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14.ペミカン

夕飯前に、ケンが帰ってきた。


「ペミカンを2種類作ってみました。夕飯の後に食べてみましょう」

「ありがとう。熊の手は軟らかく煮てエリさんにあげた」

「では夕飯にも出ますかね。少し楽しみです」

「わたしも手首のとこしか味見してないから気になる」


色々話をしていたらエリさんが来た。


「夕御飯ができましたので、どうぞ」

「「ありがとうございます」」


食堂に行くとみんな揃ってた。


「今日は御二人に、珍しいお肉を頂きました。赤熊の手だそうです。切り分ける前に、みんな見てください」


姿煮の入った深皿が回された。


「うわ!ほんとに手だ!」

「えぇ!?」


阿鼻叫喚に近い。

うん。インパクトあるよね。


一周した後、エリさんが切り分けて、皿のパンの上に乗せてくれた。

切り分けてしまえば肉だ。

男の子2人は嬉々として口に入れた。


「おいしい!」

「ぷるぷるとほろほろ。おいしい!」


わたしも食べてみる。

トン足と似た食感で、さらに味が濃い。

おいしい。

肉球は薄切りにされていて、コリコリしてる。


みんな大喜びで食事を終えた。

食後にエリさんに声を掛けた。


「手と足合わせてあと3つあるので寄進します。ただ、毛を抜くのに凄い時間掛かる」

「ありがとうございます。子ども達にやってもらいますが、教えていただけますか」

「いいよ。じゃあ明日渡すね」

「よろしくお願いします」


ケンと2人で教会の外に出た。

ペミカンの試食。


「まずこれが、笊で濾して脂を減らした、現代風のペミカンです」


あぶらギトギトの素揚げ野菜って感じの見た目。


鍋に水と入れて加熱。

沸いたら調味料入れて完成。


「脂でコクがあっておいしいね。早いし簡単だしいいね」

「美味しいですね。そしてこちらが、濾さずに獣脂で固めた古典的なペミカン。この方が日持ちはするはずです」


レーズンバターを拡大して、レーズンをオレンジ色とかにした感じ。

これも使い方は同じ。


「あー。脂凄いね。十分おいしいけど、何食も食べ続けるのは避けたい感じ」

「ですね。味付け前に、脂をすくって捨てるとマシになりますが」

「最初に食べた方、1週間保つかな?」

「あちらの感覚では、無理そうです」

「山奥でお腹壊したらまずいし、試すわけにはいかないね」

「はい。新型4つに旧型2つでどうでしょう」

「うん。それで行こう」


翌日作って、明後日出発することになった。


わたしはまず熊の手担当。

子ども達とエリさんの前で、熊の手を2回茹でこぼす所までやった。

やっとこを貸して、交代で毛を抜いてもらうことにした。


その間に、追加でやっとこ買ってきた。

ハナ以外の子ども4人が、毛抜きすることになった。


わたしは、ケンのペミカン作りに合流した。

まずは野菜を切る。

何でも賽の目切りにする。

大きくない方が、水分が早く抜けるんだそうだ。


その間に、結界で作った鍋で脂身を加熱して脂を融かしだす。

あっちでチューブに入って売られていたラードみたいに全部融けちゃったりはせず、脂身の残骸を取り出した。


そこに切った野菜を入れて、弱火でじっくり加熱して、水分を抜くんだそうだ。

火が強いと焦げ付くらしい。


「野菜から出た水が下に溜まるので、

それを蒸発させるのに時間掛かります」

「鍋に穴開けて水を抜いたら、早くできるかな?」

「やってみましょう」


ケンが結界で小振りの鍋を作り、煮てる途中の鍋を上に乗せた。

上の鍋の底に小さい穴を開けると、脂混じりのお湯が出てくる。

適当なところで穴を塞ぎ、加熱を再開した。


小鍋の液体は、冷めると脂の塊が浮いたので、すくって大鍋に戻した。


これを何度か繰り返すが、途中で昼食。


昼食後わたしは熊の手の方に一旦戻った。

子ども達が毛を綺麗に抜いてくれたので、洗って圧力掛けて煮る。

こっそりエリさんに訊いてみたが、圧力鍋みたいなのはないようだった。


加熱中の熊の手を持ってケンに合流した。


「良い感じです。水を抜いたおかげで格段に早くできました」

「ザルで濾すのが4つと濾さないのが2つだね。試しに真空パックも1つ作ってみようか」

「良いですね。食べるのは帰ってきてからですが」

「うん」


新型4つ、旧型2つ、新型の真空パック1つ作った。

どれも結界で包んである。


「ガッツリ魔力入れたけど、一応毎晩魔力足そう」

「はい」

「初日の夜はどうする?」

「翌日の昼の分までは、買ったシチューで大丈夫では」

「うん。そうしよう」


パンを3日分買い、堅パンも買い足した。

エリさんに、1週間の予定で山に行くことを伝えて準備を終えた。

持っていく食料が増える以外は、2日も1週間も荷物は変わらない。

夕飯に熊の手食べて、いつもの様に寝た。


翌朝、露店で食べ物を買い込んで町を出た。

草原と林は走った。

森は早歩き。


夕方、そろそろ野営地探そうかという頃に、ケンが手信号を出して止まった。


中型5匹。

中型?


