↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/47

第36話:孤独では、ありません

 上空に浮かぶ厚い雲が、彼らの足元に暗い影を落とした。

 雪華はぐっと奥歯を噛みしめ、誰にも言えずに胸の奥へ隠していた痛みを、震える声とともに吐露した。


「……もし、その戦いに協力すれば、力を求め、闇に支配された私の姉を救えると聞いています……わん」


 テンカピは満足したように小さく頷くと、フサフサとした前足で鏡と鳳凰の絵を地面に描いた。


「よく答えたぞ。テイムの話に戻るがのぅ、本来、闇などの大きな力を吸収するための鏡の魔道具をカスオは手に入れ、あろうことか、鳳凰の力を削ぐことに使っているのじゃ」


 絵には、続きがあった。

 鳳凰の上には、3体の棒人間が乗り――その隣には、割れた鏡が倒れていた。


「鏡が割れて!?……このままだと、鳳凰様も私の姉も救えなくなるということですか!?」


 雪華は、地面に描かれた絵の意味を理解し、青ざめた顔で目を見開いた。


「だからこそ、アルテミス様は『女神の奴隷様』を遣わしたのじゃろう。このままでは、この世界の流れすら変わってしまうからのぅ」


――初めて聞く事実に内心驚きながらも、ユキは、ポーカーフェイスを貫いた。


「その通りです。2柱の女神様は、鳳凰の救出と、その魔道具を雪華さんに託すことを僕に命じたのです」

「ちなみにじゃが、魔道具の起動には『テイム』のスキルが必要になるぞ」

「……カスオを討伐し、『神器』も回収する必要があるのですね」


 『神器』という言葉に、不安げな表情をする雪華を安心させるように、ユキは優しく微笑んだ。


「雪華さん、不安そうな顔をしないでください。女神様のお導きに従い、その魔道具と『テイム』スキルについては、僕に任せてください」

「あ……ありがとうございます、奴隷様!どうか、姉のためにも鳳凰様の救出とカスオの討伐をお願いしますわん!」

「ええ、全力を尽くします」


 いつの間にか、日の光を遮っていた雲は切れ、木々の隙間からふわりと温かい光が差し込んでいた。


「ほほ、やる気は十分のようじゃな。ほれ、奴隷様、休憩は終わりじゃ、早ぅ乗らんか」


 テンカピは、前足をぐっと前に伸ばして、大きな背中を反らす。


「では、失礼します」


 再び目的地を目指す一行。


――

「おお、見えてきたぞ。あそこじゃ、あそこ」


 テンカピは足を止め、目の前の廃村を前足で指し示した。


「テンカピさん、ありがとうございます。ここまで大丈夫ですよ」

「なんじゃ、皆で突撃とかはしないのかのぅ?」

「突撃はしませんよ……皆さんが怪我したら大変ですし、力を向けるべき相手を間違えてほしくないので……」

「そういえば、狼人娘を袋叩きにしたあやつらにも、似たようなことを言ってたのぅ」


 テンカピは面白がるように丸い耳をピクピクと動かし、後ろにいるスラ吉たちを一瞥した。


「そのことは、忘れてほしいわん……」


 雪華は気まずそうに尻尾をキュッと丸めた。


「ちょっと説教臭かったですよね……ただ、皆急に強くなったから、その力に酔わないでほしかったんです」


 ユキは、現場の大変さをよく知る同期が出世した瞬間に、無茶を言うようになったことを思い出していた。


「お主は本当に真面目じゃのう。力を振るうのは、強者の特権じゃろうに」

「それも理解はしてますが……その特権で周りを傷付けるのではなく、大切なものを守ってほしいなんて……僕のエゴなんですけどね」

「難しいのぅ。まぁ彼等には苦楽を共にした大切な仲間も、信仰する主人もいるから大丈夫じゃろう」

「私は何となくわかりますわん!強者は、自分の力に責任をもたなければいけないということですね!」

「その通りですね。さすが、雪華さん、優秀ですね」

「ふふふ、ありがとうございますわん!」


 それを見ていたスラ吉が、ユキの頭に飛び乗る。


「奴隷様、僕らも頑張ってついてきたから褒めてほしいスラ!」

「そうですね。皆さん、ここまで一緒に来てくれてありがとうございます。おかげで魔物や動物にも襲われずにすみました」

「お役に立てて、嬉しいゴリ!」


 ゴリさんは、嬉しさのあまり、胸を張って叩こうとした。


「あ、ゴリさん!ドラミングは駄目ですよ。バレてしまいますので」

「我慢するゴリ……」

「カスオを倒したら、思う存分できるので、もう少しだけ我慢していてくださいね」

「ゴリ!」


 魔獣たちは、一列に並び主人の無事を願うように静かに一礼した。

 ユキも急いでお辞儀をした。


「それでは、テンカピさん。まずは潜入して、鳳凰さんの解放をして来ようと思います」

「ふむ、おそらく鳳凰を解放した時点で、気付かれると思うから、覚悟していくのじゃよ。それと、『狼人娘』も連れて行くといい。『神獣』の気配を感じ取れるじゃろうから」


 雪華はピンと耳を立て、頼もしく自分の胸を叩いた。


「はい!もう少し近付けば、鳳凰様の気配が辿れるので、案内は任せてほしいわん!」

「それは頼もしいですね。では、雪華さん、よろしくお願いします。後、テンカピさんにお願いがあるのですが……」

「分かっておるぞ。鳳凰解放後のカスオとの戦いに、こやつらを連れていけばいいのじゃろ」

