第41話:謝罪は、届きます
雪華たちを見つめるユキの隣に、テンカピが歩み寄る。
「気持ちが顔に出てるのぅ、奴隷様?」
「……彼女たちが、スラ吉さんたちと和解できるか心配だったんですが……取り越し苦労でした」
「ほほ、立場は違えど、同じ境遇で同じ人に救われたんじゃ。仲間意識も芽生えるじゃろ」
ユキの前に、鳳凰が一歩進み出て、深々と頭を下げる。
「奴隷様、この度は私の解放、そして、我が眷属を救っていただき、心から感謝申し上げます」
「鳳凰さん、顔を上げてください。感謝するなら、僕の主人とアルテミス様にです。2人の意思が無ければ、僕はここに来ることも出来ませんでしたし……」
「それでも、我が眷属が心を入れ替えるきっかけをくださったのは、あなたです」
ユキはどこか居心地悪そうに視線を泳がせ、指先で頬を掻いた。
「どうやら、奴隷様は褒められ慣れていないようじゃのう」
「テンカピさん、からかわないでくださいよ……裏表の無い感謝の言葉に触れる機会があまりなかったんです」
「……お主、大丈夫かのう?何なら良い薬を用意するぞ。そうじゃ、鳳凰の羽は心も温めるらしいから、今から毟るかのう?」
テンカピは目を細め、鳳凰へじりじりと近づく。鳳凰は絶望の表情を浮かべた。
「……大丈夫なので、鳳凰さんににじり寄るのは、やめてあげてください」
ユキの言葉で、鳳凰に近づくのをやめるテンカピ。鳳凰は、まるで死地を乗り越えたかのような顔をした。
「あ、鳳凰さんと言えば、僕の主人が『鳳凰毛の毛布』を注文しているので、そちらもよろしくお願いします」
「おぉ、それくらい任せろ。全身の毛を毟られる危機を救ってもらったのだ。最速で仕上げよう」
「いいのかのう?今なら、鳳凰の全身の毛が手に入るのに」
「大丈夫です……テンカピさん、先ほどから、ニヤニヤが隠せてませんよ」
「ほほ、バレていたか」
鳳凰は震え、その隣でテンカピがニヤニヤと笑っている。そこに、スラ吉たちと話を終えた雪華が、紅葉たちを伴って合流した。
「ご主人様!スラ吉さんたちも、姉の救出を手助けしてくれることになりましたわん!同じカスオ被害者として、そして、なにより同じ主人を持つ者として、最後まで付き合ってくれると!」
後ろでは、サムズアップするゴリさんや跳ねるスラ吉たちがいた。
「あ、あとこの2人が伝えたいことがあるそうですわん」
紅葉と黄実は、並んで立ち、勢いよく頭を下げた。
「助けてくださり、本当にありがとうございましたぴよ!」
「助けてくださり、本当にありがとうございましたうき!」
「そして、ボロボロの中年と言って、ごめんなさい!」
その後ろで満足げに頷く雪華。ユキは困ったように笑った。
「僕はそこまで気にしてませんよ。それよりも、2人とも、皆にちゃんと謝れて偉かったですね。今日の気持ちを忘れずに、雪華さんのお姉さんのこともお願いしますね」
その言葉に、紅葉と黄実は目を丸くして固まった。やがて、紅葉の目尻にじわりと涙が滲み、黄実は慌ててそっぽを向いて鼻をすすった。
「……ブラックはそんな言葉掛けてくれなかったぴよ。謝るのはかっこ悪い事と言って、怒られたぴよ」
「本当に、私たちは色々間違えてたうきね……」
――ユキは、あまりにもひどいブラックの発言に絶句した。
「……2人とも、ブラックは、女神様たちがカスオと呼ぶほどカスだったのです。カスの教えは忘れて、しっかりと自分で判断してくださいね」
「……頑張るぴよ」
「……また間違えないか不安うき」
「大丈夫ですよ。2人とも、1人ではありません。雪華さんやスラ吉さんたちもいるんですから、悩んだときは皆で相談しながら、前に進んでくださいね」
「ありがとうございますぴよ!」
「頑張りますうき!」
カスオから本当の意味で解放された2人は感情のまま、ユキに飛び付こうとして――
【氷狼の加護:氷壁】
氷の壁と熱い抱擁をした。
「い……痛いぴよ!」
「こ……これは雪華の氷うき!」
2人が雪華を振り返ると、笑顔の雪華が佇んでいた。
「私のご主人様に、気軽に触れようとしないでください」
ユキは、目の前の氷に触れながら、氷って冷たくて気持ちいいなぁと思考を放棄した。
「命の恩人なんだし、少しくらい許してぴよ!」
「私のご主人様に、カスオの匂いがつくわん。それは本当に勘弁してください」
「安心するうき!よく分からないけど、カスオは、ラッキースケベ的なのが良いんだよとか言って、私たちを侍らしていたけど、何も無かったうき!」
「そうぴよ!今考えると、本当によかったぴよ!……ラッキースケベって結局なんだったぴよ?」
「まぁよかったうき!」
そんな彼女たちを横目で見ながら、テンカピはユキに視線を投げた。
「それで、カスオのスキルから生じた『神器』はどうするつもりかのぅ」
ユキは、カスオが消えた跡に残る、『金の首輪の形をした神器』と、『傲慢な主人の腕輪』を見つめる。
「テンカピさん、転生者不在の現状で、雪華さんたちが姉を救い、魔王を倒すことは可能なのでしょうか?」
「『狼人娘』と残りの2人、それにスラ吉たちが協力しても無理じゃのう。この世界では、『テイム』に類似する力が必須だからのぅ」
雪華は唇をきゅっと結び、胸の前で組んだ手を震わせた。鳳凰も残念そうに首を振る。
ユキは、雪華の震える手を見てから、静かに息を吸った。
「そうですか……では、カスオの『金の首輪の形をした神器』と、『傲慢な主人の腕輪』、そして、『出入の魔鏡』に封じてある鳳凰さんの力を合わせればどうでしょう?」
テンカピは小さく目を見開いたあと、愉快そうに口の端を上げた。
「……それなら勝算はあるが……あぁ、なるほど、そういうことかのぅ」
説明を求めるように、ユキを見つめる鳳凰。
「僕のスキルで、これらの力を分配することができるんです。なので、彼らに託すのはどうかなと思いまして……」
ユキは、スキルの情報を口に出す。
【女神の奴隷:資産流動化:効果:モノを別のモノに変換する:メモ:金の看板は不要】+【女神の奴隷:適材適所:効果:適したモノに適したモノを分配する:メモ:誰にでも、向き不向きがある】




