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現代社畜のダンジョンコンサル  作者: 珍比良


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探索者-ステークホルダー-

 キャッシュレス決済が広く普及したのは利便性や省力化が主な理由だろうが、企業からすると客単価の上昇も捨て置けない要因の一つだろう。

 現金に直接触れないことで『消費している感覚』が希薄になり、結果として想定以上の金額を消費することになる。クレジットカードの請求書を見た時に愕然とした、なんてエピソードは腐るほど目にしてきた。消費者にとっては悩みの種だろうが、企業にとっては金の成る木の種であったというわけだ。


 目に見えない消費は心理的抵抗を和らげる。

 では、ダンジョン特有の決済システム――死ねばそれまで積み上げた魔力(ちょきん)を全て消費するというシステムはどれだけ人に受け入れられているのか……ひいては、どれ程の見返りがあれば受け入れられるのか。見定めるのは急務である。


 僕たちは訓練部屋から移動してオフィス……テーブルと椅子が置いてある部屋へと戻ってきた。椅子に腰掛けて探索者たちの動向を注視する。


『まずは土からいけ。次に石。最後に俺が行く』


 探索者一団のリーダーと思われる男がダンジョン入り口で音頭を取っている。フォーメーションの再確認だと思われるが、なにやら気になるワードが飛び交っていた。


「ゲロルグさん、土とか石って何か分かる?」

「人間たちが作った探索者組合の階級区分でゲロね。確か前に探索者が落としていった手帳に載ってたはず……あ、これでゲロ」


 ゲロルグさんがテーブルの端に乱雑に積まれていた荷物から手帳を掘り出してきた。整理整頓という基礎ができていないことにげんなりするが……指摘と改善の要求は後回しにする。


「どうも。……なるほど、階級は八つか」

「まあ、今ここに来るのは基本的に下から二つまででゲロ。……昔は上の方も来てたんでゲロがねえ」


 手帳に書かれていたのは階級表と、恐らく元所有者が書いたと思われる簡易的な注釈(メモ)だった。


 ◇◇◇ 

・蒼天級……ほんの一握りの強者。まさに雲の上の存在。

・白雲級……才能と頭脳と運、全て揃えてここまで来れる。

・黒鳥級……極めて優秀と認められた証。

・赤葉級……優秀であると認められた証。

・焦木級……中級者。ほとんどの人はここまでらしい。

・若草級……ルーキー卒業の証。

・灰石級……探索者を続ける気があると認定されたら上がれる。

・黄土級……素人。まずはここから。

※死んだら基本的に灰石級からやり直しらしい。絶対に死なないよう頑張るぞ!

◇◇◇

 

「おお……具体的な指標が何一つ書いてないな……。誰がどのくらい偉いのかさっぱりだ。勤続年数とか取得してる資格による昇格優遇とかないの?」

「ないゲロ。探索者は基本的に強さが全てゲロ。考えなしに突っ込んで死ぬ人間はいつまで経っても下の階級ゲロが、周到に周到を重ねてダンジョンを渡り歩いた人間は五年そこらで一番上にも行けるらしいゲロよ」

「なるほど。職位というよりは強さの指標として見たほうが良さそうだね。……しかし階級が覚えにくいな。法則とかあるの?」

「低いところから高いところへと登っていく……という理由で付けられた区別らしいゲロね」

「あー、そう言われればそんな感じかも」


 底辺の地べたから、そこに横たわる石、背の高い草、人の背を優に越す木と葉、空を飛ぶ鳥、鳥よりも高いところにある雲、そして見果てぬ先にある天。

 文字通り命を賭けて戦いに赴く探索者の野心を煽るには適した表現と言える。人を集めるためのキャッチコピーは大事だよね。弊社も求人票の募集に捻りを加えてたな。頑張れば月収30万とか実力次第で即昇格とか。一応ぎりぎりで嘘ではなかったあたりアットホームな職場だったと思うよ。うん。


