第29話:最テイな、世界です
暗転を経て映し出されたのは、どこまでも真っ白な背景であった。
画面の端から、適当に書かれた1体の棒人間が歩いてくる。棒人間は、画面の中心で止まり、棒立ちのまま話し始めた。
セツナとユキは、無言のまま顔を見合わせた。
「俺の名前は『カス山 カスオ』!チートスキルは【テイム】だ」
棒人間が名乗りを上げると、画面の上から『カスオ』と書かれた文字が、スライドインした。
カスオは、そのまま語り続ける。
「異世界に転生した俺は、様々なモンスターと、3人の獣人娘をテイムして、魔王を討伐するはずだったんだが……。1人目の『鳥人娘』と2人目の『猿人娘』をテイムした時点であることに気付いちまったんだ!」
――ユキは、我慢できず、リモコンの停止ボタンを押した。
「……セツナ様、何からお聞きすればいいのか……」
セツナは困り顔で答えた。
「……た、多分、動画のマンネリ防止よ。ほら、毎回同じだと飽きちゃうでしょ?」
「……転生者の名前が『カス山 カスオ』なのですが……」
「……きっと、キラキラネームみたいなものよ」
「……」
「……無理やりにでも飲み込むのよ。とりあえず、最後まで見ましょう!」
彼女の半ば強引な促しにより、ユキは消化不良のまま、再生ボタンを押した。
――
「何に気が付いたかだって?それは、獣人娘の御神である『神獣』をテイムし、その素材を売買すれば、強い武器も作れて、お金も儲けられるということにさ!」
棒人間の横に、背中に羽の生えた新たな棒人間が現れる。
「さすが、カスオ様!天才ぴよ!」
さらに隣から、お尻に尻尾を生やした棒人間が現れる。
「やっぱり、『主人公』は目の付け所が違ううき~!」
「ふふ、そうだろう、そうだろう。では、さっそく鳥人娘よ、君たちの一族の御神である『鳳凰』を呼び出してくれ。この『魔道具』を用いて手筈通りにやれば余裕さ!」
「任せてぴよ~!カスオ様のためなら、嘘をついても『鳳凰』様は許してくれるぴよ~!」
――
そこで、手書き風アニメ映像は終わり、再びヴィーナス達がいるスタジオに切り替わった。
スタジオの空気は、放送事故が起きた後のように凍り付いている。
ヴィーナスは、ジト目でアルテミスを睨みつけた。
「ねぇ……、私、ちゃんとした動画を渡したわよね?」
「ええ、もちろんよ〜。でも、編集のために見ていたら、あまりにも腹が立ってしまって……壊してしまったのよ〜!」
その言葉に、ヴィーナスは一瞬言葉を失い、ぐらりとよろめいた。頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
「言ってくれれば、バックアップがあったのよ!」
「あら、そうだったのね~。でも、頑張って手書きしたんですよ〜」
後方で、ドラムスティックを構えていたトトは、オチのドラムを叩こうとしたが……
空気を読み、色々と諦めたような顔をして、アルテミスの隣に並びカメラに向かって補足を挟む。
「ちなみに、転生者の名前は、カス山 カスオではありませんので、ご注意ください」
「あれ〜、そうでしたっけ〜?ゴミ山 ゴミオでしたっけ〜?可燃物なら燃やしてもいいでしょうか~?」
崩れ落ちていたヴィーナスが、ゆっくりと立ち上がり、まるで舞台女優のような身振りで叫んだ。
「アルテミス、落ち着くのよ!もし、あなたが『罰』を与えられない場合は、討伐依頼をすることになるの!そのためにも、せめて相手のスキルなどは、正確に伝えないと、『神獣』が解放されないのよ!」
「それは困るわね〜。では、こちら、カス山 カスオとその取り巻きのスキルになります〜」
アルテミスはどこからか取り出したフリップに、達筆な文字でカス山たちのステータスを書いた。
――
カス山 カスオ
【スキル名:テイム:効果:相手が同意をした場合に、自分の庇護下におく】
頭空っぽの鳥人娘
【スキル名:鳳凰の加護:効果:炎を操る。ただし、『鳳凰』の状態が不安定なため、現在は使用不可】
自分で判断できない猿人娘
【スキル名:雷猿の加護:効果:雷を操る。ただし、現在は『鳳凰』の現状を知った『雷猿』側にパスを閉ざされたため、使用不可】
――
動画の途中ではあったが、消化不良どころか胃もたれになったユキは、一時停止し、セツナに話しかけようと横を見た。
セツナは、ソファーから崩れ落ち、力なく床へ倒れこんでいた。
その姿に、ユキは一瞬、心配と困惑の入り混じった顔をした。
「どうしたんですか、セツナ様!?」
驚いて隣に屈むユキに、セツナは床に倒れたまま消え入りそうな声で呟いた。
