7.王都
昼過ぎに、王都の門が見えてきた。
王都は、この国の中ではかなり東部に片寄った位置にある。
黒森はこの国の西南端なので、ここからまだまだ距離がある。
「王都は、入るのに大銅貨1枚だそうです」
「それって毎回払うの?」
「貴族の連れと住民以外は毎回」
「冒険者は大変だね。お金持ってる貴族こそ払えばいいのに」
「はい。冒険者協会で情報集めるだけにしましょう」
「うん。でも、黒森方面に向かうって話にしかならなそう」
「そう思います」
大銅貨1枚払って王都に入った。
冒険者協会は入った門の比較的近くにあった。
聞けば、4つの門全ての近くに1つずつあるという。
なるほど大きい街は違うと思った。
冒険者協会で壁の依頼票を見る。
街中での依頼と、薬草採取と護衛依頼しかない。
狩りや討伐はない。
護衛依頼は、銅級だと大した報酬にならず、旅費なしで移動できるくらいの意味しかない。
魔法鞄のおかげで道中の獲物で路銀が賄えている現状、魔法の練習ができなくなるデメリットしかない。
角兎を売りながら職員に訊いてみた。
「ここは冒険者も多いから狩りでは儲からんな」
「やっぱりそっか」
「とりあえず黒森方面に向かって、どこか魔獣の多い街で稼ごうと思うのですが、お勧めありませんか」
「黒森行くなら大街道を真っ直ぐ行くのがもちろん早いが、魔獣で稼ぐなら、ケムニとかニュルンク通る山側の道行ったらいいんじゃねえか」
「ライプツ辺りで分かれるのでしたか」
「それそれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ありがとう」
冒険者協会を出た。
「いい情報もらえたね」
「はい。今日、どうしますか」
「王都は何でも高そうだよね」
「はい」
「夕飯と朝ご飯買って、次の町目指そっか」
「はい。いざとなったら野営しましょう」
「うん。折角だから、名物みたいな食べ物ないかな」
「ああ。屋台ではなくて、食堂も色々ありますね」
「おー。そういうお店、入ったことないかも」
「では朝御飯探しつつ、食堂の話も聞きましょう」
「うん。宿代払ったつもりで食べてしまおう」
結局、角兎ソテーの定食食べた。
大銅貨1枚の食事なんて初めてだ。
角兎は食肉としてはこの辺りでは一番手軽だから、前世ならチキンソテーみたいな位置付け。
味もチキンソテー。
美味しかった。
朝食用には、お肉がゴロゴロ入ったシチューを屋台で買った。
温め直すことを考えるとやはりシチューになる。
銅貨5枚もした。
楽しみだ。
あと、ソーセージが挟まったパン。
朝食を楽しみにして王都を出た。
(明るい。朝か)
半透明にした結界の天幕の中で、朝日の明るさで起きた。
結界で作った寝台の上に毛布を2枚敷いて寝てた。
凄い快適だった。
昨晩は結局野営した。
次の町まで行けないことはわかってた。
宿屋もない村で、村長宅かどこかで屋根を借りるのも検討した。
でもそれだとお風呂に入れないので、野営の方が快適かも、となったのだ。
身支度をして天幕を消した。
寝台に座って毛布を畳んでいると、ケンも出てきた。
「おはようございます」
「おはよう」
「結界のおかげで快適でした」
「わたしも毛布のおかげで快適だった」
シチューを温めて朝ご飯にした。
「美味しい。さすが銅貨5枚」
「美味しいですね」
「魔法でトーストもできないものか…」
「ほんのり温めるのはできているんですけどね」
「うん。どうせなら、中はしっとり外はパリッとを実現したい」
「焼き立て以外ではそういうの食べたことないです」
「あっちでは、そういうトースターあったから」
「へえ。私は聞いたことないです」
「水を少し入れて焼くの」
「はー。水を入れる高級なオーブンレンジなら売っていましたが…」
「うん。あったね」
「それにしても、結界とお風呂のおかげで野営も快適ですね」
「うん」
「午後に夕飯と朝食買って、野営を基本にしても良さそうです」
「そうだね。しばらく続けてみよう」
変わらず、交代交代で魔力感知の練習しながら歩く。
ケンは、感知できる距離が5割くらい伸びた。
わたしも、ほんの1間くらいの至近距離なら、ケンが普通に発動した身体強化を感知できるようになった。
魔獣相手では役に立つ距離ではとてもない…
でもできるとできないは全然違う。
自分の上達がわかって嬉しかった。
昼過ぎに町に着いた。
取り敢えずお昼を買って食べる。
「夕飯と朝の分も買って、今日も野営ですかね」
「この時間ならそうだね」
「何を買いましょう」
「やっぱり、汁物は欲しい」
「はい。でも器が1つしかありません」
「器の中に結界入れて、後から取り出せば仕舞えるよ」
「なるほど。……魔法鞄の中で結界消えたら、どうなるのでしょう」
「どうなるんだろ? 取り出すまでは、そのままの形っぽいけど」
「はい。器の汁物こぼれないですから」
「ん? そもそも、魔法鞄に結界入れられる?」
「あ。魔法鞄に魔法鞄は入りませんからね」
「これは… 気軽には試せないね」
「はい。壊れたら困ります」
「背負い袋に入れるのが無難だね」
木の器に結界入れてシチューを買い、結界ごと取り出して包み直して背負い袋に仕舞った。
そして、空いた器を持って、別の食べ物買うのを繰り返した。
