15.華麗
「レナ」
呼ばれて目を開けた。
まだ暗い。
「魔獣が4匹。多分黒狼です」
わたしにも感じ取れた。
放置した内臓に向かっているようだ。
結界を消して立ち上がり、石壁ののぞき穴から外を見た。
外は、真っ暗ではない、という程度の明るさ。
5寸の穴を開けてあるがよく見えない。
外側に向かって、すり鉢状に穴を拡げた。
「うん。黒狼。どうする?」
「短槍で闘ってみたい気はあるのですが、身体が解れていないので無理しないことにします」
「じゃあ、〈石弾〉でやっちゃうね」
「お願いします」
安全策を取って、天井に穴を開けた。
結界で階段を作って上体を出す。
黒狼は、10間先に置いてある赤熊の内臓に群がっていた。
「〈石弾〉」
頭がこっちに向いている1匹を射抜いた。
他の3匹が弾かれた様にこっちを向いて駆け出す。
「〈石弾〉〈石弾〉〈石弾〉」
1匹ずつ順番に頭を射抜いて終わった。
まあ、ただ真っ直ぐ走ってくるだけなら多少速くても外さないね。
「終わったよ」
階段を降りて言った。
「この後どうする?」
「私の鞄も含めれば、まだ半分空きがあると言えるので、もう少し狩りを続けて良いのではないでしょうか」
「そうだね。じゃあ、この狼も内臓取ろうか」
「はい」
「わたしが首落として逆さ吊りにするね」
「はい。ですが、その格好では…」
「あー」
…また脚むき出しだった。
幸い、石壁の中はほぼ真っ暗だ。
不透明の結界に籠もって着替えた。
黒狼を捌いて鞄に仕舞ってから朝食。
薄暗い中、山並みに沿って西に向かうことになった。
…そろそろ昼食にしようかと思った頃に、また赤熊に遭遇した。
サクッと倒して、血抜きしながら昼食。
「鞄2つ完全に埋まっちゃったね」
「はい。これは、下山ですね」
「しょうがないね」
方位磁針を見て、カウフブがあるだろう方角の少し左手を目指して下り始めた。
暗くなる寸前まで歩いたが、魔獣には遭わずに野営になった。
「今日も内臓撒く?」
「うーん。レナのしたい方で良いですよ」
「うーん。じゃあ撒く」
「はい。では、赤熊お任せして良いですか」
「うん」
「今日は私が御飯作ります」
「うん。お願い」
暗くなる前に、まず石のドームを作った。
その後で血抜きした赤熊を結界の上に出して捌き始めた。
ケンは何か炒めてる。
「カレーの匂い!?」
「はい。カレーの風味はスパイス3種類だけでできるんです。ウコン、コリアンダーシード、クミン。
この辺りでも採れるみたいで、高くなかったですよ。ウコンは完全に薬草扱いでしたが」
「凄い、凄い!」
「ただ、辛味が山椒なので、イメージと違うかもしれません」
「普通のカレーの辛味って、何を使うの?」
「唐辛子と胡椒です。ここでは胡椒はかなり高価で、店先で買える物ではないそうです」
「へー。でも匂いは完全にカレーだね。楽しみ」
「初めて作るので、期待し過ぎないでくださいね」
「わかった」
取った内臓を結界で包んで、赤熊を鞄に戻して手を洗った頃、ご飯ができた。
「いただきます」
「いただきます」
「おいしい!カレーだ!!」
「ちゃんとできましたね」
「こんな感じのカレー、お店で食べたことあるよ、おいしい」
「ハナが採取する薬草の中にあるなら、依頼してみましょうかね」
「うん。何連続カレーでもいいよ」
「まあ、明日の朝と昼はカレーです」
「すっごい楽しみ」
お風呂に入って、うきうきと寝た。
「レナ」
呼ばれて目を開けた。
今日も暗い。
「黒狼3匹です」
「内臓は黒狼呼んじゃうのかな」
結界を消して立ち上がった。
「そうかもしれませんね」
「今日はケンが撃つ?」
「ではそうします。間に合わない時は援護お願いします」
「わかった」
並んで立てるくらいの穴を天井に開け、階段を作った。
赤熊の内臓を貪ってる黒狼に、ケンが指先を向ける。
