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3.目標

魔法を練習するため、町の外を歩いていく。


「今日、これの後どうします?」


「詰所で、荷物のリストは見せてもらおうと思います」


「ああ、そうですね」


「レナさんは何か欲しい物ありませんか?」


「毛布くらいしかないですね。魔法鞄があったりはしないでしょうし…」


「どれくらいの規模の犯罪者なのかにもよりますが、一つくらいはあるかもしれません」


「でも、魔法鞄あったらケンさん使いますよね?」


「いえ。大きくはないですが、既に持っています」


「すごい!」


「もし魔法鞄あったらお譲りします」


「ありがとうございます。わたしが買える大きさであることを祈ります」


「ははは」


「1級」と呼ばれる縦横1間入るサイズの魔法鞄が金貨1枚。

ざっくり言って100万円とかそんな感じ。

これを持ってれば、魔獣を丸ごと運んで売れるのでソロでもかなりな収入が得られる。

逆に言うと、魔法鞄がないと犬1頭持ち帰るのがやっとだ。

だから魔法鞄を持たない初級者は、討伐依頼を受けるか、角兎のような食べられる小物を狩るか、高価な薬草採ってお金を貯める。


「ラノベでは、魔法鞄でコンテナハウス持ち歩いてたりするんですよね」


「その発想はなかった。あの宿の部屋で1間x1間半ですか…」


この世界の長さの単位は「間」だ。

昔の皇帝だか王様だかが手を広げた長さらしい。

1間は6尺。

まあ、日本の金尺と英国のfootも良く似た長さだし、身体を基準にしてありがちな長さなのだろう。


「はい。2級の鞄なら問題なく入りますね」


「夢がありますね」


「まあ、夢ですね。ところで、馬車はどうするんです?」


「迷ってます。安く手放すのももったいないのですが、目的もなく所持するものでもないですし」


「維持するのも大変そうですよね」


「そうなんです。極端な話、引き取った日からどこに泊まるんだってなります」


「そういえば、そもそもケンさんはなんで街道歩いてたんです?」


「適当な街に行って、銀級目指そうと思っているのです」


「同じです! 銀級になれる程度の強い魔獣がたくさんいる街を目指してました」


「同じですね。1対1なら、結構な魔獣とも戦えるはずと思ってます」


「ただ、銅級でソロで女だと、たいした依頼受けられないよなーって困ってました」


「魔法の実力見せるわけにもいかないでしょうし、そうですね」


「魔獣を売って生活だけはできますが、大儲けできるほど運べませんし」


「うーん。レナさんがよろしければ、しばらく一緒にやってみますか?」


「いいんですか!? とても助かります」


「私も助かります。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


「では、人攫いの荷物、パーティとしてどうするか考えましょう」


「はい」


「馬車を持つと、当面は赤字だと思います。ただ、臨時収入があるからその分だけ維持してみるというのもありかと思います」


「速く移動したいとかじゃなければ、処分ですかね。

 ケンさんが魔法鞄持ってるということで物は運べますし」


「では処分しましょう。あとは、一覧見て相談しましょう」


「はい」


町から適度に離れたので、身体強化の指導を受ける。


「身体を魔力で覆うことはできましたか?」


「はい」


「その状態でジャンプしたら、いつもより高く跳べますか?」


軽く跳んでみた。


「3割増しくらい跳べてます」


「ではもう一回、同じくらいの感じで跳んでください」


同じくらい跳べた。


「動いても維持できていますね。

