第35.5話:第2回 美魔女のサバサバト
時計の長針と短針が0に重なるとき、BANされたはずのあのチャンネルが甦る。
「夜更かししている悪い子たち、真夜中の世界にようこそ♪凛凛と響くは鈴の音、大人気・秒でBANされる『美魔女のサバサバト』の主のリリスよ♪」
「皆さんこんばんはぶひ。また会えてうれしいぶひ。『豚足』のイノシシこと七光 流星ですぶひ」
「みんな、こんばんは!また会えて嬉しいぜ。『神罰』を受けたカイザーだ!これでも、自分の世界をクリアした主人公なんだぜ!」
「あら、カイザー(笑)?急にどうしたのかしら?♪」
カイザーは、リリスの質問には答えず、鎖をジャラリと鳴らして七光の耳に口を近づけ、ぼそぼそと呟いた。
「なになに、『エクスカリバーの敵は、皆自分の世界をクリアしていないから、そこをアピールポイントにしようかと思っている』とのことぶひ」
「通訳ありがとう、七光♪まぁ、それは確かにね♪というか、自分の世界をクリアしたうえで、他の世界に乗り込むことは非常に珍しいわよ♪」
カイザーは、決してリリスとは目を合わせず、再び七光の耳元に近づこうとした――その瞬間。
イラついたリリスのビンタが炸裂した。
「自分の口で喋ってくれないかしら♪」
カイザーは椅子とともに倒れ、鎖をジャラジャラさせながら叫んだ。
「だって、俺が喋るとイジってばかりじゃないか!!前回だって質問させてくれなかったし!」
――カイザーは今にも泣きだしそうな顔をした。
カイザーの表情を見て、リリスと七光は顔を合わせた。
七光が居心地悪そうに謝ろうとすると、リリスがそれを制し、倒れたカイザーの椅子を戻しながら耳元でボソッと呟いた。
「カイザー、非常に言いにくいんだけど……」
椅子を戻してもらい、上目遣いでリリスを見つめるカイザー。
しかしリリスは、どこからか一冊の本を取り出した。
本のタイトルは――
『押して駄目なら引いてみろ!遠回しの甘え方全集♡』。
「前回の収録が終わったあと、あなたがこれをコッソリ読んでいたことを私は知っているわよ♪」
カイザーは羞恥で顔を真っ赤にし、机に頭を叩きつけた。
「もう殺してくれぇぇぇ!!どうして知っているんだ!誰にもバレないように、こっそり拝借したはずなのに!!」
隣に座る七光は、カイザーに哀れみの目を向けた。
「……カイザー殿。ここはリリス様の領域ですぶひ。多分何をしても筒抜けぶひよ」
「その通りよ♪まぁ、模擬人格なのだし、私の温情で存在できているんだから、そこは諦めることね♪」
「なんだと!!クソッ……こうなったら奥の手だ!」
カイザーは顔を上げ、目をうるうるさせながら再び上目遣いをした。
「美人で素敵で黒が似合う、最高の女神リリス様。どうか――」
「私に嘘はつかないでえぇぇぇぇぇ♪」
リリスは嬉々として、もう片方の頬に容赦ないビンタをかました。
カイザーは、鎖の音を響かせながら椅子ごと綺麗に吹き飛んだ。
放物線を描くカイザーを見て、七光はさすがにツッコんだ。
「リリス様!?さすがに理不尽すぎませんかぶひ!?カイザー殿は褒めていましたぶひよ!?」
「最近V Tubeで見たドラマでやっていたから、これは振りなのかと思ったのよ♪」
カイザーは、何事もなかったかのように、ゆったりと椅子ごと起き上がった。
「カイザー殿!大丈夫ですかぶひ!?」
「ああ!実に満足だ!俺もあのドラマを見て、いつかこれをやりたいと思っていたんだ!」
七光は凄い勢いで叩かれたはずの彼の頬が、まったく腫れていないことに気づいた。
リリスは七光の様子に気づき、妖しく微笑んだ。
