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8.黒狼

その後1週間程野営を続けてライプツに着いた。

侯爵領の領都で大きな街だ。


「午後は、買い物にしますか?」


「そだね。食器と服を見ようかな」


「泊まりはどうしますか」


「ケンの希望に合わせるよ」


「では、久し振りに宿に泊まりましょうか」


「うん」


冒険者協会で安目の宿を聞くついでに、手持ちの魔石を全部売った。

この先、魔獣の多い方に行くので魔石が高くなりはしないだろうから。


宿を決めて、古着を買えるところを聞く。

古着屋が並んでいる通りがあるそうだ。

何軒も比較できるのは助かる。


夕飯は各自で済ませることを確認して、別行動となった。

短槍と背負い袋を部屋に置いて、結界で包んで外に出た。


冒険者の革の服と寝間着の他には、村で着てたボロ着しか持ってない。

これは、街の古着の古着の売れ残りを行商人が持ってきた物をさらに何年も着たもので、村の外ではとても着られない。

外を歩ける服は、冒険者の服しか持っていなかった。


古着屋通りに着いた。

路地の両側に古着屋が並んでいる。

凄い!


まずはざっくりと、路地を端から端まで歩いてみる。

女物とか男物とか価格帯とか、ある程度店が分かれているみたいだ。

若い平民女性向けの街着が吊り下がってる店に入った。


「こんにちはー」


「はい、いらっしゃい」


店員はおじさんだった。


「服見せてください」


「どうぞ」


小さい店内に、ぎっしり服が下がってる。

取り敢えずワンピースを見ていく。

…1枚で済むから。


淡めのモスグリーンの1枚が目に止まった。


「着てみていい?」


「どうぞ」


試着室はない。

革のチュニックを脱いで、肌着の上からワンピースを被る。

うん。大きさも大丈夫。


「これ買います」


「まいど」


元のチュニックを着直して、お金を払った。

ボロ着は、拠点を決めたらそこの孤児院にでも寄付しよう。

とても下取りに出せる物じゃない。


色々歩き回って、屋台でご飯食べたりしながら、雑貨屋で木の食器も買い足した。



翌朝、昼食だけでなく夕食分も買い込んで街を出た。


隣国チェタとの国境は山脈になってるが、その山脈に添う形で街道が通っている。

ここからその街道に出るには、ケムニに向かう道を通るのが早い。

ケムニから直接は国境を越えられないので、この道は広くない。

徒歩の人が使う道だ。

そして、こっちから行くと微妙に登りで、2日半という微妙な距離である。


身体強化で速めに歩いた結果、昼下がりにボルンに着いた。

野営のために朝食を買って先に進む。


ツェトリ村を過ぎたところで野営した。


夜、ふと目が覚めた。

何か明るい。

ケンの天幕の方だ。


天幕の結界を透明にして外を見る。

ケンの天幕が透明になってて、その上に〈灯火〉が灯っていた。


「レナも起きましたね。魔獣です」


「え!?」


思わず動揺したが、結界張ってるから大丈夫のはず。


「一匹で、黒狼っぽいです」


黒狼は、村で見た茶狼より一回り以上大きいと聞いている。

1対1なら銅級上位で不安なく勝てるらしい。

ただ、たまに群れることがあって、そうなると普通の銅級パーティの手には余る強さになる。


「黒狼も売れるので、レナがどうぞ」


「ありがとう」


明かりを警戒してにじり寄ってきた黒狼が、10間くらいの距離から駆け出した。


「〈石弾〉」


頭に命中してお腹に抜ける。

圧縮すると、貫通力あり過ぎるね。

次からは〈石針〉で良いかな。

でも大きいから、飛び掛かられた時に〈石針〉では制動力が足りないな。


茶狼の倍くらいの重さがありそう。

1対1で前から来るならわたしでも短槍で迎え撃てるけど、複数なら結界なしではどうにもならない。


黒狼の群れを相手取れるという銀級は、相当な腕だということを実感した。


「血抜きしながら、結界で囲っておきますか」


「そだね」


靴を履きながら返事した。

ケンは既に履いてるっぽい。


ケンが後ろ脚を持って持ち上げたので、結界で固定する。

ケンが離れてから全体を包んだ。


「では寝直しますか」


「そだね。おやすみ」


「おやすみなさい」


天幕を半透明に戻して、毛布にくるまったところで気付いた。