「階級は覚えたけど、誰がどこに属してるか分からないね。社員証でも首から下げてくれればいいのに」

「それは耳飾りを見れば分かるゲロよ。色に相当する飾りを付けてるゲロ」

「どれどれ……ああ、本当だ」


 宙に浮くモニターはピンチインに対応しているようで、指でちょいといじれば映像がズームした。

 音頭を取っている男の耳飾りには緑色をした荒削りの石が光を放っていた。あれが若草級の証なのだろう。


 スワイプして映像を集団の方へと切り替える。少年少女から成人男性、中には三十を過ぎてそうな男もいたが、耳飾りの色はほとんどが黄色で僅かに灰色が混じる程度だった。


「さすがに調査と言っても階級が上の人間が出張ってくることはないか」

「ゲロ……育った探索者の大半はより鍛えられるところやいい恩恵が手に入るダンジョンの近くへ旅立っていくでゲロからね。今となってはこの地に飛び抜けた強者は残ってないゲロ」


 富裕層がいないなんて立地条件は最悪に近いな。

 まあ、いきなり強い探索者に侵入されて荒らされるよりはよほどいいか。いなければ呼び込めばいいのだ。今はその準備期間である。地球産の恩恵を餌にして運転資金を蓄え、ゆくゆくは強者もターゲット層に含めなければならない。早いところ創り出せる魔物の強さも把握しておかなければ。


「そういえばリーサルさんってどのくらい強いの? この集団にも一人で勝てる?」

「この程度は相手にならないゲロよ。かなり前の話になるゲロが……白雲の探索者を複数人相手にして互角以上にやり合っていたゲロ」

「えっ……強くない?」

「当然ゲロ。あの魔王様に気に入られて直々に鍛えられたんでゲロよ」

「じゃあレイミアさんはどのくらい強いの?」

「蒼天の探索者が百人束になっても負けないゲロ」


 化け物かな? スケールが違いすぎて笑うしかない。そりゃ人間が生態ピラミッドの頂点に立てないわけだ。


「参考までにゲロルグさんは?」

「ゲロは頭脳担当ゲロ」


 ふむ……推定黄土級と見積もることにしよう。適材適所。ゲロルグさんには裏方として力の限り働いてもらおう。 


『目的は一階層の掃討、および二階層での潰し作業だ。これだけの人数でいけば結構な数の魔物が出るはずだ。片っ端から潰して出てくる恩恵を調査するぞ!』

『おーっ!』


 気になる情報が次から次へと出てきて止まらない。疑問を解決しないまま仕事にあたるのは愚の骨頂。僕はゲロルグさんに問い掛けた。


「潰し作業ってなに? あと人数を揃えれば魔物がたくさん出るってどういうこと?」

「えー、ダンジョンに出る魔物は防衛機能のようなものゲロから、たくさんの人間が来たらそれだけ多くの魔物が出るようになっているゲロ。魔物の出現が止まるまで階層に居座って狩りを続けるのを潰し作業と呼んでる……はずゲロ」

「ふうん……大人数で行う定置網漁みたいなもの……かな?」


 魔物という極めて危険な狩猟対象がいる世界の常識を地球の文化に置き換えるのは困難を極めるが、要は探索者の間では広く普及している効率的な狩りの方法なのだろう。

 人足を用意し、条件を整え、長年の研究により確立された定石に従い成果を持ち帰る。知識の蓄積と共有は人類が高度な文明を築くにあたり最重要とも評していい要素だ。


 ならばその定石を崩そう。

 初めの三人に与えた地球産の恩恵は初回サービスみたいなものだ。ここから先は然るべき料金を払ってもらう。


「ハジメ様、どうするゲロ……? この人数を相手に魔物を呼び出し続けたらすぐに魔力が枯渇するゲロよ……」

「それならこっちも徴収するまでだよ。魔物の呼び出しは任せてもらっても?」

「頼むゲロ……!」


 なら遠慮なく。

 一階層に配置するのはレッサーリザードを十体だ。恩恵には安物を設定する。

 日用雑貨で喜ばれそうなものは……百均で買えるメモ用紙やボールペン、あとは歯ブラシや爪切りといったアメニティかな。単品110Pが四点。一階層はこれくらい安上がりの物でいいかもしれないな。