 これからの方向性は、使う魔力を減らしていくことです」


「はい」


「それとは別に、魔力を瞬間的に部分的に増やして、瞬発力と防御力を上げるのもあります。

 でも纏う魔力を薄くして、使用量を減らすことを優先して練習してください」


「わかりました」


「さて、私は、何の練習から始めるのが良いでしょうか?」


「ケンさんは攻撃魔法として、既に〈斬撃〉があります」


「はい」


「ですが、わたしの説明のしやすさで、石矢で説明させてください。石矢で練習の仕方がある程度わかったら、〈斬撃〉とか〈火矢〉にアレンジしてください」


「わかりました」


わたしは石矢を1本出した。


「石矢はこのように実体があります。

 ですから、重さと速さで威力が上がります」


「E = 1/2 mv 二乗 ですね」


「はい。大きさと速さはイメージで簡単に上げられます。

 ですが、密度や固さもイメージである程度上げられるので、この大きさのままでも威力を上げられるのです」


「なるほど」


「ですから、毎回同じ大きさの石矢が作れるように練習してください。

 撃つのはその後です」


「わかりました」


「大きさは、これを基準にしてもいいですし、自分の腕とかを基準にしてもいいです」


「はい」


「試しに1本作ってみてください」


わたしが作った石矢を持ってしばらく考えたあと、あっさり作ってみせた。


「大丈夫そうですね」


「本当に、できると思えばできるんですね」


「ケンさんが、魔力操作できてるからですけどね」


「あ、今更ですが、私のことはケンと呼んでいただけませんか?

 ケンさんって聞くと高倉健が思い浮かぶのです」


「わかりました。ではわたしのこともレナでお願いします」


「あー、えー。わかりました」


「…? でも、そっちでもやっぱりタカクラケンのケンさんがいたのですね」


「そちらでもいましたか」


「はい。名前しか知りませんけど、もう亡くなった俳優だったと思います」


「あ、そちらでは亡くなっているのですか。こちらでは現役でした」


1刻ほど練習して、帰ることにした。

ケンの周囲には石矢がゴロゴロしてる。


「ずいぶん沢山作れるんですね」


「魔力を節約するのも並行して練習してましたので」


「安定して作れるようになったら説明しようと思ってたんですが、さすがです。

 明日、撃つのを説明します」


「これは、どうしましょう?」


「作った人が魔力を抜けば、崩れます。でもいくつか試して、あとは放置でいいのでは」


「わかりました」


町に戻って、詰所に行った。


「ごめんください」


「なんだ? …おう。一覧できてるぞ」


「ありがとうございます。それを見にきました」


「魔法鞄持ってやがって、ごちゃごちゃ入ってて面倒だった」


「おー」


わたしは思わず声をあげた。

これらはケンの物で、わたしには何の権利もないが。


「大した額にならないヤツとゴミは積んであるから好きに持ってけ」


「ありがとうございます」


「ざっくりした見積もりが書いてある。換金するならこの額が支払われる。

 引き取るなら、見積もり額の1割を手間賃としてもらう。この見積もりは、商人に依頼してるんでな。

 馬や馬車は特に、自分で買い手を探して交渉すれば、ずっと高く売れるが手間がかかる」


「持ってるだけでお金かかりますからね。伝手のない町では無理です。馬と馬車は処分お願いします」


「わかった」


食器とかの小物と文字通りのゴミが積んであった。


「これは、いらないですね」


「はい。わざわざ犯罪者のを使おうとは思わないです」


魔法鞄は、1級と初級だった。

ちゃんとした店で買う中古品の半値くらいの額が書いてある。


「初級、譲ってもらえませんか?

