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第28話:印象が、かわります

 昼食を終えた机の上で、淹れたてのコーヒーから白い湯気がふわりと立ち上っている。

 ユキは筆記具を用意し、セツナは、どこからか取り出した眼鏡を掛けていた。

 セツナは、片手で眼鏡をクイクイしながら、リモコンを操作し、討伐対象のV Tubeを探しつつ、期待するようにチラチラとユキの様子を窺う。


――ユキは、『眼鏡クイ』を無視した。


――セツナは、つまらなそうに、ユキに眼鏡を掛けた。


「あったわ、これよこれ!」


 掛けられた眼鏡の存在を完全に無視して、画面に目を向けたユキ。しかし急に眼鏡が輝き、光の粒子となって消えていった。

 光の眩しさに、反射的にぎゅっと目を閉じる。


「眩しっ!?」

「眼鏡姿を褒めないから、バチが当たったのよ」

「……眼鏡姿のセツナ様も素敵です」

「最初から、そう言えばいいのよ」


 眩しさに閉じていた目を開けたユキは、画面に映し出されたタイトルに視線を向けた。


『最弱職テイマーの成り上がり!〜獣人ハーレムで下剋上〜』


 ユキは小さく肩をすくめた。


「……また、いかにもなテンプレタイトルですね」

「あんたたちの世界では、昔から小さなボールを投げて、モンスターをテイムするゲームが流行ってるじゃない」


 ユキは一瞬納得しかけて、慌てて頭を横に振った。


「いやいや、モンスターはそうですが、人は捕まえちゃ駄目ですよ……」

「『エクスカリバー』教の信者も、女神様にテイムされた豚のシャツを着てるわよね」

「……そんな宗教は知りません。あと、あのシャツは、セツナ様のせいですからね」

「さぁ、早く動画を見ましょ!このシリーズの最新動画を見れば、今回の経緯も全て分かるらしいわ!」


 セツナは、ジト目を向けてくるユキを無視して、リモコンを操作する。


「これよ、これ!」


 画面に表示されたのは、投稿されたばかりの最新動画のサムネイルだった。


――


『【緊急速報:最低テイマー、神獣を捕獲!?】最弱職テイマーの成り上がり!〜獣人ハーレムで下剋上〜』

視聴回数:23万回 投稿日:一昨日


――


「アルテミス様の依頼で、ヴィーナス様が急いで準備したらしいわよ。この動画で、首謀者を炎上させて、自分が直接罰を与えるためにね」


 ユキは、まだ見ぬ女神の過激さに少しだけ及び腰になった。


「……なかなか過激な方なのですね。ですが、僕たちに討伐依頼を出されたということは、ご本人の降臨許可は下りなかったのですね」

「今は『神獣』が自力で結界を張って、テイムに抵抗しているの。だから、まだ最悪の事態には至ってないためね」

「なるほど。疑わしきは罰せよ、という訳でもないのですね」

「ある程度は、その世界の自浄作用に任せるの。神が出るのは度を越した場合のみよ。……さぁ、とにかく見ましょう!」


 セツナが再生ボタンを押すと、スピーカーから聞き慣れた明るい声が響く。


「みなさ〜ん、こんにちは!今日の動画は緊急で回してま〜す!Velocity(速度)最優先の1Vよ~!というわけで、ヴィーナスちゃんねるへようこそ!内容は、最弱職テイマーの成り上がり!〜獣人ハーレムで下剋上〜略して『最テイ』の世界で前代未聞の事態が発生したのです!」

「今日は、何と!トト様とともに、特別ゲストも来ています。それでは、特別ゲストの登場です!」


 ヴィーナスの隣に立つトトは、後方に移動し、セットされたドラムをリズムよく叩き始めた。


「ドゥルルルルル……ダン」


 ド派手な効果音とともに画面中央に現れたのは、深い緑を基調とした着物を優雅に羽織った、銀髪の女神であった。


「皆さ〜ん、こんにちは〜!ご紹介に預かりました、アルテミスです〜」


 セツナとユキは、思わず身を乗り出して画面に見入った。


「特別ゲストの、アルテミスよ~!それにしても、驚いたわ!会議にも出ないあなたが、動画の撮影に参加してくれるなんて!」

「ごめんね〜。会議にも出たいんだけど……『神獣』達と遊んでいたら、あっという間に時間が過ぎちゃって〜」

「アテナが聞いたら、きっとこう言うわよ!


