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まさか幽霊に恋するとは…  作者: 不可思議ラボ


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9/13

第9話 玄関に現れた少年は昔の僕だった

「八人目が生まれたぞ」

玄関の向こうで

僕と同じ顔の男が笑った。

その隣には

十歳くらいの少年。

子どもの頃の僕と

瓜二つの顔だった。

「誰なんだよ……」

僕が呟くと

少年が顔を上げた。

「お兄ちゃん」

その声を聞いた瞬間

胸の奥が痛んだ。

「僕を助けて」

男が少年の肩に

手を置いた。

「ほら、挨拶しろよ」

少年は俯いた。

「僕も悠真です」

背後から

美月が駆け寄ってきた。

「開けちゃ駄目!」

彼女は僕の腕を掴んだ。

その手は温かかった。

昨日までの

幽霊の冷たさがない。

「美月さん」

僕は振り返った。

「この子は何なんですか?」

美月は少年を見つめた。

その表情が

みるみる青ざめていく。

「そんな……」

彼女は首を振った。

「まだ早すぎる」

男が笑った。

「予定より早かったか?」

「あなたが連れてきたの?」

美月の声が震えた。

「違うさ」

男は僕を指さした。

「こいつが生んだんだ」

僕は息を止めた。

「僕が?」

「昨夜、お前たちは

一つになっただろ」

男は楽しそうに続けた。

「その結果だよ」

美月が叫んだ。

「やめて!」

男は肩をすくめた。

「事実だろ?」

僕は少年を見た。

小さな手。

怯えた瞳。

その姿は

昔の自分そのものだった。

「この子は

どうなるんですか?」

男は笑みを消した。

「お前が消えれば

こいつが代わりになる」

「代わり?」

「お前の人生を

引き継ぐんだ」

背筋が凍った。

「そんなこと

できるわけないだろ」

男は首を傾げた。

「現にお前も

そうして生きてきた」

僕は言葉を失った。

「どういう意味だ?」

男は答えなかった。

代わりに少年の背中を

軽く押した。

少年が一歩前に出る。

「お兄ちゃん」

「……何?」

「僕、帰りたい」

その声は

今にも泣き出しそうだった。

「どこへ?」

少年は答えなかった。

ただ僕の胸を指さした。

「そこ」

僕は思わず

胸元に手を当てた。

二つ目の鼓動が

再び鳴り始めた。

ドクン。

ドクン。

美月が僕の前に立った。

「その子を見ないで」

「でも……」

「お願い!」

その瞬間

少年が泣き出した。

「お兄ちゃん!」

玄関の照明が瞬いた。

「僕を一人にしないで!」

僕は反射的に

ドアノブへ手を伸ばした。

美月が叫ぶ。

「悠真!」

指が触れた瞬間

玄関の扉が

内側から激しく揺れた。

僕は後ずさった。

扉の向こうで

男が低く笑った。

「やっぱり優しいな」

少年の泣き声が止まる。

「だから毎回

同じ失敗をするんだ」

次の瞬間

玄関の向こうが

静かになった。

ドアスコープを覗く。

誰もいなかった。

僕は鍵を開けず

その場に座り込んだ。

美月も隣に膝をついた。

「ごめんね」

彼女が呟いた。

「また守れなかった」

僕は首を振った。

「まだ生きてます」

「でも……」

「美月さん」

僕は彼女を見つめた。

「もう逃げるのは

やめませんか?」

彼女は黙った。

「僕が消える前に

全部知りたいんです」

美月は目を伏せた。

「約束したよね」

僕は続けた。

「もう嘘はつかないって」

長い沈黙。

やがて美月は頷いた。

「分かった」

その声は

今までで一番小さかった。

「でも私にも

分からないことがある」

「それでもいいです」

美月は僕の手を握った。

「十五年前のことを

話すね」

僕は息を止めた。

彼女はゆっくり

語り始めた。

十五年前。

スナック月あかりは

温泉旅館の別棟で

毎晩営業していた。

美月はそこで

働いていた。

常連客も多く

店は賑やかだった。

「でもある日」

彼女の表情が曇った。

「変なお客さんが来たの」

「どんな人?」

「私の名前を

最初から知ってた」

僕は眉をひそめた。

「それが十五年前の僕?」

「うん」

美月は頷いた。

「その人は

未来から来たって言った」

第5話で聞いた話だった。

「最初は冗談だと思った」

彼女は続けた。