「ちょっと面倒臭いね。朝の分は、そのまま魔法鞄が良さそう」
「はい。結界でくるむ利点がなさそうです」
街道を歩きながら話す。
「二重に包んで真空断熱すれば、保温はできそうです」
「でも、元々熱々ではなくて、結局は温め直すしね」
「あ。真空パックできるかもしれませんね」
「おお。長持ち!」
「ただ、ボツリヌス菌のような嫌気性細菌は、真空パックでも増えて食中毒起こすことがあります」
「え!? そうなの?」
「はい。私が子どもの頃、辛子蓮根事件というのがありました」
「へー。初めて聞いた」
「まあ、九州の話でしたしね。私も辛子蓮根って食べたことないです」
「うん。わたしもない。というか、からしレンコン自体初めて聞いた」
「熊本名産らしいです」
「へー。くまモンが宣伝してたりするかな」
「くまもん?」
「熊本製品を宣伝する、黒いクマのゆるキャラ」
「知らないです」
「そっちにはいなかったのかな」
「どうなんでしょうね。
ここは、衛生観念がわからないですから、買った物の真空パックは過信できないですね」
「そだね。あんなに衛生的だったはずのあっちでも、家で作ったカレーでウェルシュ菌とかあるらしいからね」
この日は、森を通る道で小鬼の一群に遭遇した。
街道の近くに死体を放置してはならない。
冒険者見習いの時に習う。
他の獣を呼ぶし、衛生上問題あるからだ。
特に水場の近くは厳禁だ。
だから、片付ける手間がないようにあまり近づかれる前に殲滅する。
かと言って、あまり遠いと魔石取るのが億劫だ。
そんな訳で、30間くらいの距離で撃ち始めた。
練習のため、ケンが頭を狙って〈石弾〉で一発ずつ撃つ。
一発二拍弱のペースで5発全弾命中。
命中を見届けてから次を撃つとこれくらいのペースになる。
「今の射出速度と距離なら、撃った後目線切っても当たると思う」
「それだと連射速度上げられますね」
「うん。今でも人に見られたら何か言われる速さではあるけどね」
「詠唱してたら無理ですね。発動語は一応言ってますが」
「一度に5発撃っちゃうのと、どっちが目立たないんだろ」
「詠唱する時間は取れますが、曲芸じみてますね」
「だよね」
魔石だけ取って死体は放置して街道に戻り、夕方まで歩いた。
野営と言っても、薪拾いしないし、整地しないし、煮炊きもしない。
だから、薄暗くなるまで歩いても困らない。
「結界を利用しての野営だと行動時間長く取れますね」
「そだね」
「結界魔法って、冒険者の中で一般的なのでしょうか」
「…わたしは聞いたことない」
「ですよね。人前ではどうしましょう」
「石で作るなら、まだマシなはず。でも一瞬で作ったら悪目立ちだと思う」
「なるほど」
「普段から、石で作る?」
「空気と明かり取りの穴が必要ですね」
「うん。ちょっと億劫だよね」
「うーん。形自体は石でも同じ物ができるのですから、土っぽい色で作れば、騒がれないかもしれません」
「うん。それで行こう。
野営は、近くに人がいなければ今のままで行こう。
人がいたら、石で穴あきで作って内側にこっそり結界張る。
戦闘は、いざという時以外は結界使わない」
「はい。それと、毎回発動語言うことにしましょう」
「そだね。攻撃魔法以外は、ほとんど言ってないね。じゃあ、〈天幕〉かな」
「はい」
「まあ、水場とかでなければ、わざわさ野営してる人はいないと思うけどね。
うちらが場所変えてもいいし」
「そうですね」
夕飯を食べた後、明日の分の食べ物は結界を解いて魔法鞄に入れ直した。
「野営用のマットとかってあるのかな」
「枯草を入れて使う袋がなくはないのですが…」
「ふんふん」
「枯草を集めるのも簡単ではないです」
「言われてみれば確かに」
「基本はただの敷物として使って、状況によってはマットにもなる、という程度なのでしょう。
それか、枯草を入れっぱなしにして運ぶか」
「そっか。結界の寝台と毛布の方がずっと快適だね」
「はい。軟らかい結界で、エアマットなら作れそうです」
「それだ! やってみる」
空気を通さないことを意識しながら、軟らかい結界で座布団みたいなマットを作って座ってみた。
「あれ?」
潰れて地面についてしまった。
「軟らか過ぎた?」
少し固めの結界を意識しながら、マットの厚みを倍にしてみた。
「うーん?」
地面にはつかないけど、座り心地悪い。
何だろう。真ん中が沈み過ぎる?
「円筒状の結界を、何本も並べる形にしてはどうでしょう」
言いながら、ケンも作ってみてた。
「うん。座ってみてください」
ケンと場所を代わる。
「断然いい!」
「安いエアマットで定番の形です」
「へー」
わたしが知ってるエアマットは、バルブを開けると勝手に膨らむ奴で、平らなクッション状だったけど…
色々あるんだね。
「これを身長分並べればいけそう」
「ですね」
「よし。じゃあ天幕に入るね。おやすみ」
「おやすみなさい」
お風呂に入って、洗濯して、お湯を捨てて湯船を消した。
さあ、寝る準備だ。
ちょちょいと寝台を作って、朝まで保つ様に魔力を込めた。
2尺四方のマット作って、寝転がってみる。
…大丈夫そう。
さらに2枚作って並べた。
毛布を1枚敷いて寝てみる。
いける。
毛布1枚は温存だ。
掛ける用の毛布を出して、荷物を片付けて横になった。
〈灯火〉を消して、天幕を半透明にして寝た。




