↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まさか幽霊に恋するとは…  作者: 不可思議ラボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

第8話 幽霊の彼女と結ばれた夜に僕が消え始めた

『七人目』

僕の胸に浮かんだ文字を

何度見直しても

消える気配はなかった。

そして頭の中では

あの男が笑っていた。

『あと一人だ』

「何があと一人なんだ!」

思わず叫んだ。

隣にいた美月が

驚いて起き上がる。

「悠真?どうしたの?」

僕は胸元を隠した。

「何でもない」

「嘘」

美月は僕の顔を覗き込んだ。

「また何か聞こえた?」

僕は黙っていた。

彼女はゆっくり

僕の手を握った。

「もう隠し事はしないって

約束したよね」

その言葉に

僕は苦笑した。

「美月さんもですよ」

彼女は少しだけ

困った顔をした。

僕は服をめくった。

胸に刻まれた

『七人目』の文字。

美月の表情が凍った。

「これ……」

「意味を知ってるんですね」

彼女は頷かなかった。

けれど否定もしなかった。

「あと一人だって

声が聞こえました」

美月の指が震えた。

「誰の声?」

「十五年前の僕です」

彼女は目を閉じた。

長い沈黙が流れた。

やがて美月は

僕の胸に手を当てた。

冷たい指が触れる。

すると文字が

少しずつ薄くなった。

「消えた……」

僕が呟くと

美月は首を振った。

「見えなくなっただけ」

「どういうことですか?」

「まだ終わってない」

彼女の声は

ひどく疲れていた。

僕は深く息を吐いた。

「七人目って

僕のことですか?」

美月はゆっくり頷いた。

「じゃあ前に

六人いたんですね」

「……うん」

僕は目を閉じた。

六人の僕。

同じ顔の男たち。

みんな美月を愛して

そして死んだ。

「美月さん」

「なあに?」

「僕が七人目なら

八人目は誰なんですか?」

彼女は答えなかった。

ただ窓の外を見つめた。

「まだ生まれてない」

小さな声だった。

「でもきっと

もうすぐ来る」

僕は背筋が凍った。

「僕が死んだら?」

美月は首を振った。

「死なせない」

「でも今まで

守れなかったんですよね」

その言葉に

彼女は俯いた。

僕は後悔した。

責めたいわけじゃない。

ただ怖かった。

自分が消えることが。

そして何より

美月を失うことが。

「ごめんなさい」

僕が言うと

美月は首を振った。

「悠真は悪くない」

彼女は僕の手を握った。

「怖いよね」

「はい」

「私も怖い」

彼女の声が震えた。

僕はそっと

美月を抱き寄せた。

「今夜はもう

難しい話をやめましょう」

美月が顔を上げる。

「いいの?」

「明日また考えます」

彼女は小さく頷いた。

そして僕の胸に

顔を埋めた。

「ありがとう」

しばらく

二人で寄り添っていた。

部屋には

時計の音だけが響いていた。

美月の髪から

甘い花の香りがした。

「悠真」

「何ですか?」

「私ね」

彼女は恥ずかしそうに

目を伏せた。

「幽霊になってから

誰かを好きになるなんて

思ってなかった」

僕は笑った。

「僕も幽霊を好きになるとは

思ってませんでした」

美月が笑う。

「変な二人だね」

「本当に」

彼女は僕の頬に触れた。

「でも幸せ」

その言葉を聞いた瞬間

僕の胸が温かくなった。

僕は彼女の唇に

そっと触れた。

美月が目を閉じる。

二度目のキスだった。

今度は

すぐに離れなかった。

冷たい唇。

けれど

触れているうちに

少しずつ温かくなる。

美月の指が

僕の背中に回った。

「悠真……」

彼女の声が震えていた。

「怖くない?」

「怖くないです」

僕は答えた。

「美月さんと

一緒にいるなら」

彼女は泣きそうに笑った。

「私も」

僕たちはもう一度

唇を重ねた。

その夜

二人は初めて

恋人として抱き合った。

幽霊と人間。

本来なら

交わるはずのない存在。

それでも

彼女の温もりは

確かにそこにあった。

夜が更けるまで

僕たちは離れなかった。

美月は何度も

僕の名前を呼んだ。

僕も彼女を抱きしめた。

まるで

失った時間を

取り戻すように。

やがて美月が

僕の胸に耳を当てた。

「悠真の心臓

すごく速いね」

「緊張してるんですよ」

「私も」

彼女は笑った。

「心臓ないけど」

僕は思わず吹き出した。

美月も笑った。

こんな時間が

ずっと続けばいい。

本気でそう思った。

しかし

幸せな夜は

突然終わった。

午前三時三十三分。

僕は激しい寒気で

目を覚ました。

隣には美月がいた。

けれど

彼女の身体は

いつもより温かかった。

「美月さん?」

返事はない。

僕は彼女の肩に触れた。

その瞬間

違和感に気づいた。

美月の胸が

ゆっくり上下していた。

呼吸している。

幽霊のはずなのに。

