10.パーティ登録
朝だ。
何気なく着替えようとして、いつもと違う格好に気付いた。
…ケンと同室だった。
不透明の結界で囲って着替えた。
結界を消すと、ケンも起きて着替えたところだった。
「おはようございます」
「おはよう」
食堂に行くとエリさんがいた。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「早いですね。シチュー温めます」
「ありがとうございます」
「温めている間、少し相談良いでしょうか」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます。私もお湯が出せました。これは、どの程度一般的な魔法でしょうか」
「わたしは、戦闘で使うような魔法については色々聞いて回りましたが、それ以外は自分の村のことしかわからない世間知らずです。
一般的な常識は、ケンの方がずっとあります。その上で言うと、全く聞いたことありません」
「私も、聞いたことありませんでした」
「取り扱い注意な情報だと言うことですね。子ども達に見せずに私に見せてくれた配慮に感謝します」
「いえ」
「健康面を考えると、お風呂を使わせたいと思います。湯桶はどうするのがよいと思いますか」
「では、石で湯船を作っておきます」
「ありがとうございます」
「今入っている水は捨てておきます。エリさんが自分で出した水なら、自分で簡単に動かせるはずです」
「わかりました」
「あと、助言を1つ。できると思えば、できてしまいます。子ども達に何を見せるかは、考えてください」
「……わかりました。あなたがたに、幸多からん事を願います」
「ありがとうございます」
「では、朝御飯をどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます」
朝食を終えて、出る準備をした。
「2〜3日、山の方に行ってくるので、帰ってこなくても心配しないでください」
「わかりました。お気を付けて」
「はい。行ってきます」
屋台で、今日の分のシチューと2日分のパンと串焼肉を買った。
「真空パック、試してみるべきかなぁ」
「今後も泊まりで狩るならそうですね」
町を出て山に向かう。
薪をとるための道が森に続いている。
「今日は、魔法で手早く倒して先を急ぎましょう」
「うん」
身体強化を使って早歩きする。
森は、木の間隔が広くて明るい。
間隔が一定な所を見ると、人が管理しているのだろう。
林というべきなのだろうか。
やがて、木が密になって暗くなってきた。
町から1刻くらい歩いた。
「20間先、茶狼くらい。群れでいます」
魔力感知はケンに全然及ばない。
わたしの感知距離は、半分くらい。
ケンが指差す方を見る。
茶狼だ。
向こうも気付いたみたいで駆け出すところだった。
「任せて」
今回から、誰が倒しても半分こすることにしてある。
〈石針〉で1匹ずつ頭を射貫いていく。
魔力を追加せずに出せる速度が上がったので、〈石針〉でも頭に刺さる。
5匹だった。
魔石を抜いて魔法鞄にしまう。
「小物で鞄一杯にならないといいね」
「はい。一杯になったら帰るしかないですね」
昼過ぎ、ケンが手を伸ばして止まれの合図をした。
ゆっくり下がってわたしに近づく。
「牙猪がいます」
ケンが指差す方を見る。
40間くらい先、横向いて食事中っぽい。
初めて見た。
「〈石矢〉試していい?」
「どうぞ」
魔力を追加して速度を上げる。
「〈石矢〉」
こめかみ辺りに当たって貫いた。
「一撃ですね」
「真横からで条件良かったからね。
正面から突進してきた時貫通できるかだけど、その時は低く結界出して転ばせるよね」
「ですね」
牙猪は、茶狼を食べてたようだ。
ケンより少し大きいくらいだから、7寸くらいか。
1級の魔法鞄でも、斜めになら入る。
「この大きさだと、持ち上げて逆さ吊りってわけにいかないね」
「故郷では縄と滑車で吊り上げてましたが、滑車を持っていません」
「後ろ脚を固定して、地面に穴開ければ… でも穴掘るのも簡単ではないね」
「魔法鞄に入れれば持ち上げられますから…」
「うん。まず高い台に上げて、後ろ脚を固定しよう」
結界で台と階段を作った。
牙猪を魔法鞄に一度入れて台の上で出し、後ろ脚を固定した。
ケンが牙猪の首を切りつけて降りてきた。
「さて。どうやって傾けよう」
とりあえず階段消して考える。
「重力を利用する方向になら回転できるかな…」
後ろ脚の辺りを軸にして、ゆっくり回転させる。
「できた」
とぽとぽと血が滴る。
「ここ、獲物多くて良さそうだね」
「はい。拠点としましょう」
「うん。パーティ名どうする?」
「うーん…」
「カウフブの何とか、ではないよね」
「はい。ここに思い入れもまだありませんし」
「うーん。得意魔法は、土だから…」
「石矢、だけでは単純過ぎますね」
「2本の石矢」
「あー…。ではそれで」
「え。ほんとに?」
「はい。いいですよ」
「うーん。じゃあいいか。血抜きってどれくらいするの?」
「故郷では1刻くらいでした。
滑車で吊り上げて、休憩するとそれくらい経ってしまうので」
「そっかー。時間半端だね」
「はい」
結局、料理して時間を潰して、近くで野営することにした。
材料は肉しかないので、明日用にお肉ごろごろスープを作る。
時間あるし、お遊びみたいな物なので、牙猪の脛肉をじっくり煮込んでみた。
「夕飯は、手持ちのシチューとこのスープ混ぜて食べてみましょうか」
「あ、いいね」
「次からは、日持ちする野菜準備しましょう」
「うん。使わなかったらあげちゃえばいいしね。