「来ます。黒狼5匹」


…向こうにも気付かれたらしい。


「魔法で殲滅。わたし左から」


黒狼は、わたし達を包囲するように広がりながら駆け寄ってくる。


1匹ずつ狙って、圧縮してない〈石弾〉で頭を射抜いていく。

わたしが3匹、ケンが2匹倒した。

わたしが倒した3匹目は、10間の距離だった。

ほんの2拍で飛び掛かられる距離。


「いざとなれば石壁で身は守れるんだけど、わたしの魔力感知は距離足りてないね」

「まあ、パーティでは役割分担しますから」

「初日に黒狼か…。これ、1週間保つかな?」

「内臓抜いておけば、売り物にはなると思います」

「じゃあ、1匹は明日以降食べちゃうとして、他もお願いできる?」

「はい」


ケンが1匹捌いている間に他の4匹を回収して、穴を掘った。


「内臓埋め終わったら、移動ですね」

「うん。数が多いから、わたしも手伝うね」


圧縮してない〈石弾〉は、頭を突き抜けることはなく、中で丁度良く止まっていた。

貫通してしまうよりもダメージは大きいはずだ。

エネルギーの保存とか仕事量とか、高校物理を思い出しながら、魔力を纏わせた短槍で頭を切り落として逆さに吊っていく。


逆さ吊りのまま、ケンがお腹を開いて内臓を取っていく。

内臓は結界に包んだまま埋めた。


「半刻位移動しましょうか」


「うん。完全に暗くなるね」


短槍の先に〈灯火〉を灯し、頭上に掲げて歩く。

これだと短槍が使えなくなるわけだが、魔法で対処するから支障はない。

半刻歩いて野営地を決めた。


「狙って金熊を狩るのは難しいかもしれないね」

「はい。魔法鞄一杯になったら帰りますよね?」

「そうだね。食料さえ用意すればいつでも来れるし」

「明日は、お昼までは真っ直ぐ奥に向かって、そこでどう動くか考えましょう」

「うん」


いつもの様に出来合いの物を食べ、結界に籠もってお風呂に入って寝た。



翌日は、少しペースを落として歩いた。

街道を普通に歩くくらいの速さ。

黒狼の群れが普通に現れるような場所だ。

油断できない。

小休止で止まったとき以外は、全く喋らず歩いた。


ケンが止まった。

手信号は、牙猪1匹。

目を凝らすと、わずかに目視できる。

牙猪自体は余裕だけど、それに全集中するわけにはいかない。


ケンが普通の速さで歩いて向かっていく。

わたしは周辺警戒しながらついていく。


牙猪が気付いて突進してきた。

10間の距離でケンが〈石弾〉を撃つ。

鼻先に当たって、突き刺さる。

牙猪は、前のめりに倒れて動かなくなった。

周囲に他の魔獣の気配はない。


「周辺警戒続けるね」

「はい。お願いします」


黒狼に取り囲まれて一斉に突撃されるとかでない限り、止まってる時ならわたしの感知距離でも迎撃は間に合うはずだ。

最悪、石壁がある。


周囲に気を配りつつ、わたしは地面に穴だけ掘った。

ケンは、牙猪を逆さ吊りにして血抜きしつつ、解体していく。


「ここで昼食にしましょうか」

「そうだね」

「先に食べててください」

「ありがとう」


無言で早々と食べ終え、警戒を続けた。

やがてケンが解体を終え、食事を始めた。


「魔法鞄、1つほぼ埋まってしまいましたね」

「うん。1週間も食料使わなそうだね」