「美月さん!」

彼女が目を開けた。

「どうしたの?」

「息をしてますよ」

「え?」

美月は自分の胸に

手を当てた。

そして驚いた顔をした。

「本当だ……」

僕は彼女の手首を掴んだ。

脈があった。

弱いけれど

確かに動いている。

「どうして……」

美月は震えていた。

そのとき

僕の胸が激しく痛んだ。

「うっ!」

僕は身体を丸めた。

美月が叫ぶ。

「悠真!」

心臓が

何かに引っ張られる。

そんな感覚だった。

胸の奥で

二つの鼓動が重なる。

ドクン。

ドクン。

そして

片方の音が消えた。

僕は息を呑んだ。

美月の胸に耳を当てる。

そこには

はっきりとした

心臓の音があった。

「まさか……」

僕は自分の胸に触れた。

鼓動が弱い。

美月は泣きそうな顔で

僕を見つめていた。

「悠真……」

彼女の声が震えた。

「私、温かい」

僕は何も言えなかった。

美月の頬には

血の気が戻っていた。

その一方で

僕の指先は

青白く変色していた。

午前四時。

僕は洗面所へ向かった。

鏡を見る。

そこには

美月が映っていた。

僕の隣に立つ彼女。

はっきりと。

まるで生きている人間のように。

「映ってる……」

美月も驚いていた。

「私が鏡に……」

僕は笑おうとした。

でも笑えなかった。

鏡の中に

僕の姿がなかった。

洗面台の前に

確かに立っている。

なのに

鏡には美月だけ。

「嘘だろ……」

僕は手を伸ばした。

鏡の中には

誰の手も映らなかった。

美月が僕を抱きしめた。

「ごめんね……」

その声は震えていた。

「こんなはずじゃ……」

僕は彼女を見た。

「知ってたんですか?」

美月は首を振った。

「違うの」

「何が違うんですか!」

僕は思わず叫んだ。

美月が怯えた顔をした。

その表情を見て

僕は口を閉じた。

「ごめんなさい」

彼女は小さく頷いた。

「私も分からない」

そして

涙を流しながら続けた。

「でも今までの人たちは

こんなことにならなかった」

僕は息を止めた。

「どういう意味ですか?」

「みんな消えていった」

美月は僕の手を握った。

「でも私は

幽霊のままだった」

僕は鏡を見た。

そこには

生きているような美月がいる。

「今回は違う……」

彼女は呟いた。

「何かが変わってる」

午前六時。

窓の外が明るくなった。

美月は消えなかった。

いつもなら

朝になると

姿が薄くなるはずだった。

それなのに

彼女は僕の隣に座っていた。

肌は温かく

呼吸もしている。

僕はコーヒーを淹れた。

美月にも一杯渡す。

彼女は恐る恐る

カップを持った。

そして

小さく口をつけた。

「……飲める」

美月の目から

涙がこぼれた。

「味がする」

僕は何も言えなかった。

彼女は泣きながら

コーヒーを飲んだ。

十五年ぶりの味。

その姿を見て

嬉しいはずなのに

胸が苦しくなった。

僕の身体から

何かが奪われている。

それだけは分かった。

午前八時。

スマホが鳴った。

健太からだった。

僕は急いで出た。

「健太!」

「もしもし?」

「俺だよ、悠真」

沈黙。

「……誰?」

僕は息を止めた。

「冗談やめろよ」

「いや、本当に

誰ですか?」

健太の声は

真剣だった。

「昨日まで

一緒にいたじゃないか!」

「すみません」

彼は困ったように言った。

「番号、間違えてません?」

電話が切れた。

僕はその場に

立ち尽くした。

翔太に続いて

健太まで。

僕の存在が

消え始めている。

美月が近づいてきた。

「悠真……」

僕は彼女を見た。

その瞬間

スマホに通知が届いた。

会社からだった。

『社員情報の確認について』

僕は震える指で開いた。

『登録情報に該当する

従業員が見つかりません』

画面を見つめた。

名前。

住所。

生年月日。

すべて消えていた。

まるで最初から

僕が存在しなかったように。

美月が僕の手を握った。

「大丈夫」

彼女は泣いていた。

「私が覚えてる」

僕は笑おうとした。

けれど

その言葉が

今は何より怖かった。

そのとき

玄関のチャイムが鳴った。

ピンポーン。

美月が顔を上げる。

「誰だろう」

僕は玄関へ向かった。

ドアスコープを覗く。

そこに立っていたのは

灰色のパーカーを着た男。

僕と同じ顔だった。

男は笑っていた。

そして

インターホン越しに言った。

「おめでとう」

僕は動けなかった。

「八人目が生まれたぞ」

男はゆっくり

隣を指さした。

そこには

小さな男の子が立っていた。

十歳くらいの少年。

その顔を見て

僕は息を止めた。

少年は

子どもの頃の僕と

まったく同じ顔をしていた。

男が笑った。

「さあ」

その声が

玄関に響いた。

「最後の悠真を

迎えに行こうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。