『うわっ! 結構いるよ……!』

『慌てんな。やつらは馬鹿だから連携が取れねぇ。武器の振りも単調だ。アホみてぇに一体ずつ突っ込んでくるから確実に処理しろ!』


 一階層へ降りてきた探索者たちがレッサーリザードを迎え撃つ。数十年も同じダンジョンで同じ相手と戦って来たからか、既にセオリーは固まっている様子。

 全くの初心者はいなかったのか、探索者たちはこれを軽く掃討。目新しい恩恵をまじまじと検分して驚きの声を上げている。


『マジで出たぜおい。まさかこのダンジョン"成長"するのか?』

『文献じゃこのダンジョンはしょっちゅう姿を変えてたらしいが……それも昔の話だろ?』

『だが三階層には何故かやたら強えヤツもいるし……もしかしたら、()()かもしれねぇぞ……!』


 ダンジョンはこの世界に数え切れないほど存在するという。

 規模も形態も様々なそれらは人にとって利となるか否かが全くもって不明であり、その実態を解明するには実際に潜入して調査するしかないとのこと。企業と同じだな。


 一見して華やかな外観のダンジョンが罠満載だったり、地味で目立たず、ともすれば見落としてしまいそうなダンジョンが極めて有益なこともあるという。企業と同じだな。


 そして中には突然の急成長を迎えたり、逆に唐突に旨味が消えて衰退するダンジョンもあるという。企業と同じだな。


 ここ、湖沼外れの小洞穴も衰退しきったダンジョンの烙印を押されていた。しかしそれも今日で終いだ。

 なんの因果か知らないが、魔王の取引相手として召喚されたうえに命を担保に取られたとあっては営業成果を出さねばなるまい。ノルマ未達が死を意味するなら死に物狂いになるまでだ。弊社と同じだな。


 タッチパネルを操作して二階層にレッサーリザードを十五体呼び出す。ダンジョン内の魔物には直接声を届けることも可能だ。加えて、恩恵以外の()を転送することも。

 レッサーリザードたちに軽く今後の指示をした後、子ども服や靴といった少々お高めの恩恵を五つ設定する。これでダンジョンの残り総魔力は二万程度まで目減りした。


「ほ、本当に大丈夫でゲロか……?」

「騙し討ちに近いからそう何度も使える手じゃないけど、見たところ相手もそこまで練度が高くなさそうだし勝算はあるよ。ゲロルグさんはマニュアル通りにしか動かないレッサーリザードを信頼してないみたいだけど……それは相手の人間だって同じことだからね?」


 人間である探索者たちも、行動パターンが読みやすいレッサーリザードに対してある種のマニュアル的対処を行なっている。僕はそのセオリーを崩すようレッサーリザードたちに指示を与えたのだ。


「おい、かなりの数がいるぞ!」

「だがまあ……相手は雑魚だ。さっきと同じように行くぞ」

 

 恩恵の検分を終えた探索者一同が部屋の奥の壁にある階段で二階層へと降りてきた。

 居並ぶレッサーリザードたちを見た探索者たちは僅かに気圧されたようだが、それも一瞬。すぐに黄土級のルーキーたちを先行させて様子見を始めた。


 その型にはまったやり方が命取りだ。


「なにっ!?」

「うわあっ!」


 僕がレッサーリザードたちに下した指示は至極単純だ。


 "先頭の一体は背に隠し持ったゴルフクラブをぶん投げろ。その後は全員で一斉に突撃してめちゃくちゃに武器を振り回せ"。


「なんだあれは!? 新手の武器か!?」

「お、おい馬鹿さがってくるな!」

「ルーキーどもは前に出ろ! 武器が振るえねぇだろ!」

「列を乱すなっ!」


 一体ずつ真っ直ぐ突っ込んできて得物を振り下ろしてくるだけの(くみ)しやすい相手。

 その認識を覆す、同士討ちも厭わない狂気の突撃がマニュアル偏重の探索者の戦列を突き崩す。

 レッサーリザードたちには洗練された技も理に適った力の流れもなかったが、異形の化け物がなりふり構わず突っ込んでくるという単純暴力の圧があった。

 

 恐れをなして逃げ出した黄土級(ルーキー)が狩られ、多対一を捌ききれなかった灰石級(ビギナー)が狩られ――多数の犠牲を出しながらも立て直した探索者たちにレッサーリザードが全員狩られ。


 しかし収益は大きくプラス。


「黄土級が十人。灰石級が三人。占めて十三人。入ってきた魔力は……192,361ポイント。上出来じゃないか」


 レッサーリザードたち計十五体の身体を張った献身により総魔力は約21万まで回復した。

 湖沼外れの小洞穴――運転資金約5万という惨状から、一応の脱却を果たした形となった。

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旧日本軍より優秀な特攻ですね。キルレ―トが高い。
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