「普通なら丸2日くらいの距離来たと思いますが、どうしましょう」

「うーん。このまま真っ直ぐ奥に向かってみようか」

「はい。何の当てもありませんから、今日はそうしましょう」

「大物ばっかりだけど、この辺の小物はきっと隠れてるんだろうね」

「多分そうでしょうね」


ケンも食事を終えたので、出発した。


…夕方、赤熊に遭遇して倒してしまった。

赤熊を解体している間に、夕飯作ることになった。

ペミカンは初めてなので、ケンに説明受けながら作る。


先ずは黒狼肉に塩と山椒を振って炒める。

山椒はこの辺で自生していて、とてもありふれた香辛料だ。

孤児院では自家消費用にハナが採ってきてるので、少し売ってもらった。


簡単に炒めたら、被るくらいの水を入れて加熱。

肉に火が通ったらペミカンを入れて、少し加熱して味を整えて終了。

早い。


「普通に考えると移動して野営ですけど、どちらに行きますかね」

「鞄の空きを考えると、明日更に奥には行かないよね?」

「そうですね」

「じゃあ、90度向きを変えて、どっちか」

「あるいは、この近くに敢えて泊まって、襲撃を誘うというのもありますが」

「…めんどくさいから、そうしよっか。それで鞄一杯になったら、明日下山だね」

「ではそうしましょう」

「いつもの結界の天幕では、強度不足だと思う」

「となると、石の壁か柱ですね」

「うん。どっちにする?」

「うーん。レナにお任せします」

「うーん」


ぐるっと囲む形にしてしまった方が、倒れる心配がない。

それで地面に1尺くらい埋めればまあ動かないだろう。


長径3間弱、短径2間くらいの長丸を地面に書く。

それを目安にして、今ある魔力の半分を注ぎ込んで、圧縮した石でドームを作った。


幅1尺ちょっとで出入り口を開けた。

足元2尺くらいは壁のままで跨ぐようにしてある。


「これで、中にそれぞれで結界張って寝よう」


「はい。お疲れ様」


夕飯には少し早かったので、お風呂を先に済ませた。

その間、ペミカンは弱く煮込み続けておいた。


「いただきます」

「いただきます」


まずはペミカンのシチューから食べてみる。


「おいしい」

「美味しいですね」


味付けは塩と山椒だけだが、複雑な旨味があっておいしい。

時間を掛けたので狼肉もそれなりに柔らかくなっている。


「味噌があれば最高なんだけどなー」

「ああ、トン汁良いですね」

「味噌よりはしょう油の方が可能性あるかな?」

「海沿いなら、魚醤は可能性ありますね」

「うーん。魚醤はあんまり…」

「味噌は、大豆と麹と塩だけで作れるらしいです」

「大豆はともかく、麹が探せる気がしない… 鑑定が使えたら探せるのかなぁ」

「エリさんに訊いてみたら、何かわかるかもしれませんね」

「そうだね。訊いてみる」


夕飯を終えた。


「あれ? もしかして、頑丈なトイレも必要?」

「確かに。では今度は私が作りましょう」

「ありがとう」


ケンが外に出た。

そして、ドームの壁に入口を向けて、壁厚が1尺もあるゴツいトイレが作られた。


結界で包んでいた赤熊の内臓をあえて出してから寝た。





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