「このままだと、私の『鳳凰毛』の毛布が……」
「……コーヒーのおかわりを入れてきますね」
「……ありがとう」
ユキがキッチンへ向かい、温かいコーヒーをカップに注いで戻ってくると、セツナは既に立ち直り、ソファーに座っていた。
「ユキ、今回の任務の重要性がさらに増したわ!最速で、『最テイ』のカス山を討伐するのよ!」
「もう、ただの悪口ですね……。任せてください、セツナ様。では、続きを再生しますね」
――
画面の中で、手書きのステータスを見つめていたヴィーナスは首を傾げた。
「あれ?テイマーなのに、魔物や動物は仲間にいないんですか?」
「これはですね、おそらくテイムを解放したのですよ」
トトは、隣で物騒な気配を纏うアルテミスが何かを言う前に、早口で答えた。
「え!?せっかくテイムをしたのに、解放しちゃったんですか!」
さらに説明しようと口を開く前に、トトの前に身を乗り出したアルテミスが話し出す。
「カス山は、猿人娘をテイムした時点で、『俺の周りには女以外が存在するのは許せない』と言って、『獣人娘』2人以外の仲間を捨てたんですよ〜。これまで一緒に戦って来た仲間をそんな理由で捨てるなんて、『罰』が必要ですよね〜、もががが」
「アルテミス、落ち着いて!トト様がしょんぼりしているわ!」
ヴィーナスは後ろからアルテミスの口を力ずくで押さえつけながら、なんとか進行を続けようとトトへ振る。アルテミスは、くぐもった声を上げてもがいた。
「な、仲間が2人、しかもスキルが使えないこの状況をトト様はどう思いますか?」
トトは、ようやく落ち着いて解説ができると、嬉しそうな表情をした。
「まさに『最低』の状況ですね。本来のテイマーは、基礎能力が低い一方で、テイムした魔物の特徴やスキルを自分も使えるようになるのです。そして、仲間達が、テイムした主人を思う優しさが『拡大解釈』により、覚醒するはずなのです」
「つ、つまり!現状のテイムはスキルが封じられている2人だけという状況のカス山は、ただのカスと言うことですね!」
「そう捉えていただいて、問題ありません。ただ、獣人は身体能力も優れていますので、カス山も多少恩恵を受けている可能性があります」
無事に解説をして、満足げなトト。
次の瞬間、後方でヴィーナスを返り討ちにしたアルテミスが、満足げな笑みでトトを押しのけ、カメラにアップで映し出される。
「なるほど〜!今なら、ほぼノーリスクでカス山を討伐できるということですね〜。この前動画で、転生者にしては珍しく、動物にも優しい子を見たので、お願いをしてみようかしら〜」
トトは床に倒れているヴィーナスを一瞥し、悟ったような顔をして会話を引き継いだ。
「これは、『エクスカリバー』の出番かもしれませんね」
「そうと決まれば、『エクスカリバー』への依頼先を確認しなくちゃね〜。ヴィーナス、何寝てるの〜。早く依頼をしに行きますよ~!」
アルテミスに引きずられて画面の外へ消えていくヴィーナス。それを見送ったトトは、静かにカメラに向き直った。
「……本日は、これで終わりとなります。もし、面白いと思った方や、ヴィーナスが心配と言う方がいたら、ぜひチャンネル登録をお願いします」
――
セツナはリモコンを操作し、テレビの電源を切った。
画面の明かりが消え、静まり返ったリビングに、ユキのため息が落ちる。
「セツナ様……」
「ユキ……あなたの言いたい事は分かるわ。でもね、大人には、黙って飲み込まないといけないこともあるのよ」
彼女は起き上がり、ユキの方をポンポンと叩いた。
「そういう話でもない気が……」
「いいのよ!いくらここで議論してもしょうがないわ!事件は現場で起きているのよ!」
恐らく誰も答えを持っていないことを悟り、ユキは冷めたコーヒーを一口飲んだ。
「……分かりました。ちなみに作り置きは、何日分作っておきますか?」
「そうねぇ、あなたが出発する日は、いらないから、1日分で大丈夫よ」
「珍しいですね。お出掛けでもされるのですか?」
「違うわよ。知人が家に来るの」
「……そうなんですね」
ユキは、わずかに視線を逸らしながら答えた。
どこか素っ気ないユキの返答に、セツナは悪戯な笑みを浮かべた。
「あら、いつもより歯切れが悪いわねぇ。もしかして、知人のことが気になるのかしら?」
「執事として、そこまで出過ぎた事は聞けませんよ」
「あんたも可愛げが無いわね。心配しなくても、上司の女神よ。だから、その変な作り笑いをやめなさい」
「……別に気にしてませんよ」
「そういうことにしといてあげるわ。じゃあ、作り置きが終わったら、作戦会議よ〜!」