わたし、貫頭衣1枚で脚むき出しのはしたない格好だった。

これでも下着履いてるだけ以前よりマシだけど。


せめてズボンを買うか、どうしよう…



翌朝、黒狼を魔法鞄に仕舞って出発。


黒狼の肉は、単価は安いけど量があるので、全体では角兎くらいの額にはなるという話だ。

むしろ、毛皮が値が付くらしい。

結果として、角兎よりはずっとお金になるそうだ。


「黒狼ありますし、今日ケムニを目指しましょう」


「そだね」


身体強化使って、少し早歩きで歩く。

オレフェンの町で昼食と夕食を買って先を急いだ。

夕方、ケムニに着いた。

特に大きくはない普通の町だが、町を囲む壁はしっかりしてた。

やっぱり魔獣が多いんだろう。

入るのに銅貨5枚かかった。

まあ、壁を維持するのにもコストかかるだろうし、安全料だからしょうがない。


冒険者協会に行って、魔石抜きの黒狼を売った。


「一匹だけか? どこだ?」


「ツェトリ村とオレフェンの間。一匹しか見てない」


「そうか。情報料も込みで、大銅貨13枚でどうだ」


「うん。ありがとう」


確かに、あれが群れでいたら道が通れなくなるね。


いつもの様に宿を聞いて向かった。


「思いの外高く売れたけど、逆に言うとたまにしか出ないんだろうね」


「多分」


翌日からは歩くペースを戻して、魔力感知の練習を再開した。

わたしも少しずつは上達している。


やはり魔獣は多く、小鬼や角兎は毎日狩った。

茶狼もたまにいて、毛皮の分角兎より高く売れた。


この辺りでは狼と角兎のおかげで肉が安い。

代わりにパンは少し高い。

と言っても値段は銅貨1枚で変わらず、少し小さいのだ。

狼肉は角兎より固いが、味が濃くて煮込むのに向く。


国境山脈に沿って、ホフまで来た。

ここから街道は国境山脈を離れて、領都ニュルンクに真っ直ぐ向かう。

ただ、国境山脈に沿ってぐるっと周る道もある。


「道、どうする?」


「拠点をどこにするかというのもありますから、冒険者協会で聞いてみましょう」


「そだね」


獲物を売りながら訊いてみた。


「銀級目指してるんだけど、どこ行くと早いかな?」


「銀級? 魔法の腕はいいな」


「うん。2人とも使える」


「黒森が近いシュツトか、この山脈沿いのミュンクに行って聞いてみな。この辺だと、大物は出ないから何年かかかる」


「わかった。ありがとう」


銀級になるには、1つの場所で長く活動して、信用と実績を積む必要がある。

実績が記録される謎にハイテクな冒険者証などはない。

身分証である指輪には、名前と生年しか彫られてない。


「どうする?」


「私はどちらでも良いので、レナに合わせます」


「ありがとう。じゃあ、国境沿いに行こっか。黒森と全然別方向ってわけじゃないし」


「はい」



数日後、シュバントの冒険者協会で獲物を売って掲示板を眺めていた。


「あれ? 討伐依頼があるよ」


「初めて見ます」


「黒狼の群れだって」


「大事ですね。乗り合い馬車とか止まっているのでは」


「黒狼一匹につき銀貨1枚半。

 魔石も含む死体丸ごとと、討伐状況の説明と引き換え。

 受付での事前の申し出不要。

 シュバントかレーゲンに死体を直接持ち込めば良い」


「一昨日の日付ですね」


「受付で聞いてみよう」




「黒狼の討伐依頼だけど、何匹か倒されたの?」


「こっちには来てないな」


「何匹の群れなの?」


「わからない。何匹か見たって話だ」


「そっか。ありがとう」


「おう」


お礼を言って協会を出た。


「どうしますか」


「結界張れば大丈夫だから、このまま進んで野営しよう」


「はい」


「大きい群れなら、銀級になれるような実績になるね」


「はい。人がいるところで戦闘になったら、結界はどうしますか」


「うーん。本当に危ないとき以外は隠そう。それで逃げられてもしょうがない」


「はい」


翌日分の朝食と昼食を買って町を出た。

薄暗くなるまで歩いたが、黒狼は見掛けず野営した。


寝支度を終えた後、互いに声掛けられるように天幕をくっつけて寝た。

革の服で寝るか迷ったが、服の防御力を使うような戦闘にはならないので、疲労回復のためにいつもの貫頭衣にした。




「レナ」


明るくなると同時に呼ばれた。