「でもその人は

私が死ぬ日を知ってた」

「どうして?」

「分からない」

美月は首を振った。

「ただ一つだけ

覚えてることがある」

彼女は僕を見つめた。

「その人は

私を助けるために

来たんじゃなかった」

僕は息を呑んだ。

「じゃあ何のために?」

「私に会うため」

美月は静かに答えた。

「もう一度

恋をするために」

部屋が静まり返った。

「その人はね」

美月の声が震えた。

「私と初めて会ったとき

泣いていたの」

「泣いてた?」

「うん」

彼女は目を閉じた。

「やっと会えたって」

僕は思い出した。

廃旅館で

美月が言った言葉。

『やっと来てくれた』

まるで

同じ場面を

繰り返しているようだった。

「その人と

付き合っていたんですか?」

僕が聞くと

美月は少し迷った。

「短い間だけ」

胸が痛んだ。

嫉妬しているのか。

相手は自分と

同じ顔の男なのに。

「でも幸せだった」

美月は続けた。

「初めて

本当に愛されたと思った」

僕は黙って聞いていた。

「そして最後の夜」

彼女の表情が変わった。

「その人が

私に言ったの」

美月は震える声で

言葉を再現した。

『今夜は絶対に

二階へ行くな』

僕は息を止めた。

「二階?」

「旅館の二階」

美月は頷いた。

「でも私は

行ってしまった」

「どうして?」

「女の子の声がしたの」

彼女は遠くを見るように

目を細めた。

「助けてって」

背筋が冷たくなった。

「誰かいたんですか?」

「分からない」

美月は首を振った。

「二階の廊下には

誰もいなかった」

「じゃあ声は?」

「一番奥の部屋から」

美月は両手を握りしめた。

「二〇八号室」

その番号を聞いた瞬間

僕の胸が激しく痛んだ。

「うっ!」

美月が驚く。

「悠真!」

僕は胸を押さえた。

頭の中に

知らない景色が浮かんだ。

薄暗い廊下。

赤い絨毯。

そして

『208』と書かれた扉。

「見える……」

僕は呟いた。

「何が?」

「二〇八号室……」

美月の顔が青ざめた。

「どうして知ってるの?」

僕は答えられなかった。

頭の中で

扉がゆっくり開いた。

その向こうには

小さな女の子がいた。

白いワンピース。

長い黒髪。

女の子は

こちらを見つめていた。

そして言った。

『お兄ちゃん』

僕は息を呑んだ。

『やっと来たね』

その瞬間

景色が消えた。

僕は床に倒れ込んだ。

美月が抱き起こす。

「悠真!」

僕は荒い息を吐いた。

「二〇八号室に

女の子がいました」

美月の顔から

血の気が引いた。

「……見たの?」

「はい」

彼女は震え始めた。

「そんなはずない」

「どうして?」

美月は僕の肩を掴んだ。

「その子は」

彼女の声が途切れた。

「十五年前に

死んだはずなの」

僕は言葉を失った。

「誰なんですか?」

美月は目を閉じた。

そして

震える声で答えた。

「私の妹」

僕は息を止めた。

「妹さん?」

美月は頷いた。

「名前は結衣」

彼女の目から

涙がこぼれた。

「十五年前

あの旅館で死んだの」

僕は何も言えなかった。

美月は続けた。

「私が死んだ夜と

同じ夜に」

部屋の時計が

突然止まった。

午後二時八分。

秒針が動かない。

その瞬間

僕のスマホが鳴った。

知らない番号。

画面には

一枚の写真が表示された。

古い旅館の廊下。

二〇八号室の前に

少年が立っている。

さっき玄関にいた

十歳の僕だった。

その隣には

白いワンピースの女の子。

結衣。

二人は手をつないでいた。

写真の下には

短い文章があった。

『二人を迎えに来て』

僕は美月を見た。

彼女も写真を見つめていた。

そして

信じられないことを言った。

「悠真……」

「何ですか?」

美月の声が震えた。

「私、今思い出した」

彼女は僕の手を握った。

「十五年前

二〇八号室に入ったとき」

僕は息を止めた。

「そこには

もう一人いたの」

「誰が?」

美月は涙を流しながら

僕を見つめた。

「あなたよ」

僕は動けなかった。

彼女は続けた。

「今のあなたと

まったく同じ姿の人が」

そして

最後にこう言った。

「その人が

私を殺したの」

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