第5話:拒否権は、ありません
「さて、さっきの続きだけど……18546番の件、ちゃんと話しておくわ」
男は女神の真剣さを察し、持っていた箸を置いた。
「まずは、転生について話すわ。転生に該当する魂は、大きく二つに区分されるの。一つ目はあんたのように、他者のために命を投げ出した場合よ。そしてもう一つは、目も当てられないほど、惨めな死に方をした場合よ」
「そんなに振れ幅が大きくて、大丈夫なんですか」
「まぁ、ルールだからね。それにベクトルの向きが違うだけで、大きさは一緒だからいいらしいのよ」
――男は、女神も大変だなと内心同情した。
「じゃあ、ここからは転生先の仕組みについてよ」
――女神はどこからか取り出した眼鏡を掛けた。
「転生先なんだけど、望みが多いほどスタートがハードになるわ。まぁ、等価交換ってやつね」
「等価交換……」
「顔良し、親良し、チート能力全部盛り――そんなに多くを望んでしまったら、最初は記憶すらほぼ無い状態でスタートよ。逆にあんたみたいに何も望まなければ、かなり楽に過ごせたはずよ」
「……その割には、僕は汚部屋スタートだったのですが」
「あれは、転生すら拒否したあんたが悪いのよ。私に選ばれたのだから、感謝しなさい」
「二択で脅された気が……まぁ、豚よりはましか。そもそも18546番は人間スタートでもなかったんですよね?」
「『アレ』はあまりにも望みすぎたのよ。顔も、力も、女も、地位も――全部欲しがった結果、記憶もおぼろげな、ただの豚からのスタートになった。ちゃんと説明はしたのよ? でも、あいつは適当に聞き流してた。やれ、親は政治家だの、俺は金持ちだの、俺TUEEEEEってずっと騒いでいたのよ」
女神は溜息をついた。
――男は社畜時代を思い出し、女神にもう少し優しくしようと考えを改めた。
「転生先とは、それぞれの転生者を主人公にした、ゲームの世界みたいなものなの。主人公として役目を果たせなかった魂は、その世界のNPCになり、次の転生者のための舞台装置として使われるのよ」
「NPCに、なる……」
「主人公が願いを叶えれば、NPCも輪廻の輪に戻れる。本来なら、ただそれだけの仕組みよ」
女神の声が、少しだけ低くなった。
「でも、たまにあるの。クリアを諦めて、ひたすら世界を害する存在になることが」
「なるほど。討伐とはいうが……」
「殺すわけじゃないわ。暴走した魂を、輪廻の輪に戻す手助けをすること。それが『討伐』の正体よ」
女神は男の目をまっすぐ見た。
「気は進まないでしょうけど、放っておけば、あいつはこの先ずっと、あの世界の人たちを傷つけ続ける。それだけは、止めてあげてほしいの」
「……ちなみに、もし僕が失敗したらどうなるんですか」
そう問うと、女神は一瞬だけ寂しそうな顔をして、それでも静かに答えた。
「あんたもNPCとして、世界に囚われるわ。それも『女神の奴隷』の代償よ」
「じゃ、やるしかないですね」
――男は腹を括った。その姿は、まるで大型案件を押し付けられた社畜のようであった。
「そうよ。千里の道も一歩から。まぁ、あんたの場合は豚を探して三千里って感じかしら」
「すいません。いい感じに締めようとしたので、少し静かにしてくれませんか」
「じゃあ、次は『アレ』の現状でも確認しましょうか」




