↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
41/47

第39話:ブラックは、お断りです

 油断すれば命取りになる――

 ドヤ顔でこちらを見ているブラックに対して、そう判断したユキは、出し惜しみなくスキルを重ねがけした。


「……本気でいきますよ」


【女神の奴隷:深夜テンション】


【女神の奴隷:鋼のメンタル:効果:心も身体も、その世界で最も硬い物と同等の硬度となる:メモ:鋼の精神を持っていると、決して最後まで倒れないのよね】


 ユキの全身がうっすらと黒くなる。

 その姿を見たブラックは、


「何だ、その姿は?冥土の土産に一発喰らってやろう。……それにしても、見た目だけは一丁前に麦わら帽子を被った海賊の武装しょ――」


【女神の奴隷:行動速度2倍】


 最後まで言わさずに、ユキの拳がブラックの腹に叩き込まれた。

 衝撃で吹き飛んだブラックは、地面を転がりながら土煙を巻き上げる。


「ゲホッ……くっ……息、が……」


 本気と慢心。

 2人の明暗を分けたのは、ひとえに気の持ちようだった。

 砂埃の中、ヨロヨロと立ち上がったブラックは、大声で叫んだ。


「この俺を吹き飛ばすだと!?貴様……どんな卑怯な手を使ったんだ!」

「いや、なにも……漫画みたいなことをするからですよ」

「ちっ……あくまでしらを切る気か。そっちがそのつもりなら、これを卑怯とは言ってくれるなよ」


 ブラックは、懐から銀色のやけにトゲトゲしたブレスレットを取り出し、右腕に嵌めた。

 その瞬間、雪華が叫ぶ。


「え、何が起きてるの!?あなた達、どうしたの!?」


 雪華の叫びを聞いて、慌てて駆け寄るユキ。


「どうしました、雪華さん!?」

「ご主人様!……見てください、2人が急に……」


 彼女が震えながら、氷牢に捕らえられた2人を指差す。


「あ……あれ……力が……抜けてく……ぴ……よ」

「う……うそ……ブラッ……ク様、どうして……うき……」


 地面に倒れ込んだ2人の髪から、みるみる色が抜けていく。艶のあった肌は乾いて深い皺が刻まれ、伸ばした指先は枯れ枝のように細くなった。


 その一方で――

 ブラックの身体が、軋むような音を立てて膨れ上がっていく。腕輪を嵌めた右腕を中心に筋肉が脈打ち、首筋には太い血管が浮き上がる。自分に足りないものを他人の命で埋めるかのように。

 背後から足音が響く。振り向くと、恍惚の笑みを浮かべたブラックが、ゆったりと歩いてくるところだった。


 倒れ込んだ二人には、一瞥もくれずに――


【女神の奴隷:検収検査】


 魔道具の情報が、視界に浮かぶ。


【名称:傲慢な主人の腕輪:効果:テイムしている味方の生命力を奪い、自身の能力を向上させる】


「あなた、正気ですか!?慕ってくれていた2人から、生命力を奪うなんて……」

「何を言っているんだ?主人のためなんだ、彼女達も喜んでいるだろう。あぁ、力が湧いてくる!さぁ、2回戦を始めよう!!」

「雪華さん、2人を連れて離れていてください!」


 迫りくるブラックから皆を庇うように、前に出るユキ。

 その声に、即座に氷牢を解き、年老いた2人を抱えて飛び退く雪華。


「これで終わりにしよう。名も無き中年よ!」


 次の瞬間、ブラックの足元が爆ぜ、砕けた土塊が礫のように四方へ飛び散る。舞い上がった砂煙の中から、膨れ上がった影が弾丸のような勢いで迫ってきた。


「ははは!さすがは腐っても『神獣』の眷属だ!これだけの力を俺に与えてくれるとは!」


 そして、ユキに渾身の一撃を加える。

 地面が抉れ、周囲に響き渡る爆音、そして、巻き上がる砂煙。

 固唾を呑んで見守る雪華達。

 砂煙が晴れた先には、1人佇むユキと、血を吐いて倒れ込むブラックの姿があった。


「グホッ……き、貴様……一体、何を……なぜ、無事なんだ……」

「……慕ってくれる人たちを犠牲にする方には、少々ズルをしたまでです」


 ブラックが殴りかかった瞬間、ユキは念のため2つのスキルを発動していた。


【女神の奴隷:鋼のメンタル】+【女神の奴隷:退職代行:効果:ダメージを、別の対象に移す※対象1人に対し、一度だけ使用可能:メモ:退職するなら、可能な限り事前に相談を……】


 渾身の一撃は、すべて拳の主へ跳ね返されていた。


「人様の関係に口出しするのは苦手なのですが、そこまでして力が欲しかったのですか?」


 その問いにブラックは、血を吐きながら叫んだ。


「ふ……ふざけるな!主人公は勝てば許されるんだ!!俺が良ければ、他なんてどうでもいいんだ!」


 その言葉を聞いて、ユキは、雪華達の方にブラックを引きずっていく。

 そして、彼を慕っていた2人の前で、再度問う。


「彼女達の前で、同じことが言えますか?」


 ブラックは、蹲っている2人を一瞥し、怒鳴り散らした。


「お前たち!主人のピンチなんだぞ!狼人娘1人に負けやがって、この役立たずが!!早く『神獣』でもなんでも使って、俺を助けろ!!」


 紅葉も黄実も何も答えない。

 顔をあげたその表情には、絶望と失望の色だけが浮かんでいた。


「うわっ、何だその姿は!?おい、中年!俺の仲間になんてことをしてくれたんだ!」


 その見苦しい姿に、ユキは底冷えするような深い溜息を吐いた。


「……本当に、どこまでも自分のことだけなんですね。そこにいる彼女達は、あなたの『魔道具』のせいでそうなったんですよ」

「ハッ、俺はこんなことになるなんて知らなかったんだ!つまり、俺を追い詰めて『魔道具』を使わせたお前が悪いんだ!」

「……分かりました。もう結構です。これ以上、あなたと話をするのは無駄ですね」


【女神の奴隷:ハラスメントフェスティバル】


 不可視の鎖が、ブラックを地面に縛り付けた。戦いが終わったことを察し、テンカピと魔獣たちはユキの元に集まる。

 しかし、ブラックの犠牲となった2人の姿に、彼らもユキの勝利を素直に喜べなかった。


 頭上を、大きな影が横切った。戦いを見守っていた鳳凰が、静かに地面へ降り立つ。そして、何も言わず年老いた紅葉をじっと見つめた。紅葉は、その視線から逃れるように、深く顔を伏せる。

 ユキは鳳凰に小さく頷いてから、魔獣たちへ向き直った。


「皆さん、申し訳ないのですが、少しカスオを見張っていていただいても大丈夫でしょうか?」

「……喜んでスラ。でも奴隷様……」

「……やるせないクラ……」


 スラ吉やクラさんたちは沈んだ顔をして俯いていた。それを見てユキは、彼らにだけ聞こえるように小声で呟いた。


「何とかするので、そんな顔はしないでください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。