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2.町

(やっぱり毛布はいいなー)


幌馬車にあった毛布で快適な朝を迎えた。

わたしは寝具になる物は外套しか持ってない。

この世界の布は高くて、毛織物はさらにすごい高いのと、荷物を減らしたいからだ。


逆に革はわりと安い。

だから革のズボンに革のチュニックを着てる。

丈夫だし身を守るのにも役立つので、冒険者は大抵革だ。


昨日と同様に二人に御者をしてもらってケンさんと歩く。

内緒話するために、馬車には少し離れてついてきてもらってる。


「昨日話したように、冒険者が使う攻撃魔法は主に、〈火矢〉〈炎槍〉〈石弾〉〈石矢〉〈岩槍〉くらいしかないです。暖かいこの国では、氷や雪で攻撃するという発想がないんでしょう」

「ファイヤーボールみたいなのもないのでしょうか」

「聞かないですね。爆発も一般的ではないんでしょう」

「確かに爆発事故って聞いたことないですね。火薬も可燃ガスもないですから」


「過去に転生者がいれば、いろんな魔法を使っておかしくないんですが、少なくともこの辺の冒険者にはその知識が伝わってません。まあ、貴族家とか王宮魔法師団とかが隠してる可能性はあります」

「珍しくて高威力な魔法を使うと目を付けられる可能性がある?」

「はい。わたしはただの村人なのでこの国の貴族がどうなのかわかりませんが、ラノベではそういう物語がたくさんあります」

「では、〈炎槍〉〈岩槍〉がせいぜいってことですか…」

「いえ。魔法はイメージなので、見た目は普通の〈岩槍〉でも威力を2倍3倍にすることは簡単です。普通の魔法使いは、この発動語ならこんな魔法、という思い込みに囚われているんでしょう」

「なるほど…」


「ところで、ケンさんが昨日使った斬撃飛ばすやつ、魔力消費してますよね?」

「はい」

「考えたんですけど、あれ、魔法ですよ」

「え!?」


「魔力を使って、イメージを実現するのが魔法ですから、魔法そのものです」

「詠唱も発動語もないから、技だと思っていました…」

「ケンさんは既に、オリジナルの魔法を生み出して無詠唱で使える魔法使いです。後は、できると思えばいろんなことができるはずです」


「では、武器を持たなくても同じことができる? できないのは、私の思い込みのせい?」

「多分。ただ、身体の動きと結び付けて発動してるかもしれません。何も持たずに、同じ動作でやってみてはどうでしょう」

「わかりました…」


ケンさんは短槍を構えて黙り込んだ。

イメトレしてるのかもしれない。


「槍を、持っててもらえますか?」

「はい」


ケンさんは立ち止まると、無手のまま構えをとった。

そして、袈裟懸けに振り下ろす。


シュパッ


草が断ち切られた。


…1回で成功させちゃったよ。

結局達人じゃん。


「できましたね」

「素手で、首を斬って一撃死できたりするのでしょうか…」

「できそうですね」

「Wizの侍を目指していたら忍者になっていたでござる」

「キャラ変わってますよ」

「冗談はさておき、これが、この世界の現実」

「はい。ラノベでよく言われる、魔法はイメージ、が真理です」


言いながら歩き出した。

ケンさんも慌てて並んで歩く。


「これは、恐ろしい。魔法から身を守る方法は何があるのでしょう」

「うーん。それも、イメージなんじゃないかな」

「というと」

「わたしは固いバリアをイメージしてしまったので結界になりました。でも、ケンさんの身体強化で魔法防御力も上げられるんじゃ」

「なるほど…」

「身体強化って異世界ファンタジーの定番なのに、それを思い付かなかった自分の頭の固さに呆れます」


「結界って、1日中張っていても魔力は大丈夫なのですか?」

「はい。〈灯火〉と同様に発動時に使うだけで、一度発動すると半日保ちます」

「ヘルメットみたいに頭を覆ったら、一緒についてくるのでしょうか」

「はい。大丈夫です。ただ、わたしのイメージの問題なのか、わたしが作る結界の物理防御力は、そんなに高くありません」


「何か、魔法に対抗できる装備はありませんか?」

「冒険者協会で聞いてみたことがありますが、魔法耐性の指輪というのがあるそうです。それと、魔法耐性のある魔獣の毛皮。でも金貨何枚もするので、銅級が心配することじゃないって笑われました」