「よく分かりましたね。申し訳ないのですが、正々堂々戦って、カスオのカスさ加減を見てもらえれば、彼らも完全に吹っ切れると思いまして……」

「あの様子を見ると、もう吹っ切れてそうじゃがのぅ」


 ふと、後ろを見ると、先ほどの静かな態度から一変し、カスオ達のいる廃村に中指を向けるゴリさんやゴブサワさんがいた。


「それに、油断は禁物じゃよ。絶対勝てる勝負はないからのぅ。それこそ『傲慢』じゃよ」

「……そうですね。御指摘ありがとうございます。女神様の奴隷という立場に少し酔ってたのかもしれません」


 ユキは、しばらく考え込んでから、深々と頭を下げた。


「ほほ、すぐに反省出来るのは良いことじゃ」


 テンカピは、自分の毛を一房抜いて、ユキに渡す。


「偉いお主にこれをやろう。まぁ、餞別みたいなものじゃ。神獣の毛じゃから、売れば大儲けじゃよ」


 渡された毛は、見た目に反してひんやりと柔らかく、どこか白檀のような香りがした。


「……そんな貴重なものは、売りませんよ。お守り代わりにさせていただきます」


 ユキは、テンカピの毛をハンカチに挟み、大切にポケットにしまう。


「それでは、行ってきます。雪華さん、道案内よろしくお願いします」

「分かりました!『天竺鼠』様、行ってきますわん!」


「では、雪華さん。嫌かもしれませんが、少しお手をお借りしても?」

「え!?奴隷様、いきなりどうしたんですか!?もしかして、戦いの前に高ぶって……?そんな急に……」


 耳をピンと立て、尻尾をぱたぱたと落ち着きなく揺らしながら、雪華は真っ赤な顔でおろおろした。


「落ち着いてください、雪華さん。隠蔽スキルを使うためですよ。同時にかけるので、この後の会話は、小声でお願いします」

「え……あ、なるほど!失礼しましたわん。では、よろしくお願いしますわん」


 雪華と手を繋ぐと、ユキはスキルを発動する。


【女神の奴隷:抜き打ち監査】


 ユキたちの気配が消えたことで、中指を立てるのをやめて、キョロキョロするゴブサワさん達。


「凄いですね!気配に敏感な魔物たちが、完全に見失ってますわん」


「すいません……スキルの性質上、手を離すと解除されてしまうので。嫌だとは思いますが、鳳凰さん救出までは我慢してくださいね」

「大丈夫です!女神様の奴隷様とのお散歩ですね!」

「そうですね。では、行きましょう」


――セクハラで訴えられる恐れがないことに、安堵するユキであった。



――その頃の神界――

 手作りお弁当を食べ終え、ゆったりとソファーでくつろいでいたはずのセツナは、いつの間にかテレビの目と鼻の先にかじりついていた。


「セツナ。画面が見えないので、こちらに戻ってきてください」


 ソファーに深く腰掛けたアテナが、自分の隣をぽんぽんと優しく叩いた。

 セツナは、渋々とテレビから離れ、ソファーに座り直した。


「いくら、自分の執事が異性と手を繋いだからって、そんな顔はしないでください」

「……別に気にしてないですよ。相手はまだ子供ですし、ユキはおじさんですからね。まぁ、ユキが優しくても、そんな年の離れた子から好かれるとは思ってないですし、せいぜい頼りがいのあるおじさん程度だとは思いますが、というか【抜き打ち監査】は手を触れないといけない制約があるんですから、そもそも『狼人娘』を連れて行かなければ、手を繋ぐ必要もなかったと言いますか、いやまず語尾に『わん』をつけるとか――」


 早口で捲し立てるセツナの顔に、アテナは抱きかかえていたクッションを押し付けた。


「もがっ!?……もがもががもが」


 クッションの下から、言い訳を続けるセツナ。


「ほら、よく見てください、あなたの執事を。喜ぶどころか何かに怯えるような顔をしているではないですか」


 クッションをどかし、セツナはユキの表情を確認した。そこには、ポーカーフェイスを貫きながらも、いつでも言い訳と土下座に移れるようにしているユキが映っていた。


「……失礼しました。少し取り乱してしまいました」


 セツナは、クッションを抱きしめ、アテナの肩に頭を預けた。


「ふふ、もっと自分の執事を信じてあげてください。画面越しとはいえ、ヴィーナスにも顔色ひとつ変えなかったのなら大丈夫ですよ」

「そうですね。まぁ、今後何かに反応したら、彼のエクスカリバーは粉々になるだけですが」

「あなたはまたそんなことを……」


 セツナは何食わぬ顔で、机に置いていたタブレットを手に取り、画面を数回タップした。

 直後――アテナのタブレットから、通知音が鳴り響く。


「あら、誰でしょうか?」


 首を傾げながら新着メールを開くと、送信者の欄には『セツナ』とあった。

 なぜ隣にいるのに、わざわざメールを送ってくるのか。不審に思いながら本文に目を通す。


『討伐依頼:女神の執事と仲良くし、語尾に「わん」を付け始めたあざとい「狼人娘」』


「……セツナ、少しお話があるのですがいいでしょうか?」

「……冗談ですよ、冗談。あ、最近高級なお茶を購入したので、淹れてきますね」


 セツナはアテナの肩からぱっと頭を離し、そそくさと台所に逃げるのであった。

第3章『最テイ』編は、10/23(金)21:10の投稿をもって完結となります。

残るところあと少しですが、最後まで楽しんでいただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。