あ。脛肉おいしい」
「おいしいですね」
「うーん。足だけお土産にしようかな。手間増やすだけかな」
「普段食べない食材を食べるのも良いかもしれません」
「うん。じゃあ、森を出る時に足斬って欲しい」
「わかりました」
この日の野営も、魔獣は現れなかった。
翌朝は、パンと串焼肉と脛肉スープ。
やっぱり汁物は必須だ。
「今日は時間ありますから、短槍を鍛えましょう」
「うん」
早歩きで真っ直ぐ街を目指した。
茶狼が4匹来たので1匹ずつ結界で囲む。
わたしは1匹ずつ2回倒した。
ケンは一度に2匹倒した。
わたしも、次からは2匹にしよう。
魔石を抜いて、魔法鞄に入れた。
昼過ぎにカウフブに着いた。
冒険者協会で受付嬢に言った。
「ここを拠点として、パーティ登録したいのですが」
「はい。他の町からの移動でしょうか。新規の登録でしょうか」
「新規です」
「では、こちらの用紙にお願いします。自分で書きますか?」
「はい」
紙をもらって書く。
「リーダーはケンでいいよね? あ、ケントだっけ」
「はい。レナが良ければそれで」
「名前とか出身は自分で書いた方がいいか」
「そうですね」
名前、前にいたところ、得意な武器、使える魔法などを書いて、ケンに回した。
ケンも書き終えて受付嬢に渡した。
「お願いします」
「確認します。パーティ名は『2本の石矢』で、リーダーがケントさんですね。
では2人の冒険者証を見せてください」
「はい」
指輪を抜いて渡した。
「はい。確認しました。これで手続きします」
「はい。あと、業績書あります」
ケムニで書いてもらった業績書出した。
受付嬢は中を読んで少し驚いた顔をしたけど、口には出さなかった。
「お預かりします。後日お返しします」
「わかりました」
「手続きはこれで終わりです」
「ありがとうございます。解体場行っていいですか」
「はい。どうぞ」
解体場で係のおじさんに挨拶する。
「こんにちは」
「おう」
「牙猪と、茶狼が9匹」
「牙猪はこっちで、狼はどこでもいい」
「わかった」
「…何で足ないんだ?」
「食べてみたらおいしかったから」
「うまいのか。まあ、状態いいし、値段はそのままでいいだろう」
「ありがとう」
「しかし、牙猪を一発か」
「横向いて食事中だったから条件良かった」
「獲物だけ見たら普通に銀級だな」
「ありがとう」
「ああ、魔法じゃないのもあるんだな」
「うん。わたしはまだまだだけど」
さらさらと査定票を書いてくれた。
「これ持って受付に行ってくれ」
「ありがとう」
受付に査定票を渡すと、また少し驚かれた。
「凄腕ですね」
「銀級目指してる」
「では、まだ先の話ですが、護衛依頼も受けると良いでしょう。2人からするとお金になりませんが、腕前以外の評価が早く得られます」
「わかった。ありがとう」
牙猪は、茶狼の10倍くらい重さがあるのでそれなりのお金になった。
孤児院に行った。
「ただいま戻りました」
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。ご無事な様で何よりです」
「ありがとう。角兎の肉ってまだ残ってるかな」
「少しだけありますが、ほとんど野菜と交換してもらいました」
「それなら良かった。お土産に牙猪の脛どうぞ。じっくり煮込んだらおいしかったよ」
「ありがとうございます」
「足切った残りは冒険者協会で売ったけど、値段そのままで買ってくれたから実質タダだよ」
膝下の部分を骨付きで1本出して見せた。
「ではこちらにお願いします」
石壇に出した。
膝下の肉は、実は前脚の方が大きい。
太腿は後ろ脚の方が大きいのだけど。
「あなたがたに、幸多からん事を願います」
「「ありがとうございます」」
「ハナを呼んできます」
「あ、わたし運ぶよ。台所でいい?」
「ではお願いします」
「私は散歩してきます」
「うん」
脛を台所に置いていると、エリさんとハナが来た。
「こちら、レナさんとケンさんに頂きました。牙猪の脛です。じっくり煮込むとおいしいそうです」
「ありがとうございます」
「捌き方を教えてもらうことはできますか」
「うん。いいよ」
皮を剥いで、脛肉を切り取った。
「もしかしたら、骨ごとぶつ切りにして煮込んでもおいしいかもしれない」
ケンがいたら切れたのだけれど。
「あれ? 猪の踵ってトン足?
この辺、食べられるんでしょうか」
「私は聞いたことありません」
「差し上げた物だけど、もらっていいですか?」
「はい。どうぞ」
「ありがとう。ちょっと試してみる」
脛肉を塊のまま茹でこぼして、あとは好きな大きさに切って弱火でじっくり煮込めばいい、と教えた。
トン足は、外で〈種火〉の魔法で毛を焼いた後、台所を借りて下処理した。
茹でこぼして洗ってを念の為2回やった後、部屋で煮ることにした。
ケンが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「おかえり。トン足煮てみてる」
「なるほど。思い付きませんでした」
「そっちは?」
「冒険者協会で護衛依頼見てきました」
「どうだった?」
「多くはないけど、一応ありました。
ただ、やはりお金になりませんね。
片道だけで帰ると赤字です」
「そっか。何か買い物に行くついでってのが理想かな」
「はい。何か買いたい物ありますか」
「もう少しマシな部屋着が欲しいけど、わざわざ買いに行くほどではないね」
「まあ、どちらもついでとして組み合わせればいいですね」
「うーん。買い物、エリさんに聞いてみる」
「それと、野菜を少し買ってみました」
色々話してると、エリさんが呼びにきた。




