11.石鹸
改行を減らすことにしました。
先に投稿した分も、順次修正します。
「夕御飯できました」
「「ありがとうございます」」
食堂に行く。
脛肉ゴロゴロのシチューとパンのようだ。
「御二人に、変わったお肉をいただきました。牙猪の脛だそうです。今日もお代わり沢山ありますよ」
子ども達の歓声が上がった。
「ありがとう!」
「では、いただきましょう」
(いただきます)
「おいしい!」
「なにこれ!?」
「バラバラになった!」
「こんな風に、食べ物が口の中でやわらかくばらばらになる感じを、ほろほろ、と言います」
「ほろほろ!」
「ほろほろ、おいしい!」
わたしもニコニコしながら食べた。
食後、エリさんに呼び止められた。
「子ども達に、様々な体験をさせられてありがたく思っています。お風呂も、とても良いものです。長くいてくれると助かります」
「こちらこそありがとう。ただ、お肉しか提供できないことが心苦しいです。せめてわたし達の食費分だけでも支払いできないでしょうか」
「いえ。食堂や宿屋の真似事のようになるのも触りがありますから、気にしないでください。お肉で十分助かっていますよ」
「そうですか…。わかりました」
「お風呂は、先に入ってもらって良いのですが、どうしますか」
「子ども達の都合に合わせます。わたし達はいつでも構わないし、部屋でも入れるので」
「では、子ども達が先に入ってから、お湯を抜いて呼びますね。御二人が入ったらお湯を抜いてください」
「はい。わかりました」
「それと、石鹸を用意したので使ってください」
「ありがとうございます」
部屋に戻って、話した内容をケンに伝えた。
「レナは泊めてもらって、私は宿に泊まるというのも良いかもしれません」
「うーん。なるほど?
さしあたって、お風呂は片方が洗い場で、片方はここに分かれない?洗濯もしたいし」
「はい。レナはどちらにしますか」
「どっちでもいいけど、じゃあ、今日は洗い場借りていいかな」
「はい。上がったら食堂で合流しましょう」
「わかった」
この国では、石鹸はサボン草という薄紅色の可愛い花の咲く草から取る。
乾燥した植物丸ごと、あるいは刻んだ葉や根の形で売っていて、刻んだ物を煮出すと液体石鹸になる。
その辺に自生していて、根っこから抜いてもまた生えてくる。
わたしも野営のときは使っている。
髪を洗ってもごわごわしない。
宿の部屋でお風呂のときは、すすぐのがおっくうで毎日は使ってない。
ただ、鍋を洗う時はかまどの灰を使うのが一般的で、普通の町や村では石鹸の需要は多くはない。
大都市だと、薪ではなくて魔石で煮炊きして灰が出ないけど、何で鍋を洗ってるのかは知らない。
油脂をケン化して作る石鹸もあるのかもしれないけど、少なくとも庶民には縁がない。
お風呂から上がってケンと合流して、エリさんに伝えにいく時に、牙猪の踵も持っていった。
味見したら、ぷるぷるとろとろにできていて、トン足そのものだった。
「あの踵です。軟らかく煮てあります。薄く塩入れてるけど、好みの味付けで食べてください」
「ありがとうございます。興味深いです。明日はどのような予定ですか」
「また2〜3日の予定で山の方に行きます」
「わかりました。お気を付けて」
「はい。ありがとうございます」
部屋に戻って、洗った物を干して衝立作って寝た。
翌朝、朝食をいただいて出発。
3日分のパンと今日の分のシチューを買い込んだ。
「前回と同じ方に行って奥を目指すか、斜めに違う方に進むかどうしますか」
「ケンに任せるよ」
「では同じ方に行きましょう」
「うん。わたし、茶狼2匹と戦いたい」
「どうぞ。では私は3匹を相手します。まず短槍で行きましょう」
「うん」
しかし、前回牙猪がいた辺りまで、魔獣と遭わずに来た。
「茶狼もいないね」
「昨日一昨日で9匹狩りましたからね」
「お昼にしよっか」
「はい」
昼食後も、早歩き気味に歩いた。
「!」
ケンが、止まれの合図を出しながら止まった。
手信号によると、1匹、30間。
間に藪があって見通せない。
わたしでは感じられない。
顔の前で手を振ってから、どうぞ、と示した。
「〈石矢〉」
ケンの〈石矢〉が藪に消える。
「!」
気配が大きくなった。
「〈石矢〉」
感じた気配の中心目掛けて撃つ。
しかし、気配は近付いてくる。
「〈石矢〉」