 ヴィーナスは、発声練習をして声の調子を整えてから、真面目そうな表情を作る。


「『アルテミス、聞いてください。動画よりも大切なことがあると思うのですが、あなたはそれが何だか分かりますか』ってね!」


 アルテミスは口元に笑みを浮かべた。


「昔はそうだったけどね~。最近は、『アルテミス、あなたは私と同じ意見ということで手続きをしておきますね。私は決して責任は負いませんが、異論があれば会議に出てくださいね』って感じよ~。まぁ、私はアテナを信頼しているから、気にしないんだけどね~」


「前に、それに対して文句を言った神がいたんだけど、アテナが『では、あなたが責任を持ってアルテミスを連れてくるまで、あなたの権能・権限は停止ということでよろしいでしょうか』と言ったとたん、誰も異議を唱えなくなったわよ!」

「さすがアテナよ~!かっこいい~!」


 画面の中では、ヴィーナスとアルテミスが身を乗り出して楽しげに掛け合いを繰り広げている。


「話を戻すけど、今回は特別よ〜。『神獣』をテイムしようとしてるのよ!画面の外のみんな〜、もしこの動画を見て、テイマーに『罰』を与えるべきと思ったら、ぜひ、いいねをお願いね〜。私直々に出向くため、ぜひご協力をよろしく〜!」

「……あなた、その目的のために、来たわね!」

「うふふ、何のことでしょ〜う?」

「ちなみに、直々に『罰』を与えられるなら、何をするつもりなの?」


 ふわふわした笑顔のまま、アルテミスは首をかしげて口を開いた。


「そうね〜。意識を持たせたまま、りんごの木にしちゃおうかな〜。自分の意思に関係なく、搾取される側の気持ちを味わってもらいましょ〜!」


 画面の端で、ヴィーナスとトトの表情が、一瞬引きつった。

 あまりに恐ろしい罰に、ユキは思わずリモコンに手を伸ばし、慌てて動画を停止した。


「セツナ様……これ僕が失敗した場合、NPCどころか、彼らと並べられて木にされたりしませんよね……?」


 震える声で尋ねるユキに、セツナは安心させるように答える。


「大丈夫よ。失敗は『罪』じゃないから、『罰』の対象にならないわ」


 まだ不安そうなユキの顔を見て、セツナは彼の膝に足を乗せるようにして、ソファーへゴロンと寝転がった。


「要するに、ガキ大将を懲らしめるには、同じ目に合わせないとってことね」


 ユキは、コーヒーを一口飲み、ホッと胸を撫で下ろした。


「それなら安心です。神界の方針は、何度聞いても良いですよね」

「まぁ、反省しても、もう遅いんだけどね」

「チート能力を持つ主人公と、本来なら歯止めになるはずのヒロインが一緒になって悪事を働いていたら、現地の人では誰も止まられませんよね……」

「そういうことね。さぁ、続きを見るわよ!」


 セツナがリモコンを操作し、動画が再開する。

 ヴィーナスとアルテミスの後方でスティック回しを披露していたトトが、咳払いをしてから『罰』に関して、解説を始めた。


「ちなみに、神が直接『罰』を下すためには、転生者が自分の世界以外へ害を及ぼすか、最低でも、神獣をテイムだけでなく、再起不能にすることが条件になりますよ」


 その言葉を聞いた瞬間、アルテミスはトトを睨みつける。


「それでは、遅いのよ〜。今!助けが必要なんだから!なので、いいねをたくさんもらえたら、私から『罰』の陳情を行うわよ〜」


「……」


――トトは思った。いいねの数で、『罰』の有無は決まらないと。しかし、先ほどの視線を思い出し、黙ることにした。


「さぁ、では、いよいよテイマーの悪逆の公開です!今回の動画は、緊急で撮影したものを、アルテミスが徹夜で編集してくれたの!実は、私も初見なのよ!」

「ふふ、皆に楽しんでもらえるように頑張ったから、ドキドキしちゃうわ〜」

「それでは、ご覧ください!」


 画面が暗転し、映し出されたのは――

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