第43話:とけない、約束です
鳳凰の説明を聞き終え、何かの相談をしていた雪華たちが近づいてきた。
「ご主人様!鳳凰様から、お話は全てお聞きしましたわん!どうか、私と紅葉、そして黄実にお力添えをよろしくお願いしますわん」
「分かりました。それでは、始めますね」
鳳凰は、ユキから預かっていた『出入の魔鏡』を取り出した。
「どれ、『出入の魔鏡』は、私が押さえておこう」
ユキは、『金の首輪の形をした神器』と、『傲慢な主人の腕輪』、そして、『出入の魔鏡』から放たれる光に向けて、スキルを行使する。
【女神の奴隷:資産流動化:効果:モノを別のモノに変換する:メモ:金の看板は不要】+【女神の奴隷・白:切なる願い:効果:自分の都合で残す者に、最も適したモノを託す:メモ:引継ぎを丁寧にできるのは、今がとても大切だからよ】
それらは光の粒子となり、ユキの手のひらの上に集まり、新たな形を成していく。
やがて現れたのは、中心に青、赤、黄色の石が並んだ3つのネックレスだった。
発動したスキルが使うつもりだった【適材適所】ではないことに違和感を覚えつつ、ユキはそのネックレスを確認する。
【女神の奴隷:検収検査:効果:対象物の効果を理解する:メモ:検査は丁寧に、適切に】
視界に、情報が浮かぶ。
【名称:約束のネックレス:効果:仲間の能力を全員で共有する。※着用者は『テイム』保有者と同等になる。また、魔王討伐時に効果を失う。】
「……腕輪の、生命力を奪う効果は、きちんと消えていますね」
テンカピと鳳凰はネックレスを眺め、楽しそうに笑った。
「ほほ、これはまた奴隷様らしいのぅ」
「そうですね、天竺鼠様。これなら、後は私と氷狼、雷猿が修行をつければ万事解決でしょう」
ネックレスを期待した目で見つめる雪華たち。
ユキが簡単に効果を説明してから手渡そうとすると、彼女たちは不満げな顔をした。それを見たテンカピが、にやりと口の端を上げる。
「お主につけてほしいんじゃろ。ほれ、男気を見せる出番じゃぞ」
「……恥ずかしいんですが、3人とも嫌だったら言ってくださいね」
断ってくれることを期待したユキに対して、全員首を振った。気恥ずかしさを隠しながら、ユキは紅葉、黄実にネックレスを付け、最後に雪華の首に付ける。
首から手を放そうとするユキの腕を、雪華は優しく掴んだ。
そして悪戯っぽく微笑み、その腕にどこからか取り出した美しい羽を巻き付け、スキルを行使した。
【氷狼の加護+紅黄・魔獣:溶けない願い】
そして、羽が青白く輝き、光が収まると――羽は白銀の腕輪に変わっていた。ネックレス同様に中心には青、赤、黄色の石が嵌っており、その周りにはスラ吉やゴリさんたちをデフォルメした刻印が刻まれていた。
「実は、鳳凰様から聞いていたんです。ご主人様なら、多分こういうものを作るだろうと。だから、説明を聞いた後、もし本当にそうなったら、何かをお返ししたいと相談していたら、鳳凰様が羽をくれたんです。……もし嫌でなければ、その腕輪を私たちだと思って、連れて帰ってほしい……わん」
ユキは腕輪を大事そうに優しく撫でた。
「……ありがとうございます、凄く嬉しいです」
ユキは涙を我慢して、頭を下げた。そして泣きそうな顔を見られないように、皆を撫でまわしていると、その体が光りだす。
「そろそろお別れのようじゃのう。ほれお主たちも離れんか。あぁ、安心せい奴隷様。その腕輪は、鳳凰の羽をベースにしているから、神界に持ち帰れるぞ」
ユキは、その言葉にほっと息をつき、皆を撫でる手を止めた。
嬉しそうに撫でられていた皆は、名残惜しそうにユキから離れる。
「皆さん、短い間でしたが本当にありがとうございました。雪華さん、必ずお姉さんを助けてあげてくださいね。紅葉さん、黄実さん。雪華さんのサポートをよろしくお願いします」
「もちろんわん!このネックレスにかけて、姉も世界も救って見せますわん!」
「今度は、自分の意思で雪華を助けるぴよ!」