「〈石弾〉」
「〈石弾〉〈石弾〉」
問題なく倒せた。
「これは血抜きだけでいいよね」
「はい」
ケンに手伝ってもらいながら逆さ吊りにしていった。
今日はズボン履いて寝てたので問題ない。
「ここから1日半くらいかな」
「だと思います」
カレーを食べて、ケンの鞄に黒狼入れてもらって出発した。
予想通り、翌日昼にカウフブに着いた。
獲物は牙猪が増えた。
最初に孤児院に行った。
「ただいま戻りました」
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
「半分食べちゃった黒狼寄進します」
「ありがとうございます」
ハナと肉屋に行って捌いてもらい、肉を持ち帰るハナと別れた。
「後は全部冒険者協会でいいかな?」
「はい。ついでに金熊について訊いてみましょう」
「そうだね」
冒険者協会に入った。
「こんちはー」
「こんにちは」
「魔獣売ります」
「はい。奥へどうぞ」
「ありがとう」
「おう。久し振りだな」
「今日は一杯ある。赤熊2匹、牙猪2匹、黒狼11匹」
「おいおい。じゃあ、種類毎に分けて置けるとこに置いてくれ」
「わかった」
「…今日は、捌いてあるんだな」
「もっと長く森にいるつもりだったから。鞄が一杯になって帰ってきた」
「この黒狼で3〜4日前か?状態は問題ない」
「うん。4日前。金熊探したけど会えなかった。2〜3日山の方に行った森の中って聞いたけど、他に情報ないかな?」
「いや。それしか知らん」
「今年、金熊持ち込まれた?」
「ないな」
「うーん…」
「しかし、赤熊が一突き二突きってどうなってんだ」
「最初に肩に〈石矢〉撃ち込んでるよ。刺さらないけど」
「〈石矢〉なんぞ効かんだろう」
「んー。刺さらないけど効いてはいるよ」
「まあ、この腕なら2人で金熊って言われてもわかる。…査定票だ」
「ありがとう」
受付嬢に渡したら驚かれた。
大銀貨3枚超。
大銀貨なんて初めて貰った。
「鞄のお金、半分返すね。返す目処が立ちそうで良かったよ」
「買って正解でしたね。これでも大きさ足りてないですが…」
「ほんとにねー」
金熊について、武器屋でもう少し訊いてみることにした。
「こんちはー」
「おう。何用だ?
まさか、金熊狩ったとか言わんよな」
「狩りに行ったんだけど、赤熊と黒狼で鞄一杯になって帰ってきた。それで、何か情報ないかと思って」
「こないだ言ったこと以外にはないな」
「そっか…」
「どんだけ狩ったんだ?」
「赤熊2匹、牙猪2匹、黒狼12匹」
「1級2つ分以上あるな」
「うん」
「2級の鞄、貸し出そうか?」
「え? いくら?」
「ちょっと考えるから待て」
「うん」
「…1日銀貨1枚。ただし黒狼や赤熊売ってくれれば1匹につき1日割り引く」
「それ、実質タダになりそうだけど」
「構わん。ただ、割り引きについては人に言わんでくれ」
「わかった。貸して欲しい。次にいつ出るか決まってないけど、近い内に借りにくる」
「わかった。用意しておく」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ケンと並んで孤児院に帰る。
「これで、倍以上探索できるね」
「はい。ただ、ペミカンはむしろ少なくしても良いかもしれません」
「うん。血抜きしたりしてて、意外と時間あるよね」
「新型4つと生の野菜にしましょう。初日の夜もペミカンで」
「うん。いつ出る?」
「最短で明後日ですが」
「ケンさえ良ければそれで」
「では、私は野菜を買って帰ります」
「わたしは孤児院で手持ちのペミカン出してくる」
夕飯の後、ケンが切りだした。
「エリさんとハナに、少し相談があるのですが」
「はい。なんでしょう」
「欲しい薬草があって、ハナが普段採ってくる中にあるなら採取を依頼したいのです」