「あなたたちは、既に『罰』を受けた後の人格なのよ♪『罪』を清算した者を無暗に痛めつけるわけないじゃない♪」
部屋の片隅から、眠気に負けそうなハデスがそっとフリップを掲げた。
――
痛覚は、オフにしてあります。
――
「……」
カイザーは、絶句する七光に向かって肩をすくめ、苦笑いした。
「黒魔女はこういうやつだ!気にしたら負けだぞ!!まぁ、俺の心は常に痛めつけられているけどな……」
「……そういえば、カイザー殿はリリス様から『拡大解釈』について教えてもらったという話でしたぶひね」
「そうよ♪でも、私の期待を裏切って違う方向に進んでしまったから、すぐに放置したんだけどね♪」
「しょうがないじゃないか!俺は、常に『主人公』でいたかったんだ!」
「カイザー殿は、『主人公』にこだわりがあるぶひか?」
「それはそうだ!七光、お前も転生直後に、『俺はなろうの主人公だぁ』とか叫んでいただろう!」
――綺麗な七光は視線を宙に漂わせて、豚に戻った。
「ぶひぃ、ぶひぶひぶぅぶぅ……ちょっと何言っているか理解できませんぶひ」
「2人とも男の子なのね(笑)それなら、次回の企画はこれにしましょう♪」
うつらうつらしていたハデスは、急いで立ち上がりフリップを持ち上げた。
――
どちらが真の主人公か!男と男の2回勝負!
~スキルあり、拡大解釈あり、そしてポロリもあるかもよ♪~
――
フリップを見て、カイザーと七光は同時に叫んだ。
「絶対需要は無いけどね!!」
「うるさいわね♪どうせBANされるんだから、面白ければいいのよ♪」
「そんな身も蓋も無いことを……ぶひ」
「まぁいいじゃないか、七光!どちらがより『主人公』に近いのか、ここで白黒つけようではないか!!」
「どうしてそんなに嬉しそうなんですかぶひ……」
「まさか、こんな『主人公』みたいな展開になるとは思っていなくてな!」
「じゃあ、簡単にそれぞれのスキルを紹介するわよ♪」
ハデスが手際よく次のフリップを掲げる。
――
七光 流星
スキル:巨大化
自傷:カイザー・エンペラー、本名:凡田 太郎
スキル:生成
――
「ちょっと待て!?俺の名前の前、誤字じゃないか!自称であって、自傷ではないぞ!」
「誰にでもミスはあるものよ♪ほら、ハデスを見なさい♪」
ハデスは拳を頭の横に当て、可愛くテヘペロ顔をした。
カイザーはそっとハデスから目をそらして、フリップを見た。
「それにしても、こう見ると俺の方が有利ではないか?『生成』で生み出した様々なスキルを使える俺に対し、七光は『巨大化』のみではないか」
「拙者、気になっていたのですが『生成』で生み出されたスキルは、他のチートスキルと同等なのですかぶひ?」
「そんなことないわよ♪例えるなら、【女神の権能】は大樹の『幹』であり、転生者に与えられるチートスキルは『枝』に該当するわ♪そして、スキルから生み出す二次的なスキルは『葉』という感じかしらね♪」
「おい、黒魔女!それを言っては駄目だろ!俺の数々のスキルが、安っぽくなってしまうじゃないか!」
七光は眼鏡の奥の目を光らせた。
「そういうことぶひね。それなら拙者にも勝機はあるぶひ。早く戻って、作戦を練らなければぶひ。」
「ははは、いいだろう!その挑発、受けて立とう!このカイザー・エンペラーの名に懸けて、いざ勝負といこうじゃないか」
「2人ともやる気十分ね♪じゃあ視聴者の皆さん、またいつかの真夜中に会いましょう♪」
――
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