16.金熊
次話で完結です。最後までお付き合いください。
2級の魔法鞄を借りて、森の奥に来ている。
町を出て2日目の夕方だ。
〈石矢〉の、魔力を追加しないで出せる速度が大分上がった。
ケンに〈石矢〉を教えた頃からすると5割増しくらい。
走ってくる赤熊の肩に圧縮・増速して当てれば一撃で転ぶようになった。
でも刺さりはしない。
赤熊の皮は、かなり性能良さそうだ。
ケンの〈石矢〉の上達はそこまでではない。
ただ本人曰く、身体能力と短槍の技量が上がっているそうだ。
わたしも、もっと短槍で闘うべきなのだろう。
体力の向上はわたしも感じる。
ケンが止まって指差した。
「凄いのがいます。金熊かも」
木々の間、40間くらい先に何かいる。
「撃ち込んでみる?」
「お願いし…来ます!」
「〈石槍〉!」
着弾するまでに距離を半分近く詰められた。
そして、金熊は〈石槍〉を右腕で弾いた。
(見てから余裕です、って!?)
ケンは〈石矢〉を連射しながら左前に展開する。
金熊は顔に直撃しそうなのだけカバーしてケンに向かう。
ケンの〈石矢〉は全く効いてない。
わたしは身体強化の強度を上げた。
急に突っ込まれたら反応できないと死ぬ。
「〈石槍〉〈石槍〉〈石槍〉〈石槍〉」
顔に当たりそうなのは避けられたが、それ以外は無視された。
ケンは牽制で突いていて、金熊は立ち上がって対峙している。
頭が1丈くらいの高さにある。
でかい。
「〈石槍〉!〈石槍〉!〈石槍〉!」
ケンへの合図を兼ねて叫ぶ。
1拍1発でゆっくりめの連射。
金熊は左腕で顔をカバーしてる。
「〈石筍〉!」
地面から、股間目掛けて石槍を生やした。
金熊には刺さらなかったが、バランスを崩して倒れかける。
そこにケンが短槍を突き込み、右眼を傷つけた。
片手をついてケンと睨み合う金熊。
金熊がこっちを見た。
(〈石壁〉!)
厚さ1尺の壁を建てる。
金熊が突進してきた。
金熊が速かったため、脇の下を押し上げる形になって金熊が立ち上がった。
とっさに両脇にも壁を建てた。
「〈石槍〉!」
顔に撃ち込む。
腕で打ち払う金熊。
そこにケンが、膝裏辺りに突き込んだ。
「gaaaaaaa!」
「〈石槍〉!」
叫ぶ金熊の口に〈石槍〉を叩き込む。
ケンは反対の脚も突いたようだ。
仰向けに倒れる金熊。
ケンは首を突いてから短槍を滑らせた。
血が噴き出す。
わたしもケンも、少し離れたところで見守る。
…金熊はそのまま動かなくなった。
「これ、普通のパーティはどうやって倒すの…?」
「取り囲んで、後ろから攻撃しか思い付きません」
「でも、突っ込んできたら防御できる気がしない」
「私も受け止めるのは無理なので、躱しながら切りつけるしかないです」
「銀級パーティ、とんでもないね」
「はい。でも獲物だけ見れば、私達も同じのを倒していて、更に無傷です」
「そうなんだよね、獲物だけ見れば互角の強さ持ってることになるのが釈然としない」
「魔法使いと戦士の違い、と思うしかないのでしょう。実際、直接闘えば負けないのですし」
「うーん。そうだね。…それにしてもでかいね」
「はい。これは1級の鞄では入らなかったかもしれません」
「そうだね。試しに入れてみよう」
パーティで使ってる鞄は、2つとも入り切らなかった。
「2級の鞄借りてなければ、切り分けるところでした」
「うん。助かったね」
重さに苦労しつつも何とか吊り上げて血抜きした。
ここから町まで2日。
鞄に余裕があるので、夜に牙猪の内臓を置いておいて黒狼を呼び寄せて狩った。
「こんちはー」
「おう」
「金熊持ってきたよ」
「早いな! 見せてみろ」
「うん」
「…割りとでけーな」
「うん。1級の鞄に入らなかった。鞄助かったよ」
「これは、肉丸ごとは引き取れんな」
「え? そんな高いの?」
「いや… 肉の単価は角兎の数倍。量は数十倍だ」
「全部で100倍くらいか」
「全部売れればな。だが、角兎の数倍する肉は買う奴が限られる。領主だって、使用人に食わせるわけじゃねーから、100kgもいらんだろ」
「あー。腐っちゃうもんね」
「ああ。王都みたいに貴族様がゴロゴロいれば飛ぶように売れるんだろうが、こんな町ではな。だから俺が丸ごと1匹買っちまうと、その後売り捌くのがめんどい」
「そだね」
「手間がかからんのは、冒険者協会に売っちまうことだな。だが、皮は俺が剥ぎたい」
「どうすればいい?」
「納品に、俺も付いていこう。で、その場で皮を剥いで、残りを売るってことにする」
「わかった」
「よろしくお願いします」
「で、どんなの作る?」
「頭部を守りたいのでフードが付いている何か、としか決まっていません」
「何かお勧めない?」
「金熊あれば、ぶっちゃけ赤熊装備は要らんのだが、2人分には足らんな」
「うん」
「兄さんは、赤熊の上衣はナシにして、袖付きの外套はどうだ。これにフード付ける感じだな」