「何の薬草でしょう」
「ウコンと、コリアンダーシードと、クミンです。この町で買える物なので、無理はしないで欲しいのですが」
エリさんがハナを見て頷き、ハナが答えた。
「ウコンは時期外れです。コリアンダーとクミンは丁度採れます」
「ではコリアンダーとクミンを依頼できますか」
「どれくらい必要でしょう」
「1回で採ってくる量が分からないのですが、採ってきた物は全量買い取ります」
「わかりました」
「急いでいないので、納期は特にありません。ともかく無理のないようにお願いします」
「はい」
「何に使うのでしょう?」
エリさんが訊いた。
「料理の味付けです。あ、それで、明日の夕飯の味付けを任せて貰えないでしょうか」
「どうぞ。何か必要な物はありますか?」
「いえ。調味料は手持ちがあるので大丈夫です。味付け以外は、いつもと同様に作っていただければと思います」
「わかりました」
「ではよろしくお願いします」
いつもの様に入浴して洗濯して寝た。
翌日は朝からペミカン作り。
でも量は少な目。
午後にパンを4日分と堅パン1日分買った。
堅パンは前回買ったのを使い回す。
これは汁物に入れて煮ないと堅くてとても食べられない。
その代わり、湿らせない限りはずっと保つ。
その帰りに武器屋に行った。
「こんちはー」
「おう」
「鞄借りにきた」
「昨日帰ったばかりでもう出るのか?」
「うん。わたしは町にいてもすることない」
「うーん? まあいい。これだ」
「ありがとう。払えないけど、保証金みたいのはいいの?」
「ああ。金貨1枚預かったところで大損には違わねーし、金貨5枚とか出せねーだろ」
「それはそう。買えるお金あったら買ってる」
「だろ」
「ありがとう。一応1週間のつもり」
「わかった」
夕方、ケンがカレー作るのを見学した。
ハナがいつものシチューの具を煮てる隣で、ケンは大蒜・生姜と結構な量の玉ねぎの微塵切りを炒めた。
飴色を通り越して焦茶だ。
そこに切ったトマトを入れた。
そしてペースト状になるまで炒めた。
そこに、塩と粉にしたハーブを混ぜた物を入れて炒めだした。
ふわっとカレーの香りが立つ。
「え?」
ハナが呟いたが、わたしもケンも聞こえなかったふりをした。
「ハナは、辛いのと辛くないのどちらが良いですか?」
「……中辛でお願いします」
「わかりました。では辛さレベル3くらいで」
ペーストに山椒を味付け程度に入れて炒め、一部取り分けた。
残りに山椒を追加して炒め、これも一部取り分けた。
「今分けたのはどうするの?」
「明日持っていきます」
「なるほど」
ハナが煮た具を2つに分け、それぞれにカレーペーストを入れて火に掛けた。
大人用と子ども用。
ハナは大人側。
「これで軽く煮て、塩で味を整えて終わりです」
「カレーってそうやって作るんだね」
「はい。意外と簡単です」
「今日の夕飯も楽しみ」
ハナは難しい顔をしてた。
夕飯は賑やかだった。
「知らない匂い」
「赤茶色?」
「主にウコンの匂いですね。料理に使うのは珍しいです」
「おいしい!」
「おいしい!」
「これは…山椒の辛味ですか。美味しいですね」
「ウコンとコリアンダーとクミンを同量入れます。後は塩で味を整えます。山椒は好みで」
「なるほど」
「この前食べたのよりおいしいね」
「しっかり炒めた玉ねぎと、トマトのおかげですね」
「おいしいよ!また食べたい」
「ハナ、作れますか?」
「大体」
「作り方、紙に書きますね」
「ありがとう」
「ありがとうございます。この辺りにはない味付けなのですが、訊かれたらケンさんに教わったと言って良いでしょうか」
「はい。構いません」
みんなお代わりしまくったが、黒狼がたっぷり入っていたおかげで翌日分もちゃんと足りそうだった。
わたしも含め、みんな大満足で食事を終えた。