天幕を透明にしながら起き上がった。


頭上に、満月より少し明るい程度の〈灯火〉が灯っている。


「10間くらいに2匹。分かりますか?」


「…わかる。近付いてるね」


前回は確認する暇なかったけど、角兎より強い魔力を感じる。

前後から挟み撃ちの形になってる。


「レナ側の方、任せて良いですか?」


「了…」


言い終わる前に駆け寄ってきた。


「〈石弾〉」


黒狼が飛び掛かろうと前脚を上げたところで、頭に刺さった。

失速して崩れ落ちる。


ケンも一撃で仕留めたようだ。


警戒したが、何も感じられない。


「靴履くね」


「どうぞ」


靴を履いて、取り敢えず見回した。

分からない。


「他に感じられる?」


「いいえ」


「大きく結界張るね」


「はい」


2匹ごと囲む形でぐるっと結界を張って、天幕は床以外消した。


「血抜きしましょうか」


「うん」


ケンが後ろ脚を持って1匹持ち上げたので固定する。

もう1匹も同じ様に固定した。


「2匹だけかな」


「さしあたってはそうみたいです」


「とりあえず寝よっか」


「はい。おやすみなさい」


「おやすみ」



朝、ご飯食べながら話した。


「今日は急ぎ目でレーゲンに届けましょうか」


「うん」


「昨晩は、石の壁を建てて寝たことにしましょう」


「そだね。無謀者扱いされそうだからね」


お昼にレーゲンに着いた。

冒険者協会入って受付で言った。


「黒狼倒してきた」


「こっちへ」


解体場に案内された。


「会長呼んでくるから出しといてくれ」


「うん」


ケンに出してもらう。


「黒狼倒したって?」


おじさんが来た。


「2匹か。場所と状況教えてくれ」


「シュバントから3〜4刻来たところ。野営してたら夜中に来た」


「黒狼出るの聞いてて野営したのか?」


「石の壁を建てて寝ましたし、襲われる前に起きましたよ」


「ほう。これの他にいたか?」


「見てない」


「どっちも一撃か。いい腕だ」


「他にも持ち込まれた?」


「昨日4匹。2匹逃げたそうだ」


「6匹の群れ。凄いね。銀級のパーティ?」


「ああ。シュバントには持ち込まれたか?」


「昨日の昼過ぎは、いないって言われた」


「そうか。業績書いるか?」


「欲しい」


「指輪見せろ」


「はい」


「レナとケントね。拠点はどこだ?」


「拠点にするとこ探して移動してる」


「前はどこにいたんだ?」


「わたしはアンガミ」


「私はプレンツです」


「土魔法で倒したってことでいいか?」


「うん。それぞれ1匹ずつ倒した」


「インク乾いてないから触らないで見てくれ。これで間違いはないか?」


「…うん。ありがとう」


「ありがとうございます」


「さて、報酬の銀貨3枚だ。インクが乾くまでなら雑談に付き合うぞ」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


「早く銀級なりたいんだけど、どこ行くのがいいかな?」


「まあ、黒森だな。ただ、シュツトとミュンクの間の山沿いも魔獣多いから、その辺で気に入った街でいいんじゃないか」


「そっか。ありがとう」


「2人でやってくのか?」


「とりあえずそのつもり」


「まあ、この腕だしな。よし、これ持ってってくれ」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


いつもの様に壁の依頼票見てから建物を出た。


「これ、どうする?」


「レナの魔法鞄に入れておいてください」


「わかった」


「この先、どうしましょうか」


「どこでも大丈夫となると、居心地いい街がいいよね」


「はい」


「1泊したくらいじゃわからないよね…」


「はい」


「領主の評判とか、何か知ってる?」


「個別にどうとかは分からないのですが、国境沿いは評判の悪い領主は配置しないと聞いたことがあります」


「ああ、なるほど。国防にかかわるもんね」


「はい」


「まあ、急ぎすぎないで西に向かおうか」


「はい」


そんなわけで、とりあえず黒森方面に向かって街道を歩く事にした。


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