デザイン画を見せてくれた。
長いスリット入りの、膝下丈のコートって感じ。
「良いですね。ですが、上衣なしにしてよろしいのですか?」
「今はまだ鞣しているだけだから構わん。金熊を扱えるのなら、赤熊は単に材料の仕入れってことでいい」
「ありがとうございます」
「ただ、大きさどうすっかな… 中に、軽鎧着られる大きさにしないか?」
「それは、どうしてでしょう」
「外套としては、これ以上の物を作る奴はまずいない。素材も手に入らんしな。もっと防御力欲しいとなったら、中に軽鎧着ることになる」
「なるほど…。ただ、金熊以上と闘う予定はないですし、鎧を着るのは戦争くらいな気もするのですが…」
「半月くらい考えてて構わん。こいつを鞣すだけで一月掛かるからな」
「ありがとうございます」
「さて、姐さんはどうするか…」
「同じ奴は、材料足りない?」
「継ぎ接ぎだらけにしても足りなそうだな」
「じゃあ、袖無しで、頭から肘までの1枚のひらひらってのでもいいよ」
「こんな奴か?」
赤ずきんちゃんのケープみたいなデザイン画を見せてくれた。
前の合わせは深くなってるっぽい。
「そうそう」
これで頭部からギリ胸部まで守れる。
それに、大袈裟じゃないところがいい。
「なるほど、いいな。赤熊の上衣はそのまま作る。他には何狩ったんだ?」
「黒狼10、赤熊2、牙猪2」
「誰かさんのおかげで黒狼は豊富に出回っている。黒狼2、赤熊2売ってくれたら鞄代なしでいいぞ」
「ありがとう」
「魔石も込みの丸ごとで、黒狼が銀貨1、赤熊が銀貨10でどうだ」
「はい。お願いします」
「ああ、赤熊の手持ってくか?」
「ありがとう。ぜひ欲しい」
「これ食えたのか?」
「うん。手間は掛かるけどおいしいよ。1個の毛を抜くのに、午前中一杯掛かる」
「ああ、料理人がやったら、高級料理になっちまうな」
「うん。わざわざ仕入れることはしないと思う。こっちは子ども達がやってくれるから」
「なるほど」
話しながら、バツン、バツンと斧で赤熊の手を切ってくれた。
「よし。協会行くぞ。向こうで金熊出したら鞄返してくれ」
金熊を2級の鞄に仕舞って、冒険者協会に行った。
「こんにちはー」
受付のケイさんに挨拶する。
「こんにちは」
「納品したいんだけど、解体場行っていいかな」
「どうぞ。ガイさんも一緒ですか?」
「ああ」
…武器屋のおじさん、ガイさんって言うんだ。
解体場のおじさんがこっち見た。
名前は知らない。
「何だ?」
「ちょっとこれ見て欲しい」
金熊を出した。
「おう。でかいな」
「俺が皮を剥いで、それ以外を納品する」
「なるほど。こいつは売ってみないと値段がはっきりわからない。だから、予想価格の7割を最初に払って、残りは売れてから清算になる」
「わかりました」
「あと黒狼と牙猪」
「空いてるとこにまとめて出してくれ」
「わかった」
「…どんだけ黒狼狩るんだよ」
「襲ってくるんだからしょうがない」
「黒狼は少し値下げだな」
「しょうがないね」
「しかし、そんな初級装備で金熊かよ」
「赤熊装備注文してるけど間に合わなかった。それに、金熊に殴られたらどんな服着てたって死んじゃうよ」
「そりゃそうだ。普通は鎧着けるもんだ。よし、こんなもんかな」
査定票をくれたので受付に持っていった。
大銀貨4枚超。
金熊を捌くというガイさんに鞄返して、お礼言って別れた。
「立て替えてもらってた鞄代返すよ。ありがとう。こんなに早く返せるとは思わなかった」
「2回で丁度鞄代になりましたね」
「うん。でも2級買うには10回くらい必要だけど、そんなに金熊いないよね」
「はい。それに、防具を揃えてしまえば金熊を狩る必要なくて、1級で足りますね」
「うん。鞄借りてもう1匹狩る程度でおしまいかな。やっぱり金熊は余裕ない。好んで狩りたいとは思わないな」
「作りたい装備あるのですか?」
「いや、ケンの脚の装備」
「うーん?」
「ケンは近接戦闘するし、全身守るに越したことはないよ」
「そうですね…。具足が良いのかロングブーツが良いのかわかりませんが」
「そうだ! 靴も大事らしいね」
「はい。ですが、どこに行けば良いのかわかりません」
「ガイさんに訊けば良かったね」
「はい」
「熊の手お裾分けにいって訊いてみよう」
「なるほど」
孤児院に帰って、赤熊の手をごろごろと渡した。
「武器屋のガイさんがくれました。お礼に1個お裾分けしたいのですが、毛を抜いてもらえないでしょうか」
「ありがとうございます。子ども達に説明して、やってもらおうと思います」
「よろしくお願いします。煮るのは、全部わたしがやります」
「…加熱の仕方を教えてもらえないでしょうか」
「いいですよ。ただ、圧力掛けての加熱は特殊なので、午前中に普通の加熱をまず説明します」
「ありがとうございます」
…エリさんは多分熱運動わかるんじゃないかな。
一晩でお湯出せたくらいだし。




