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閃き輝く異世界無敵語り  作者: 横山剛衛門
「勝利の女神の塔」編
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2.そびえし魔境

「そうらよ--っと!」


 渾身の気合いを伴って振り下ろされたヴィエイラの魔斧・ブラックエックスが、キメラの頭をかち割った。

 魔人の恵まれた体躯が持つ膂力を存分に乗せた一撃は、勝利の女神の塔に出没する高レベルモンスターであってもたやすく屠ることができる。


「そこだ、行け!」


 崩れ落ちるキメラの体とすれちがうように高速で飛んでいったのは、アメリアの霊弓・シークレットヴィクトリアから放たれた風の矢だ。

 魔力というエネルギー体を練りこんで作り上げられたこの矢は、風の抵抗を受けず、質量を持つ通常の矢ではありえない弾速を可能とする。

 連続して放たれた矢に目を貫かれたもう一体のキメラは、あまりの痛みによってか思わず天を仰いで、盛大な叫び声を上げる。


「……ふっ!」


 その隙を逃さず、ホンダの大業物・点火丸がキメラの首を切り裂いた。ご丁寧にも、奥義・二重鋏を用いたようで、傷口が二重に生じている。いかに生命力の強いこの魔物でも、これでまず間違いなく絶命しただろう。


「よし、全部片付いたな。お疲れさん!」


 動かぬ死体を斧で突き回しながら、ヴィエイラが皆に声をかける。


「おい、お前! また何もしなかったな……どういうつもりだ!」


 そう、アメリアが言う通り、それぞれが活躍を見せる中で俺だけは全く動かなかった。もっと言えば、動くつもりすらなかった。


「必要なかっただろう。罠の発見と索敵はやってやるから、そっちは心配するな」


「そういう問題ではない! 貴様、やはりあの時の腕前はまぐれか……⁉︎」


 まだ食ってかかるアメリアをどう宥めるか考えていると、意外な助けが入る。


「構わぬ、それよりも早く先に行かんか」


 まさか、ホンダからフォローされるとは。ここまでの無表情の獣面からして、こいつも俺に悪感情を抱いているとばかり思っていたが、考え違いだったらしい。


「俺も構わないぜ! その分俺が倒してやるから、ガンガン行こうじゃないの」


 こんな危険な場所でも底抜けに明るい声は、ヴィエイラのものだ。俺を除いても、これで見解は二対一。アメリアは、依頼主とはいえ、今はパーティの一員でしかない。さすがに分が悪いと理解したようで、「ふん!」と吐き捨ててから迷宮の通路の奥へと歩き出した。


 「おいおい、前衛役は俺だぜ。あんたは後ろだって」


 慌ててヴィエイラが後を追い、アメリアの前に出る。俺とホンダは顔を見合わせて互いに肩をすくめ、そんな二人に続くのだった。


 ***


 アメリアの依頼で四人パーティを組んだ俺達は、迷宮と呼ばれる通りに入り組んだ構造の「勝利の女神の塔」を探索しつつ、上の階を目指して進んでいた。

 この手の迷宮攻略にはいくつかセオリーがあり、それを守ることがすなわち命を守ることになる。

 たとえば、先に進む時は俺のような感覚に優れた者が、仕掛けられた罠や敵の息遣いを察知する警戒役にあたる。

 まあ実際のところ、俺のテクニックを用いれば、目を閉じていようが耳を塞いでいようが、危険を見逃すことはない。ただ、それだとパーティメンバーが不安に思うので、普通にやっているふりをする必要に迫られるわけだ。

 それから、いざ戦闘となれば、防御力と体力に優れた者が先頭に立ち、敵の攻撃を引きつける壁の役割を負う。

 その点、ヴィエイラは非常に優れた壁役であり、しかも十二分に攻撃もこなせるという、噂に違わぬ実力者だった。

 攻撃といえば、ホンダは身のこなしこそゆったりとして見えるものの、的確なタイミングで攻撃を繰り出し、相手にトドメを刺す。

 アメリアもさすがの弓の腕前で、二人を見事に援護している。本国の騎士団所属なだけあって、壁役もこなせるそうだ。

 この塔に入ってすでに三日が過ぎようとしているが、これまで危ない場面などまるでなく、俺達は順調な道のりを進んでいた。

 そして今、俺達は三度目の野営に入るところだった。


「どうよ、この斧は! 故国の迷宮で手に入れたんだぜ。ありゃあ大変だったなぁ~」


 ヴィエイラの自慢話がまた始まった。この話を聞くのは三回目。つまりこいつは、野営の度にこの話をしている。


「その剣もなかなかの業物だな! そんな細いのによく折れないもんだ。どこで手に入れた?」


 いつもなら延々自分の話を続けていたヴィエイラだが、今日は珍しく、他人の得物に興味を示した。

 話を振られたホンダは、正座した右足の横に置いた大太刀にそっと触れながら、呟くように答える。


「……これなるは我が一族に代々伝わりし家宝でな、銘は名工ミズノオオサカノカミ。幾代も前の先祖が、当時の主君より直々に誂えを聞き入れられ、戦の褒美として賜ったと聞く」