「確かに、相手を魔獣に限定するなら、魔法で致命傷を負うようなところに銅級が行ったりしませんね」

「はい。遭遇しないように考えろって言われました」


お互いの知識を擦り合わせているうちに、町が見えてきた。

かなり簡素な柵で囲われている町だ。


馬車が追いつくのを待って、並んで歩く。

門衛が二人いる。

40代くらいのベテランと20代の若者だ。


「ダンさん、こんにちは」


アリアさんが声を掛けた。


「おお。アリアとセラ、無事だったか。昨日、帰ってこないって騒いでたぞ」

「はい。人さらいに拐われて、助けてもらいました」

「この二人にか?」

「いえ。恥ずかしながらわたしも縛られて、こちらのケンさんに助けられました」

「ほー。アンタ一人でか。若いのに大したもんだ」

「それで、襲われて返り討ちにした死体が後ろに積んであるのですが…」


説明するのは当然ケンさんだ。


「うん。これはちょっと大事だから、このまま全員で詰所に行って、調書作るのに協力してくれ」

「はい。わかりました」


詰所に行くと、馬車をつないでいる間にダンさんが隊長さん?を連れてきた。


「奴隷狩りの死体あるって?」

「はい。5体」

「あー。降ろすの手伝ってくれ」

「はい」


死体を降ろして並べた。


「見事な腕前だな。…各自、自分の荷物持って入ってくれ。ダンは、アントン呼んで見積もり入りの一覧作らせてくれ」

「わかりました」


大きな卓の椅子を勧められ、水を出してくれた。


「見ての通り、お茶を淹れる人員はいないんで水ですまんな」

「いいえ。ありがとうございます」


かなり親切な待遇だと思う。


「じゃあ、順番通りに聞こうか。最初に捕まった者から話してくれ」


セラさん、アリアさん、わたし、ケンさんの順に説明した。


「ここまで、他の人の説明聞いて、何か違うってあるか?」


全員首を振った。


「うん。奴隷狩りに遭って返り討ちにしたってことはわかった。アリアとセラはここの住人だしな。持ち物についてはどうなった?」

「わたし達の持ち物はそれぞれ全部ただで持っていっていい、とケンさんが言ってくれました」


わたしとセラさんも頷く。


「謝礼も求めないって事でいいのか?」


隊長さんがケンさんに訊いた。


「はい。人攫いの持ち物だけで十分です」

「わかった。では、アリアとセラは持ち物を一旦机に広げて、ケンが同意すればあとは帰っていいぞ」

「アンタも一旦荷物広げてもらうが、帰られると連絡取れなくなるからちょっと待っててくれ」


頷いて荷物を広げていく。


「さて。馬車も含めて表にある荷物、換金するか引き取るかどうする?」

「今即答しないと駄目でしょうか」

「いや。まず商人が見積もり入りの一覧作るから、それを見て、これは引き取るとか言ってくれればいい。どっちにしろ、これくらい大事だと町長に話通さないかんから、引き渡しには2日くらいかかる」