ケンが撃った。
わたしは、10間先の藪から現れるのを待つ。
茶色い塊が飛び出した。
「〈石矢〉〈石矢〉〈石矢〉!」
増速した〈石矢〉を3連射する。
1発目が口から突き刺さった。
2発目は額に当たって弾かれ、3発目は態勢を崩した茶熊の背中に当たって滑った。
茶熊は動かなかった。
「硬いね」
「はい」
確認すると、額は割れてはいた。
「〈岩槍〉なら額でも刺さったかも」
「思ったよりも刺さらないものですね」
「うん。〈火矢〉ならどうだったのかな」
体長は、これも7尺くらい。
でも牙猪よりかなり強いっぽい。
「これ、わたし達の短槍で何とかできた?」
「魔力を纏わせないなら、時間をかなり掛けて、失血を待つことになるのではないでしょうか」
「うん。わたしでは無理だ」
「ここまで来ると、魔力で斬るしかないですね」
「うん。茶狼で練習しようかな。でも真っ二つにしちゃったら、持ってる武器と合わないな…」
「その時は、肉屋に売れば良いのでは」
「なるほど」
牙猪と同様にして逆さ吊りにして、魔石と血を抜いた。
「肉が、茶熊しかないですね」
「手足切り落としたら、安くなりそう」
「はい」
「熊の手煮る気力も時間もないし、移動しよっか」
「では、斜めに戻って、魔獣倒したらそこで野営。魔獣いなくても薄暗くなったら野営でどうでしょう」
「うん。それで」
茶熊を仕舞って、早歩きで移動した。
薄暗くなる頃に茶狼2匹と遭って倒し、野営した。
翌朝、茶狼で作ったシチューを温め直して食べて出発。
途中で昼食も食べ、魔獣とは会わずに町に着いた。
冒険者協会で茶熊と茶狼を1匹出した。
「おいおい。茶熊も1発か」
「いや、額に当たったのは弾かれたし、背中も滑って刺さらなかった。」
過大評価で無茶振りされると困るので訂正した。
「茶熊、手足切り落としたら安くなっちゃう?」
「ああ、これは毛皮の状態凄くいいからな」
「だよね」
「これ持って受付に行け」
査定用紙をもらって受付に行く。
…今日も驚かれた。
協会を出て話した。
「ケンは、武器買い替えないの?」
「片手武器と長柄のどちらが良いのか迷っています」
「魔力を伸ばして斬るのでなければ、刃渡り足りないよね?」
「茶熊以上を斬るならそうですね」
「もっと奥まで行くか、茶熊までの相手で短槍の腕磨くか、どうする?」
「今銀級になるのに足りないのは信用であって、これ以上強い魔獣狩っても変わらないと思います」
「うん」
「ですから、茶熊までで鍛えるのが良いと思います」
「じゃあそうしよう。それと、護衛依頼も探そう」
「はい」
「ところでわたしの短槍って、刺す専門で、斬るのに向いてないよね?」
「はい。斬る、ではなくて叩くですね」
「斬りたいなら、どんな武器がいいのかな」
「槍で、斬りつけもするなら笹穂槍ですね」
「ささほ?」
「槍の穂が、笹の葉みたいに真ん中が膨らんでいるのです」
「ああ、笹穂」
「斬るだけなら薙刀ですが、これだと突くのがいまいちです」
「うーん。一長一短って奴か」
「はい。だからこそ、長柄武器って色々あるんですね」
「難しいね」
「はい。身体強化を前提にして、今のよりも穂が大きくて重い笹穂槍にするのが良いのでは」
「わかった。武器屋行ってみる。今日は見るだけだけど」
孤児院に行って、わたしが倒した傷だらけの茶狼を寄進した。
昨日の牙猪の踵は、初めての食感で子ども達も大喜びだったと聞いた。
肉屋に茶狼を運ぶのを手伝ったあと、武器屋に行ってみた。
近くに魔獣が沢山いるだけあって、剣も短槍も色々あった。
とりあえず、お金を貯めようと思った。
その後も、町から片道最大1日の範囲で狩りを続けた。
1日と言っても、身体強化で早歩きしているので、普通の冒険者よりはかなり遠くまで歩いているが。
牙猪ならケンが〈石矢〉撃って、茶熊ならわたしが〈石矢〉撃つ。
闇雲に連射するより、単射で狙った方がちゃんと当たって刺さった。
牙猪は、ケンも〈石矢〉で余裕なので次からは短槍で近接戦闘するそうだ。
わたしにはまだ無理だ。
魔法刃を思いっきり伸ばして斬ってしまうだろう。
とりあえず茶狼はズバズバ斬れるようになった。
わたしが斬った茶狼は、お土産以外は肉屋に売った。
牙猪は、膝で斬った脚を毎回お土産にしている。
わたしも魔法刃で切り落とせるようになった。