 確かになかなかの年代物で、文字通りの伝家の宝刀のようだ。こうした刀の類は、古いほどに優れた切れ味と靭性を持つという。今では失われた太古の技術の結晶なので、なかなか再現できないのだそうだ。


「私の弓は、王国で最も優れた者を持ち主とする武具よ。ありがたく目に焼き付けておくがいいわ」


 誰も聞いていないのに、勝手に説明を始めたアメリア。

 わざとか知らないが、説明が一つ抜けている。俺の聞いた話じゃ、最も優れた「女戦士に」与えられるものだったはずだ。わざわざ混ぜっ返すのもなんなので、黙っておくが。

 しかし、この流れだと俺の得物の話になるな。それはちょっと困るぞ。とりあえず、俺は素知らぬ顔で、アメリアの自慢話に耳を傾けた。


 俺は皆に、焚き火で焼き上げたキメラの足(羊の肉と酷似した味だ)と、飲み水を配る。なぜだか知らないが、水を運ぶのは案内人の仕事というのが伝統なのだ。

 ちなみに、ただの水では味気ないので、俺特製のブレンドで果実の汁を加えてある。疲労回復にはもってこいだろう。


「くああ、生き返るぜ。毎度のことながらたまんねえな。この水のレシピを教えてくれよ、病みつきになっちまった」


 ヴィエイラの頼みを首を振って断り、俺もぐびりとひと口飲む。確かにたまらん。我ながらいい出来だ。


「我々は今ちょうどこの塔の半分、三階層まで来た。残る三階層、各々気を引き締めるようにな。ここからは現れる魔物の格が違うだろうし、もしかすると血迷った冒険者に襲われるかもしれん」


 アメリアが言うように、探索は折り返し地点まで来た。この野営地の目の前にある階段を上れば、明日から四階層となる。

 この話になって、ホンダの目がやや鋭くなった気がする。

 というのも、事前に集めた情報では、次の階から先にいよいよ、ホンダが狙う槍が置かれているからだ。

 迷宮にある宝の所有権は基本、早い者勝ち。先行しているパーティがいるのか不明だが、もし先に見つけられてしまえば、ホンダは困ったことになる。

 運がよければ交渉で手に入るかもしれないにせよ、自分の手で得られるならばそれが最上だ。


「心配すんなって、ホンダ。ここまで俺達より先に誰かが来た痕跡はなかったんだから、きっと大丈夫さ」


 ヴィエイラの陽気なフォローに、ホンダも頷いて応える。


「ところで、ツバサのその剣はなんなのだ? あの時一度抜いたのを見た限り、このレベルの迷宮では到底役に立つとは思えん代物だが……」


 やっぱりきたか……

 まあ、アメリアの心配ももっともだ。実際、俺の剣はいつだかの依頼をこなした時にたまたま手に入れたから使っているだけの、そこらにいくらでもある安物にすぎない。


「その見立て通りだよ。だからあまり抜かせないでくれ、ってことで頼む」


 適当にそう答えておく。もちろん、あえてこんなものを使う理由はある。というか、これでなくてもいいのだが、どちらかというとこんなもの以外を使わないほうがいいのだ。

 納得がいかず不満そうな顔のアメリアに、俺は左手を開いてみせる。


「代わりに、俺にはこれがある。この五本の指に嵌めている指環全てがアーティファクトだ。これのおかげで五色の魔術全てを使えるから、それで納得してくれ」


 こう言うと、今度はおそらく別の意味で、アメリアの顔は不快げになった。


「五色全ての魔術だと? ありえるか、そんな話! これまでに存在したどの伝説級冒険者でも、三つまでがいいところだ。仮に本当に使えたとして、我々のレベルの戦いにふさわしい威力のわけがない!」


 そう言い放ったアメリアだけでなく、ヴィエイラとホンダも同意のようで、やや空気が白けてしまった。


「じゃ、見せてやる。ちょうどいい実験台が来たようだしな」


 俺の言葉の意味を瞬時に理解した三人は、即座に戦闘態勢に入る。その辺はさすがだな。

 だが俺はそれよりも早く、左手を通路の奥の暗闇に向け、指環に刻まれた魔法言語を介して五つの魔術を同時に放った。


「「「!」」」


 息を呑む三人の横を、赤い稲妻、緑に苔むした岩石、白く輝く光線、青き水弾、それから黒で染められた影が駆け抜け、急襲してきたヒドラの頭の一つひとつを消滅させる。

 本来、攻撃は赤の魔術の範疇であり、各色の魔術が得意とする分野は異なるのだが……それを披露する機会は、いずれまたやってくるだろう。


「……! 確かに五色、しかも無詠唱で今の威力とは」


 お、珍しく、ホンダの驚きが表情で分かる。ヴィエイラはひゅーっ、と口笛を吹き、アメリアは言葉を失っているようだ。

 俺の言葉への疑いが晴れたところで、続いてこの指環への質問がやまなくなってしまったのだが、それは冒険者として企業秘密だからとはぐらかしておく。こう言ってしまえば、おいそれとは深入りできない魔法の言葉だ。本当に便利で助かる。

 そんな風にして、三回目の野営の時間はすぎていくのだった。


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