯いていた。
謝ろうとしたジークだったが、言葉が喉で引っかかった。
――離したくない。
そんな思いが、先に胸の奥で膨らんでしまったから。
ジークは一度息を吸って、優しい声で言う。
「無意識で握っちゃってました。でも、このままでもいいですか?」
その言葉にセレナは真っ赤になった顔を上げ、ジークを見つめる。
街灯の光が、彼女の瞳をきらりと照らす。
「え? あの……えっと……その……うん、私もこのままでいたい……かな……」
そう言ってセレナはジークの手を強く握り返す。
ぎゅっと。
確かめるみたいに、逃がさないみたいに。
2人の心臓がまたドキドキと高鳴る……。
「じゃあ、このままで……」
「うん、ありがとう」
言葉は短いのに、胸の中はいっぱいになる。
そんな2人は、手を繋ぎながら月光へと向かうのだった……。
月光の店内に入ると、香ばしい揚げ物の匂いと、出汁の温かい香りがふわりと鼻をくすぐった。
賑やかな笑い声、グラスの触れ合う音。
外の夜とは別世界の、少しだけ熱い空気。
カウンター越しに、ヒカリが振り返る。
「あ、2人ともいらっしゃい! って、あ~ら、お熱いこと!」
ニヤニヤしながら言うヒカリに、ジークとセレナは反射的に手を離し――かけて、
けれど、すぐには離せず、ぎこちなく視線をそらす。
「あ、あの! とりあえず生ビールを2つお願いします!」
ジークが勢いで言うと、ヒカリは肩を揺らして笑った。
「あら? お食事はしないの?」
そんなヒカリにセレナが答える。
その声は、いつもより少しだけ弾んでいる。
「うん、実は今日デートでたくさん食べちゃって……だから軽くおつまみだけ頼もうかな。ヒカリのおススメもらってもいい?」
そう言って微笑むセレナに、ヒカリも笑顔でうなずく。
「そう、わかったわ! それじゃあちょっと待っててね」
ヒカリは軽く返事をして、おつまみを作り始める。
包丁がトントンと心地よく鳴り、油がじゅっとはぜる音がする。
(ふふ、セレナ。あなた今、自分の口からデートって言ったのよ? 本当にハワードくんのことが好きなのね)
ヒカリは心の中でそう呟き、楽しそうに会話をする2人を優しく見守るのだった……。
生ビールの泡が落ち着く頃には、3人の会話もすっかり温まっていた。
グラスを傾けるたび、肩の力が抜けていく。
一時間ほどヒカリも交えて談笑したジークたち。
笑って、食べて、飲んで。
気づけば外の夜が、さらに深くなっていた。
そろそろ帰ろう、とジークが支払いを終える。
レジの音が鳴って、ヒカリが「ありがと」と軽く手を振る。
その直後――
ヒカリがひょいっと身を寄せ、ジークの耳元で囁いた。
「んで、もう告白はしたの?」
その言葉にジークは顔を真っ赤にする。
耳まで熱い。呼吸が一瞬止まる。
「い、いえ……」
そこで言葉を区切ると、覚悟を決めたような表情を浮かべるジーク。
「……でも、今日告白しようと決めてるんです」
その言葉にヒカリは嬉しそうに笑う。
からかいじゃない、ちゃんと背中を押す笑い方だ。
「うん、いい顔! 頑張ってね!」
そんな2人のやり取りを不思議そうに見つめるセレナに、ジークは笑顔で言う。
「それじゃあ帰りましょうか?」
それから2人は家まで一緒に帰ることに。
2人の手は、しっかりと繋がれていた……。
夜の街は、昼より静かで、少しだけ甘い。
車が遠くで通り過ぎる音。風が葉を揺らす音。
足音が揃うたび、胸の奥が落ち着いていく――いや、逆に速くなる。
「今日は楽しかったわ! ありがとう」
セレナの家の前まで送って来たジークに彼女はそうお礼を言った。
街灯の光が、彼女の横顔を柔らかく照らす。
そんな彼女にジークもお礼を言う。
「こちらこそ、ありがとうございました。また行きましょう」
セレナは少し恥ずかしそうにしながらもうなずいた。
「うん……。それじゃあね!」
手を振って家に入ろうとするセレナ。
その手をそっと、ジークが掴む。
「え……?」
指先が触れた瞬間、セレナの心臓が跳ねる。
ジークの瞳が、まっすぐこちらを見ている。
そしてセレナの瞳を真っすぐ見つめながら、ジークは自分の気持ちを伝えた。
「セレナさん、今日のうちにセレナさんに伝えておきたいことがあるんです」
ジークの言葉にセレナも心臓をドキドキさせながらうなずく。
「うん……」
それから2人は見つめ合ったまま黙り込んでしまう。
言葉が出ない。
空気が止まったみたいに、夜が静かになる。
ジークはセレナの瞳を、セレナはジークの目をジッと見つめる。
互いの呼吸。互いの鼓動。
近すぎて、全部が聞こえそうだった。
2人の心臓の鼓動が早くなる……。
「セレナさん、俺……あなたのことが好きです。最初は行きつけのお店の綺麗な店員さん、お店でバイトをするようになってからは憧れの先輩でした……。でも、今は違います。俺はセレナさんのことを1人の女性として愛しています。俺と付き合ってください!」
ジークの告白に、セレナは顔を真っ赤にする……。
胸の奥が熱くて、喉がきゅっと締まる。
「ジーク……くん……」
ジークの名をつぶやいてから、彼女はゆっくりと口を開いた。
「私も……同じ気持ちだよ? 前からずっと気になってて……。でも、この気持ちがなんなのかわからなくて……。でもね? ジークくんとデートしててわかったの! 私……やっぱりジークくんのことが好きなんだって!」
言葉が震える。
でも、まっすぐだ。
2人は見つめ合ったまま、さらに心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
そしてセレナは、ゆっくりと口を開く。
「ジークくん、私も……あなたのことが大好きです」
そう言って微笑むセレナ。
その笑顔が、あまりにも愛おしい。
ジークは彼女をそっと抱きしめた。
「セレナさん……」
ジークの胸に顔を埋める彼女は、彼の背中に手を回してギュッと抱きしめ返す……。
ぎゅうっと。
あったかい。確かにそこにいる。
「 だから……これからよろしくお願いします」
そう言って微笑むセレナに、ジークも微笑んで返す。
「はい! こちらこそよろしくお願いします!」
2人はそのまましばらく抱き合うのだった……。
それから少しして、自分の家へと帰ったジーク。
玄関の鍵を閉める音がやけに大きく響く。
そして自分の部屋に着くなり、ガッツポーズをして隠しきれない喜びを爆発させる。
「よっしゃ~! 本当にセレナさんと……セレナさんと恋人になれた! 夢じゃないよな!?いや、夢じゃない!」
そうしてベッドにダイブしてゴロゴロと転がる。
布団がふかっと沈むたび、笑いが漏れる。
(あぁ……幸せだ~! 明日からどんな顔をして会えばいいんだ!?)
ジークはセレナの笑顔を思い返しながらニヤニヤが止まらなくなる。
一方のセレナもまた、自分の部屋でジークへの想いに浸っていた。
今日、クレーンゲームでジークが取ってくれたクマのぬいぐるみを抱きしめながら、先ほどの告白を思い出して顔を赤くする。
「ジークくん……」
ぬいぐるみに顔を埋めてセレナはつぶやく……。
「ジークくん……大好きだよ」
2人は夢の中にいるかのように、1日を思い返しながら眠りにつくのだった……。
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