「では、ちょっと保留にしておいてください」

「わかった。連絡はどうする?」

「日中は町の外に出ようと思うので、毎日夕方顔を出そうと思うのですがどうでしょう」

「そうしてくれると助かる。馬はここで面倒見といてやる」

「ありがとうございます」

「アンタはこの後どういう予定なんだ?」

「わたしも数日はこの町にいて、ケンさんと行動します」


魔法の練習の為、数日は一緒に行動することになってる。


「わかった」

「この町に、冒険者協会ってあります?」

「ああ。この通りをもう少し行くと右手にある」

「ありがとうございます」

「では失礼します」


ケンさんとわたしは挨拶して外に出た。


冒険者協会で角兎の残りを売って宿屋のお勧めを聞くと、安い宿と普通の宿を一軒ずつ紹介された。


依頼票を見たが、討伐依頼は全くない。

周囲の魔獣について訊くと、草原では角兎が少し出る程度。

森も、大差ないそうだ。


ちなみに受付にいたのは厳ついおじさん。

解体係も兼ねてるんだと思う。

仕事少なそうだし、専門の受付嬢なんて予算的にムリだろう。


「訓練と割り切って外に出るしかないね」

「はい。宿を見に行きましょうか」

「はい」

「安い方と普通な方、どちらにしますか?」

「うーん。ある程度清潔であれば、安い方かな」

「ではまず安い方に行きましょう」

「はい」


通りから少し奥まった所にある宿の入り口を開けると、おじさんが一人座ってた。


「値段と部屋を見せて欲しいのですが、大丈夫ですか?」

「ああ。飯はなくて、一人部屋は大銅貨1枚。二人部屋は一部屋大銅貨1枚半。井戸はその扉の外。お湯はない」

「はい。一人部屋を見せてください」

「こっちだ」


部屋は三畳弱くらいで、寝台とたらいとバケツが置いてあった。

井戸の水で好きに洗えと言うことだろう。


寝台には乾いて腰のある藁が敷いてあって、十分清潔そうなシーツが掛かってた。

値段から想像したよりもずっといい。

食堂がないという割り切りが、この安さにつながってるのかもしれない。


「清潔そうでいいですね。ここにします」

「じゃあ、宿帳書いてくれ」


ケンさんも不満はないようだ


「2部屋、さしあたって3日分お願いします」


ケンさんが、まとめて大銅貨6枚払ってくれた。


「鍵はこれだ。外に出るときは俺に預けてってくれ」

「わかりました」

「荷物を置いて、食事に行きましょう」

「そうですね」


部屋に大きい荷物を置いて、鍵を預けて外に出た。


「忘れない内に、宿代返しますね」

「いえ。3日間ここにいるのは私の都合なので、私が出します」

「うーん。そうですか? ではありがとうございます」


大通りを目指して歩いていく。


「レナさんは、あの荷物の中で欲しい物ありますか?」

「あー。毛布が安目に手に入るなら欲しいです」

「では、ここまでの魔法の知識の対価として1枚差し上げます」

「え。お互いの情報でプラマイゼロなつもりだったんですが」

「いえ。あの知識は、お金で買えるものではありません。対して身体強化は、その言葉を知っているレナさんなら自力でも辿り着けたでしょう」

「うーん。そう言えなくはないですかねぇ」

「それに、今回の収入は泡銭ですから、溜め込みたくない気持ちもあるのです」

「そうですか。ではありがたく」

「これからの分の情報料として、もう1枚いかがですか?」

「うーん。さすがにそれは、貰い過ぎに思います」

「でも私には、お返しできる情報や知識がないんですよね」

「いや、近接戦闘はわたしよりずっと強いですから、その辺りでいいですよ」

「レナさんのラノベの知識と釣り合うほどのものではありませんが…」

「知識の貴重さに仮に差があったとしても、教えてもらえるツテが他にないという点で結局互角です」

「そうですか… でもお金が入る予定なので、この町にいる間の食事代は私が持ちます」

「うーん。ではごちそうになります。ありがとうございます」

「何食べましょうね」

「ケンさんの気分優先でいいですよ」

「昨日、肉は十分食べられましたし、野菜たっぷりの汁物とかないですかね」

「いいですね」


根菜がゴロゴロ入ったシチューの屋台を見つけた。


「いくらですか?」

「1杯銅貨2枚」


大き目のお玉を見せながら言われた。


「ではお願いします」


ケンさんが銅貨を4枚渡し、わたしも腰に下げた袋から深皿を出す。

お玉で山盛りにすくってよそってくれた。


「野菜ゴロゴロで嬉しいです」

「ああ。この町は野菜が豊富なんだ。たいした魔獣がいなくて十分な畑があるから」

「へー」

「まあ、冒険者には仕事がないかもな。外から来た冒険者が居着いたりはしない」

「なるほど… あ! 美味しいです!」

「ありがとよ」


いろんな野菜の旨味で滋味深い。

二人でニコニコしながら食べた。


「お代わりするか、他の店行くかどうしますか」

「お任せします。このお店は毎日来たいですね」

「はい。とてもお得感があります。3食食べたいくらいです」

「野菜、不足しがちだから食い溜めするのもいいですね」

「では、付け合わせるメニューも開拓しましょうか」

「肉かパンかってとこですね」

「はい」


その後他の屋台で適当に食事を済ませて、魔法の練習のために町の外に出た。




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