第3話:業務内容は、不透明です
翌朝。
男は目を覚まし、昨日のことが夢ではなかったことを再認識する。
(……夢なら覚めてほしかった。まぁ、ぐっすり眠れたし、前職に比べたらまだましか)
――男の精神は、だいぶすさんでいた。
そして、女神が生み出した服に身支度を整えていると、女神の声が聞こえた。
「おーい、執事。起きたなら、朝食の準備お願い」
リビングへ向かうと、彼女はすでにソファーで寛いでいた。相変わらず、だらしない部屋着姿である。
部屋着には、毛がもこもこの羊がプリントされていた。
「おはようございます。少々お待ちください」
「おはよう。さぁ、朝食の準備をお願い。パンがあるから、焼いてちょうだい。あぁ、スキルの使用に生命力を消費するから、あんたも食べておきなさい」
「え……それはどういう?」
「食べながら説明するから、早くぅ」
【女神の奴隷:オーブン召喚】
しょうがなくスキルでオーブンを出し、パンを焼いて食事の準備をする。
(これにも生命力を使用しているのだろうか)
内心冷や汗をかきつつ、2人で朝食を囲み、ちょうど食べ終えた頃、男は昨日から気になっていたことを、ようやく口にした。
「女神様、そろそろスキルの説明をお願いします。無駄に万能だし、生命力を消費するとはどういうことですか」
女神は寝ぼけ眼のまま、口をもごもごしながら答えた。
「むしゃ、むしゃむしゃもぐもぐ、ごくん」
――一晩ぐっすり眠ったおかげで、男の堪忍袋は大きくなっていた。
「あぁ、それ?私のためになるなら、大体なんでもできるスキルよ。女神の威光を少し分けて、知ってるものなら、生み出せるし、基礎能力も限界突破。下界のチート民なら指一本で捻り潰せるわよ」
「……規模が大きすぎるんですが」
「要するに(もぐもぐ)『ふぁたしの代理人』としての権能よ」
女神はあくびをしながら、けろっと言ってのけた。物騒な話のはずなのに、あまりにあっさりした口調のせいで、実感が湧かない。
「ちなみにデメリットは私の命令には絶対服従なのと、使用には生命力を消費することよ」
「……生命力の消費とは?」
「そのままの意味よ。通常は、食べて寝れば回復する程度よ。ただし、使いすぎたり、スケールの大きいことをすると、最悪消滅するわ」
「それは本当ですか」
冗談だと笑い飛ばしてほしかったが、女神の目は真剣だった。命がけの労働――前職でも命を燃やしながら働いていたが、まさか本当に命を燃やすことになろうとは。
――男は、炎系の技は使わないことを、ひそかに誓った。
「えぇ。だからあまりそれに頼りすぎちゃ駄目よ。あなたは執事として、私の面倒を見る義務があるのだから。自力でやりなさい、自力で」
話はこれで終わりというように、
「さ、まずは食器洗いをよろしくね」
「かしこまりました」
男は食器を片付けていると、女神はふと思い出したように言った。
「そうだ、今日の午後は鍛練よ、鍛練」
「……はい?」
「え~と誰だっけ、『アレ』」
女神はどこからか本を取り出し、お目当てのページを開くと
「そうそう、18546番。あなたには、『アレ』の討伐に行ってもらうから、頑張りましょうね」
「……業務内容に討伐もあるんですか!?」
「それが神界というところよ」
そう言うと、女神はソファーで寝返りを打ち、興味を失ったようにテレビを点けた。
男は食器を持ったまま、しばらくその背中を見つめていた。
――18546番。昨日聞いた、豚にされた者の番号だ。
詳しく聞きたい衝動が喉元まで出かかったが、すぐに飲み込んだ。前の会社でも、経緯を尋ねるたびに「いいから、今はそれより」と話を逸らされた経験を思い出す。
男は小さく息を吐き、気を取り直して食器を洗い始めた。
昨日からの急な展開にも若干慣れつつ、
――そういえば、誰かと一緒にご飯を食べたのはいつ以来だろうと、思っていると、
ドスンと大きな音が響いて、驚いて振り向くと……ソファーから落ちた女神がそこにはいた。
少し紅潮した頬に、男は妙に懐かしいような感覚に襲われた。その姿に目を離せずにいると、女神が一瞬で部屋着を着替えてきた。そこには、毛を刈られ、悲しげな表情をした羊がプリントされていた。
――男は、毛を刈られないため、黙って食器洗いに戻った。
明日の投稿スケジュールは下記のとおりです。
・9/11(金)2話投稿(12:10、21:10)
それ以降、完結まで毎日1話21:10に投稿となります。