「救っていただいた感謝は、決して忘れませんうき!」
「スラ吉さん、ゴリさん、カラヤマさん、クラさん、ヘビンヌさん、ヒョウタさん、ゴブサワさん、カスオのせいで辛い思いをしたのに、紅葉さんと黄実さんの謝罪を受け入れてくれてありがとうございます。そして、雪華さんのお姉さんの救出まで手伝ってくれるなんて……」
「同じカスに捨てられて、奴隷様に救われた同志だから当然スラ!」
「それに俺たちは、『テイム』されていた影響で彼女たちの気持ちもはっきりわかるゴリ!」
「だから、こっちは私たちに任せて安心して帰っていいのよクラ」
「でも、忘れたら夢に出るわよヘビ」
皆、涙を流しながら笑顔でユキを見送る。
「皆さんのこと、絶対に忘れませんよ。あ、あと着ている服は、僕とともに消えてしまいますので……」
「そ……そんなスラ……せっかくの奴隷様との繋がりが……」
ユキは、かつて託したシャツが『エクスカリバー教』の信仰の象徴になった、『豚足』での出来事を思い出した――そんなユキの胸の内を知ってか知らずか、テンカピはあくび混じりの提案をする。
「それなら、奴隷様のシャツを置いていくのはどうかのぅ?」
「ちょっと、テンカピさん!?さすがに、ずっと着ていた服を残していくのはないですよ……」
「なんじゃ、半裸で帰るのが嫌なら、服くらいわしが作ってやるぞ」
「半裸も嫌ですが、そういう問題じゃありませんよ……渡す側ももらう側もいい気分はしませんよ」
同意を求めるようにスラ吉たちを見ると、彼らは何かを期待するようにこちらを見つめていた。
「ほほ、目は口ほどにものをいうものじゃよ。ほれ、新しいシャツじゃ。せっかくだから、2人分、セツナ様とペアルックのデザインじゃよ」
テンカピは、口で前足の毛を数本抜き、宙に吹いた。すると、毛は光に包まれ、2枚のシャツに形を変えた。
ユキは、シャツを受け取ると、なんとなく不安になり、デザインを確認した。
シャツの背面には、大木とそのほとりの湖に浮かぶ複数の蓮の葉が広がり、その上で寝転がるカピバラと、デフォルメされた雪華やスラ吉たちが描かれていた。優しい絵だなと思い、表面を見ると、今着ているデザインと同じように、四つん這いの男の背中に片足を乗せ、旗を掲げる2人の女神と、優雅に羽をはためかせる鳳凰が描かれていた。
ユキは諦めたように、自分の着ている服を脱いで、新しいシャツを着た。そして、スラ吉たちの前に脱いだ服を差し出した。
「……嫌なら全然断ってくれていいのですが、――」
スラ吉たちが感激していると、光の速さで雪華が服を受け取り、宝物を扱うような手つきで丁寧に畳んだ。スラ吉は、ぷるぷる震えながら雪華の頭に飛び乗った。
そこに、冷気とともに氷狼が現れた。
「奴隷様、もう帰ってしまうんですね!?鳳凰から連絡を受け、飛んでまいりました」
「氷狼さん、わざわざ来てくださりありがとうございます!」
氷狼は、ユキの服を宝物のように扱う雪華を見て、そっと目を逸らした。そして、名残惜しそうにユキの顔を舐めた。
「鳳凰さん、氷狼さん。重ね重ねになりますが、後のことはよろしくお願いいたします」
「我らに任せてくれ。みっちりと鍛え直してみせよう」
そしてユキが消えそうになる瞬間、テンカピは何気なく呟いた。
「ほほ、別れとは寂しいものじゃのぅ。あ、これは独り言じゃが……神や女神は無理だが、魔王が倒された世界なら、主人公と見做されないから、中途半端な奴隷様なら時々は遊びに来れるようになるんじゃよ」
鳳凰と氷狼は、それは言ってもよいのか、と言いたげな顔をテンカピに向けた。
「まぁ、独り言だからのぅ。じゃあの、奴隷様。また会うことを楽しみにしておるでのぅ」
テンカピの発言に、ユキは呆気にとられた。けれど、その口元は、涙が落ちるより先に、ふっと緩んでいた。光に包まれたユキの姿は、静かに消えていった。
そして、残された面々は、かつてないほどの大声で叫び、打倒魔王を目指すのであった。