 1級は手持ちギリギリです」


初級は1級の縦横半分で、3尺くらい入る。

獲物を入れるには微妙に小さいが、旅の荷物を運ぶにはとても便利だ。


ただ、1級に届かない物は何でも初級なので、わりと容量がまちまちらしい。

見習いが作っていて、1級が安定して作れるようになると見習い卒業なんだそうだ。


ソロでやるなら、少し無理してでも1級を譲ってもらうところだ。

でも有り金はたくことになるので、パーティで何かの度にお金を借りるのでは気まずい。


「いいですよ。1級はパーティで使いましょう」


「ありがとうございます」


武器も、わざわざ引き取るほどの物はなかった。

ナイフは複数あってもよいが、ろくでもないことに使われただろうし。


「毛布と魔法鞄以外は全部処分ですかね」


「ですね」


ケンが、隊長さんにリストを返しながら説明した。


「わかった。遅くとも明後日の夕方には引き渡せると思う。急ぐなら途中で様子見にきてくれ」


「はい。よろしくお願いします」


詰所を出て歩く。


「何食べましょうね」


「あのシチューは食べるとして、他はまた違う屋台を試しましょう」


「野菜は安いですけど、お肉は普通に高いですね」


「本当に、魔獣が少ないようですね」


「野菜と宿が安くて住みよい町ですが、冒険者はお金になりませんね」


「銀級もいなそうです」


「この町にいては、銀級になれそうにないですしね」


「採取の熟練者ならなれるかもしれませんが、討伐は銅級の中位にもなれるかでしょう」


「経験の積みようがないですもんね」


パンと串焼き肉とシチューを買って、宿に帰った。

銅貨1枚で買えるパンは大きい。

わたし1人なら3食分はある大きさなので、1個をケンと分けて食べる。


ケンの部屋に二人で入る。

鎧戸が閉まった部屋はもうほとんど真っ暗だったので〈灯火〉を灯した。

たらいとバケツをひっくり返して食べ物を置いた。


「魔法で、シチューを温めることはできるのでしょうか」


「汁物ならわりと簡単です。器の中身が直接熱くなるのをイメージします」


「なるほど。電子レンジみたいですね」


ケンはお椀を両手で挟んで見つめている。

…あっさりと湯気が出てきた。


「魔法はイメージとは言いましたが、あっさり成功させますね」


「日本人の現代科学の知識がとても役立ちますね」


「はい。魔法がイメージな世界で本当に助かってます。そうでなければ女で初心者がソロの冒険者なんてやってけなかったでしょう」


「できると思えばできる、ってとんでもない世界ですね」


「本当に。ところでケンは、魔力を使い切るとどうなるかって何か情報ありません?」


「沢山使うと目眩がして気持ち悪くなるのは知っていますが、その先は知りません」


「ですよね… 魔力を使い切ると、鍛えられて総量が増えるって作品が多いのですが、その一方で枯渇すると死んでしまうって作品もあって、試せないのです」


「それは試せませんね」


「枯渇までいかなくても、寸前だと生命力を削るって設定のもあります」


「これは、非常時以外は安全策を取るしかないのでは」


「ですよね」


「そうだ。結界って、窒息しますか?」


「わたしは大丈夫です。

 でもそれは、攻撃を通さないというのをイメージしてて、何でも遮断するというイメージではないからかもしれません。

 実際、あえてイメージしなければ音は小さくなりません」


「なるほど。試してみないとわからないことが沢山ありますね」


「はい。幸いわたしはとんでもない失敗はしてませんが、魔法に関してはウカツなことをしないように自制しています」


「何でもできすぎますよね…」


「はい。ヘルメット作るなら、最初は密閉しないであえて隙間を作った方が良さそうです」


「はい。そうします」


「明日はどういう予定です?」


「町の外で、〈石矢〉を撃つのは教えていただきたいです」


「わかりました。でも魔法は一日中練習できるものではないですね」


「はい。昼を食べに戻ってきて、その後やりたいことありますか?」


「特にはないですが…何かお店を見てみましょうか」


「ではそうしましょう」


「今日はこれでお開きですかね」


「はい。特になさそうです」


「では食器を洗って寝ますね」


「はい。私もそうします」


自分の部屋に寄ってバケツに食器を入れ、井戸に行って洗う。


部屋に戻ると内鍵を閉め、結界を張った。

不透明の結界で湯船を作り、お湯を張る。


(あ。魔法で直接お湯が出せるって言うの忘れた)


でもケンなら自分で思い付くだろう。

そうでなくても、水を温めても済むし。

結界で湯船を作る発想がなくて、タライに浸かってるかもしれないが。

明日言ってみよう。


服を脱いで湯船に浸かる。


(ふー)


(奴隷狩りに襲われたのは災難だったけど、結果オーライでラッキーだった)


違う日本っぽいけど、大体似た感じで常識が共通している元日本人。

歳も等級も同じくらい。


人柄が良くて、魔法も隠さなくていい。

パーティ組めて、魔法鞄も使える。

とんでもない幸運だ。


湯船に頭まで浸かって汚れを流す。

そして、湯船に浸けた手拭いで顔を拭い、身体も擦っていく。

自分専用の湯船だからこそだ。


湯船からあがってタライに立った。

魔法で身体をざっくり乾かし、貫頭衣を被る。


湯船のお湯をバケツに入れて、下着と肌着を洗った。

これも魔法で乾かして、更に干しておく。

実は替えを持ってない。


これで今日やることは終わった。

寝台で毛布代わりに外套を掛け、〈灯火〉の明るさを絞って眠りに就いた。


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